作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ⑬
抑圧されて育ってきたノーアが我が儘を口に出すことは少ないし、出来ることなら我が儘を叶えてあげたい。
叶えてあげたいけど、せっかく毛並みが良くなったノーアの健康を未知数なもので危険に晒して良いものだろうか。
どうしたものかとオロオロしていると、お母様が腰を屈めてノーアと視線を合わせた。
「飲んでみるか?」
「にゃ!?」
パッと表情を輝かせたノーアの尻尾がピーンと伸びる。
大好きなお肉を目の前にしたときよりも分かりやすく喜んでいる。
くーっ! お母様に良いところを持って行かれた!
いやいや。私のお姉ちゃんポイントが上がることよりも、今はノーアの健康が大事だ。
「・・・良いの? お母様。お婆様」
「幼児期から血を飲ませてみる実験の必要性は有るんだ。以前は栄養が足りていなかったようだが、お前が世話をしてくれたお陰で今のノーアはしっかりと体力が付いている。私が傍で監督すれば問題は無かろうよ」
おお。「実験」って言っちゃうのはどうかと思うけど、お母様が付いていての冒険なら安心感が違うよね。
お許しが出たと見て取ったルナリアが、サッと妹の手を引く。
「ノーア、行くわよ!」
「姉様の言うことを、ちゃんと聞くのですよ」
「にゃ!」
くっ! お姉ちゃんポイント争奪戦でもルナリアに出遅れたよ!
お婆様の声に答えたノーアがルナリアに手を引かれてキャットウォークの階段へと向かい、ピーシーズが慌ててルナリアたちの後を追う。
お母様も散歩するような足取りでキャットウォークへと向かう。
「・・・足元に気を付けるんだよー!」
「にゃーん」
折り返しの階段を上るノーアに手を振ると、ご機嫌なノーアの返事が降ってきた。
さすがにキャットウォークの上が混雑したのか、入れ替わりでエゼリアさんたちがドタバタと下りてきた。
賑やかというか、10歳以上も歳が離れたピーシーズよりも落ち着きが無いというのは、大人の女性としてどうなんだろう?
「フィオレ様!」
「やっぱり面白いですね、アレ!」
「どのぐらい魔力量が増えるものなんですか?」
西部地域への出兵前に血を飲んだ経験が有るのは、エゼリアさんとアンリカさんとディーナさんの三人だっけ。
「・・・個人差が大きいから何とも言い難いけど、多少なりとも実感が持てるぐらいには、例外なく増えてるよ」
「そうなんですね」
「止め時って有るんですか?」
一つ答えると、すぐに次の質問が飛んでくる。
気分転換になればと戦地への手紙で書いていたから、気になってたんだろうなあ。
ずっと頑張って貰ってたんだし、しばらくは話に付き合うか。
「・・・うーん。ポカポカが無くなった頃かなあ」
「ははぁ。いつか無くなるんですね、アレ」
答えにくいところをピンポイントで訊いてくるのが、さすがだなあ。
「・・・今はまだ、そのぐらいしか分かってることが無いんだよ」
「まだまだ調べるつもりなんですね?」
最初期から飲み続けてきた私やルナリアやピーシーズは、もうポカポカが無くなっているけど、これで終わりなのかといえば、私は疑問だと考えている。
雌ジカではポカポカが無くても、大きな牡ジカだと仄かにポカポカが感じ取れるときが有ったからね。
私が魔力酔いでブッ倒れたときが良い例だ。
獲物の体格が大きければポカポカが有り得るのなら、シカや触角ヘビよりも強いと評判の魔獣ならポカポカする可能性がポカホンタスじゃない?
「・・・取りあえずは、バンダースナッチの血でどうなるのか見てみようかなって」
「それは面白そうですね。明日からセリーナも来るように言っておきましょう」
あれま。お婆様も前向きか。
お二人とも健康に良い影響を認めちゃってるから、気になるんだろうね。
あれ? あんまりにも期待度が高いと私に悪影響が出る可能性が有ったりするんだろうか。
これって獲物が掛からずにボウズだと、ご機嫌を損ねたりしないよね?
「・・・あ、明日、掛かるかは分かりませんよ?」
「良いのよ。貴女たちが建てた慰霊碑も見せてあげたいから」
ああ、そっちか。
この口振りだと、私たちが崖上を見て回っている間に慰霊碑を見に行っていたのかな。
アンリカさんの手に渡ったお花も無くなってるみたいだし。
「フレイア様が採掘場の防壁を拡張させると仰ってましたね」
「そりゃあ、みんなの願いだもの。防壁の外になんて置いておけないでしょ」
やっぱり見に行ってたっぽいな。
そして、想定よりも高評価っぽい?