作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ⑮
ワンコロを弱らせてトドメを刺しやすく出来るものかあ。
弱らせるもの・・・。弱らせるもの・・・。
弱らせるものってことは、弱点?
ああ。犬系なら”あの辺”が効くんじゃない?
犬系特有の”弱点”が有るよね。
「・・・フヒヒヒヒヒ。待ってろよぉ、ワンコロどもぉ」
「フィオレ様。悪い顔になってますよ?」
およ? ミセラさんたち、戻ってたんだ?
「・・・ソンナコトナイヨー」
「何か、企みを思い付かれたんですか?」
耳元で囁かれて私がビックリしなかったからって残念そうな顔をしないでくれる?
今は、どうやってワンコロどもをお手軽に始末したものか考え中だったから、驚いてる場合じゃ無かったんだよ。
「・・・企みとは酷いな。バンダースナッチの回収作業用にシーヴァとビネガーを用意しておいて欲しいだけだよ」
「魔獣にトドメを刺すのにシーヴァとビネガーを使うのですか?」
シーヴァとビネガーってのは、タマネギとお酢ね。
さすがのミセラさんたちも揃って首を傾げる。
保険的なものだけど、知らなきゃ意味が分かんないだろうね。
「・・・どっちも犬系の動物が苦手なものなんだよ。特にシーヴァは犬系にとって毒物になるからね」
「毒、ですか」
ミセラさんたちがジリッと身を乗り出してくる。
興味深そうだけど、これは犬系限定だからね?
「・・・体内で消化できずに中毒を起こすんだよ。しかも、人間には無害。かと言って、シーヴァを食べさせるのは難しいと思うから、絞り汁でも顔にブッ掛けてやれば良いよ。ビネガーは、犬系は酸っぱい臭いが苦手だから反撃を阻害できると思う」
無くてもトドメは刺せるだろうけど、どちらかが効けば、めっけものだ。
「ほう。そんな使い方が?」
「反撃を受けないなら、回収作業が捗りそうですね」
ニヤリと笑うミセラさんたちも悪い顔になってるからね?
タマネギの汁の目が痛くなる成分は硫化アリルだっけか。
催涙作用がある刺激物だから目潰し効果も期待できる。
「・・・だから、用意しておいて」
「調達しておきます」
効果が認められるようなら継続的に必要になるな。
魔獣を相手に倫理も何も無い。
どうせ勝つなら楽に勝てる方が良いに決まってる。
魔獣が相手でも敵国が相手でも、脅威を排除する私の基本方針は変わらない。
ただまあ、ちょっと気になっているのは、「魔獣は狩り尽くせない」という魔の森の大原則なんだよね。
現に採掘場のシカは延々と増殖を続けていて、無限回収のお肉資源と化しているのだから、バンダースナッチも無限に湧き続ける可能性が有る。
それは話し合いが通じない脅威が間近に存在し続けるということなのだから、倫理もクソも無い。
少しでも人的負担を減らして楽に狩れる手段を確立しておかないと、いつか、積み重なる負担に耐えられなくなるだろう。
「・・・楽に、か」
両方とも液体だし、離れた場所から狙った場所にブッ掛けられるように水鉄砲でも作っておくか。
職務柄、市井のことにも詳しいミセラさんに目を向ける。
「・・・バンブーの木って簡単に手に入るもの?」
「簡単に、と、までは行きませんが、珍しいものでは無いですね」
へえ? 竹って使い道が多いのにね。
私が見つけてある自生地から、森の外縁部にでも移植するかな?
春になる頃には地下茎を伸ばして増殖するだろうし、移植するならタイミングとして悪くないかも。
上手く根付いてくれるかどうかは分からないけど、やってみる価値は有りそうだ。
キャットウォークの上を見上げると、お母様が囲いの下を見下ろしている後ろ姿が見えて、その横でピーシーズがロープを引っ張っている。
出荷作業はまだ続いてるな。
ヨシ、行くか。
「・・・お婆様。ちょっと、バンブーの木を採りに行ってきます」
「あら。近くに生えているの?」
ティーカップを手にしたお婆様が小さく首を傾げる。
竹の有用性は知ってるんだね。
「・・・歩いて10分ぐらいかな? 何本か森の入口に移植したいので、兵士さんを連れて行っても良いですか?」
「移植なんて出来るのね」
学者肌のお婆様は、実際の植物栽培は詳しくないのかな?
興味深そうにしているお婆様の視界に入らない背後で、聞きつけた兵士さんたちがスススと寄ってきて、ポジション争いなのか、声も無く押し合いへし合いし始めている。