作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㉒
私たちの護衛を少しずつ減らして再編して、支援グループを三つに増やすべきだろうか。
いやいや。馬用リフトを作れば馬を使えるようになるから、リフトを建てる方が早い?
緊急避難的措置で魔力の手を駆使すれば、短期耐久力の仮設リフトぐらいは作れそうだけど。
ああだこうだ考えながら、あっちこっちから呼ばれて歩き回っているうちに、見覚えの有る溝を見つけた。
「・・・あっ。これだ」
「どうかされましたか?」
「・・・ちょっと待ってね」
首を傾げるレヴィアさんに答えつつ、溝の行く先を追って歩く。
「・・・ここ、じゃないかな?」
「ここですか?」
「・・・うん。私がルナリアと初めて有った場所」
みんな、マーサさんたちの殺害現場だと気付いたらしく、それ以上の質問は無い。
どうしよっかな。
手を付けるのはルナリアにも場所の確認を取ってからにしたいな。
「・・・目印だけ付けとくか」
溝の反対側の地面に魔力の手を伸ばして、目印として柱を建ててみる。
現場を荒らしたくないから交通標識みたいな細いポール状だ。
降り積もった落ち葉を下から突き破って、高さ3メートルほどの円柱がズボッと生えてくる。
「フィオレ様。これは?」
「・・・後でルナリアにも場所の確認をして貰おうと思って」
「なるほど。目印ですか」
納得の声が上がったと思えば、ツッコミが入る。
「でもコレ。木々に隠れて見えなくないですか?」
「・・・むっ。そうかな」
言われてみれば、周りの木々は幹の直径が1メートルを超えるような大木ばかりだ。
少し角度が変われば大木の陰に隠れて見えなくなるだろうし、隠れていなくても、太い縦線が並ぶ隙間に細い縦線が1本紛れ込んでも視認性が悪いよね。
「・・・じゃあ、これでどうだ」
ぐにぐにとポールの天辺の形状を変えて、大きな矢印にしてみる。
横幅1メートルぐらいの板状で、「ココ!」って感じに斜め下へ矢印を向けて傾ける。
土を固めただけだから、色が変わらないのが難点だな。
目立つんじゃないかとショッキングピンク辺りに色を変えられないかイメージしてみたけど、色が変わりそうな気配は無かった。
仕方ないな。
振り返って見れば採掘場の防壁が見えるから視認性は確保できているだろう。
「終わりましたか?」
「・・・うん」
仮設の標識だから出来の善し悪しは、まあ良いや。
猟師さんたちが待っている方向をマーシュさんが指す。
「では、次へ行きましょう」
「・・・あ、ハイ」
品評も無くサラッと流されたな。
矢印標識にもツッコミが無かった。
私の変な行動に慣れてるというか、私の中身を知っているだけに、文化の違いとしてタッチしないことにでもなっているんだろうか。
私としては、いちいち説明が要らないのは楽で良いけど、油断して知らない人たちの前でボロを出さないように気を付けなきゃな。
標識を建てている間の遅れを取り戻すのに先を急ぐ。
崖上の森を歩き回って重石を作って回っていると、ピッピ―――ッ、と、調子の違う笛の音が聞こえてきた。
「作業終了時間です」
「・・・りょ、了解」
はあー、歩き疲れた。
3時間で10キロメートル近く歩いたんじゃないかな。
「フィオレ―――っ!」
「・・・おー。お疲れー」
私たちよりも採掘場から遠い位置に居たらしいルナリアたちと、手を挙げ合って挨拶する。
3ヶ月前と較べて私も体力は付いたと思うけど、体力面ではルナリアの方が上回ってるからね。
まるで疲れた様子も無く、ピーシーズを引き連れてスタスタと歩いてくる。
「何か変なのが有ったけど、アレ、何?」
「・・・目印だよ。事件現場を見つけたっぽいから、ルナリアにも確認して貰おうと思って建てておいた」
見慣れないものにルナリアが反応するのはお約束だよね。
きっちりとツッコミを入れてくれたことに安心感まである。