作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㉔
「・・・北西の反対側は南東か。セーフだな」
セーフだとしよう。
じゃあ、このままの向きで建てるとして、位置を決めてしまえ。
ルナリアたちに正対した横線を地面に引こうとして、すでに土を固めた後だと気付く。
小枝の先は石のように固く締まった地表を滑るだけで、何の目印も付けられそうに無い。
「・・・失敗した」
くっそぅ。工程管理が甘いぞ。
歩きながら何本も小枝を拾って、線を引くつもりだった位置に置いていく。
50センチメートルの歩幅で10歩。
5メートルの横線が決まったら、90度、体の向きを変えて10歩進む。
何度か繰り返して5メートル幅で平行した線を完成させて、正方形になるように小枝の位置を調整する。
「・・・よーし。石舞台、カマーン」
下から上へ両手を振り上げて、小枝で囲まれた地面を50センチメートル持ち上げる。
ズズズと持ち上がった石舞台の上に乗って、崖下で作ったのと同じ2.5メートル四方をズゴゴと70センチメートル持ち上げる。
次は1.9メートル四方を30センチメートル持ち上げて、最後にニュニュッと1.3メートル四方を4メートル生やす。
同じサイズで二度目だと少し楽に作れるな。
石舞台以外のサイズ感は感覚に頼ってるけど、それほどズレていないと思う。
石碑に隠れて姿は見えないけど、呼べば聞こえるだろう。
「・・・ルナリアー。書きに来てー」
「なんか早いわね!」
「・・・ちょっと慣れてきた」
自分の背丈よりも遙かに大きなものが、ドーン、ドーン、ドーンと生えてくる様子は見ていて面白かったようで、いくらか元気が出たみたいだ。
パタパタと溝を渡って石舞台の向こう側からルナリアが回り込んできた。
ルナリアに石碑の正面となる位置を示す。
「・・・ほら、ここに立って」
「この辺で良い?」
「・・・じっとしててね」
ルナリアも二度目だから落ち着いたものだ。
台座ギリギリの位置に立ったルナリアが、エレベーターのイメージでズイーッと上へ上がっていく。
「フィオレ様。こちらを」
「・・・ありがと」
ネイアさんが差し出してくれた木炭鉛筆を魔力の手で摘まんで、3メートル上空のルナリアの手元へ届ける。
命綱も無しに3メートルの高さに子供を立たせたりすれば、現代日本の保護者なら青筋を立てて怒り散らしそうなものだけど、水平方向なら10メートル以上を一足飛びに突進してみせるルナリアともなれば、誰も心配する様子を見せずにルナリアの作業を見上げている。
コテリと首を傾げたルナリアが、すぐ下に居る私を見下ろしてきた。
「違う文章にするべきかしら?」
「・・・同じでいいんじゃない?」
数十年後の未来まで残るだろう碑文に遊び心は要らないと思うよ?
おかしなアレンジを加えると、大人になってから黒歴史で恥ずかしい思いをすることになるだろうし。
素直に引き下がったルナリアが碑文を書き終えたのを確かめて地上へ降ろし、仕上げに掛かる。
炭素が貼り付いた部分を凹ませて、風ジェットカッターで石碑の表面を削る。
魔力の手で表面を撫でて研磨、鏡面加工でツルツルに仕上げる。
崖下と同程度の品質は確保できたと自負して、ビシッと慰霊碑を指す。
「・・・ヨシ。完成」
「ほんと、早かったわね!」
「・・・慣れだよ。慣れ」
習うより慣れよ、だっけ。
みんなで慰霊碑に祈りを捧げて採掘場へと戻る。
「ただいま!」
「おう。遅かったな」
頑張ったルナリアを捕獲したお母様がぐりぐり。
「・・・作業終了の笛の後、こっちにも慰霊碑を建ててた」
「そうか」
お母様の手が私もぐりぐり。
私たちがお母様に捕獲されている横を、ミセラさんたちがスルッと通り抜けていった。
「二人とも、よく頑張りましたね」
「「はいっ」」
お婆様にも褒めて貰えた! ルナリアと顔を見合わせて笑い合う。
「・・・設置数ってどのぐらい行ったんだろ?」
「合計121ヶ所だそうです」
すぐ耳元で聞こえたミセラさん声に鋼の意志で平常心を―――、保てなかった。
「・・・えっ!? すっごいじゃん!!」
「「「「「おお~っ!!」」」」」
新記録じゃない!?
私の予想では100ヶ所どころか90ヶ所にも届かないんじゃないかと思ってたのに、みんな、めっちゃ頑張ってくれてた!
3時間、歩き回って重石を作りまくった甲斐が有ったよ!