作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㉕
8グループで120ヶ所ってことは、1グループ辺り15ヶ所も設置してくれたってことじゃん。
このペースを維持できたら9日間で目標1000ヶ所のワナ設置を達成出来ちゃうよね。
下手すると設置作業終了まで2週間ぐらい掛かるかも、と、考えていたから、嬉しい誤算だよ。
やりたいこと、やるべきことが積み上がってて追われ気味だったから、素直に嬉しい。
ただでさえキャパオーバー気味だったのに、カリーク公王国のお馬鹿さんたちが余計な仕事を増やしてくれそうだしね。
長期タスクはどうしようもなくとも、短期タスクの前倒しには有効だ。
「・・・うふふふふえっへっへっへっへ」
「ちょっとフィオレ! 気持ち悪いわよ!?」
酷い言われようだけど、それどころじゃないんだよ。
「・・・ええ~? だってさあ、時間に余裕が出来れば、他のこともできるじゃん」
「ええ~? また、何する気?」
「・・・いやいや。積み上がった宿題を消化するだけだよ」
おっと。ジト目が飛んできたぞ?
冷静になってきちゃったよ。
「本当にぃ~?」
「ホント、ホント。本当でござるよ~?」
信用無いな、私!
短期タスクの上位から片付けていくとして、取り急ぎ、ジアンさんの特訓でもするか。
ジアンさんが魔力の手を習得すればピーシーズ増員タスクは丸投げで勝手に進むし、血を飲み始めたから集中的に強化を進めたい。
情報交換のためか猟師さんと話し込んでいたメリーナさんが、話を終えて戻ってくる。
「フィオレ様。納品しに行っていた荷馬車が戻って来ているそうです」
「・・・もう撤収が可能ってことで良いかな?」
「はい」
報告の意図を確認するとメリーナさんが頷く。
「・・・じゃあ、撤収準備で」
「もう良いのか?」
目一杯の時間まで採掘場で粘ると思ってたのかな?
お母様の目が「お前、何する気?」と言っている気がする。
本当に私、信用無いな!
思えば、今日、慰霊碑を建てたのも、水鉄砲を作ろうと決めたのも、竹の移植を決めたのも、私の思い付きだった。
セリーナ様を振り回しているとカレリーヌ様に指摘されたのも、私の思い付きを相談して巻き込んだのが原因だろうから、またしても私は、やらかしていることになるのか。
ここは一つ、意図を明らかにして信用回復を図るべき?
「・・・森の外にバンブーの木を移植したいのと、ワナに掛かったバンダースナッチの回収作業に向けて作っておきたい道具が有るんだよ」
「道具とは?」
「・・・水鉄砲」
聞き慣れない単語だったんだろうね。
お母様の首が微妙に傾いている。
こっちの世界に来てから私も鉄砲の類いを見た記憶が無いし、鉄砲に近いものといえば城壁の上に据える 弩(おおゆみ) か、ワイバーン討伐にも使うというカタパルトぐらいしか聞いた覚えが無い。
どちらも矢玉を遠距離投射する武器では有るけど、内圧を利用する鉄砲とは根底的な原理が少し違う。
火薬が発明されていないなら鉄砲は発明されていないだろうし、火魔法が有るのに火薬の発明へ繋がる科学技術発展の土壌は無かったのだろう。
だって、古代中国で黒色火薬が発明された頃の兵器利用方法って 火槍(かそう) や 火箭(かせん) で、要は槍や矢の先に取り付けたデッカい爆竹やロケット花火だよ。
「敵に近付かずに遠くの敵を攻撃したい」というモチベから発想するに至ったので有ろうことは明らかで、そんなの、火魔法で攻撃した方が遙かに早い。
私の言う鉄砲と呼べるものは、13世紀に入って先込め式のマスケット銃が発明されるまで発明されなかったものだし、こっちの世界で鉄砲に行き着く技術発展は、しないんじゃないかな。
あの破壊と殺戮に明け暮れた地球文明でも、火薬の発明から鉄砲の発明まで600年間も掛かっている。
それに対して魔法の発達は、原理を知ってイメージさえ辿り着けば、一瞬で発達することが有り得る。
遠距離攻撃武器に行き着くにしても、魔法技術に寄った、もっと別の形になるんじゃないかと予想する。
もちろん、その600年間の間に大砲は発達し続けたんだけどね。
いま現在でも他民族や異教徒を蹂躙しようと争っている地域の人々が、無限とも言える執念を燃やして武器の歴史を発展させ続けた。
昔の勇者さんの「準備砲撃」が理解されなかったのも、「砲」、つまり、「鉄砲」が、こっちの世界に存在しないことが大きな要因だったのだろうし、知識人のお母様でも鉄砲の実物を知らない可能性が高い。