軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンダースナッチという魔獣 ⑪

「セリーナも、きっと喜びますよ。そうしてあげなさい」

「・・・ううっ。ハイ」

分からないものは、分からない。

これはもう、「いつから呼び方を変えれば良いですか?」と、潔くセリーナ様に訊いた方が良いかなあ。

「お揃いね!」

「・・・そ、そうだね」

嬉しそうなルナリアにつんつん突っつかれるので、ここは緊急離脱しておこう。

真面目な仕事を始めればルナリアは深追いしてこないはずだ。

覚悟を決めておく必要は有るけど、話題を変えないとイジられ続けてしまう。

「・・・ネイアさん。紙とペンを貸して貰って良いかな?」

「どうぞ。こちらを」

「・・・ありがと」

受け取った紙に崖を示す斜線を右肩下がりに引く。

斜線の真ん中に採掘場を示すバッテンマーク。

次に斜線と垂直に小川を示す斜線を引く。

バッテンマークから真っ直ぐ上がった小川の上に崖の線と平行した線を引いて、さらに少し上にも崖と平行した線を引く。

この2本の線が新旧の獣道を示すものだ。

古い方の獣道は小川と交差した後に90度曲がって小川と平行し、新しい方の獣道は古い方の獣道に行き当たったところで終わる。

「それは位置関係か?」

「・・・うん。恐らくだけど、バンダースナッチが採掘場に最接近してるのは、800メテルぐらいの距離だと思うよ」

私の手元を覗き込んでいるお母様の質問に答える。

事前情報よりも悪化した見立てに、お婆様も眉を顰めている。

「近いな」

「根拠は有るのですね?」

お母様たちの声にピリッとした深刻さが増した。

ここからは、本格的に真面目な話になりそうだな。

私もお仕事モードに頭を切り替えよう。

目を伏せると同時に肺の中の空気を吐き出して、新鮮な空気を肺に吸い込むと共に目を上げる。

指先でトンとバッテンマークを指す。

「・・・採掘場から北上すると、おおよそ600メテルほどで小川を越えます。そのまま北上を続けると、200メテルほどで古い獣道に、さらに200メテルほど進むと新しい獣道に行き当たります」

私の説明に、腕を組んだお母様が略図に目を落としたまま、立てた人差し指の指先を顎先に添える。

この仕草は深く考えを巡らせるときのお母様の癖だ。

新たに得た情報を頭の中で整理しているんだろうね。

「古い、新しい、というのは何だ?」

「・・・古い方は、ルナリアと私がムーア兵の追跡を躱すために迂回した際、見た記憶が有ります。新しい方は、当時、見た記憶が有りません」

「3ヶ月前の時点か」

お母様が唸る。

「・・・その時点でバンダースナッチがすでに出没していたかどうかは分かりませんが、新旧の獣道の間隔200メテルは斜めに測った距離ですから、正対した距離で見ると、計算上、150メテル程度しか離れていないものと考えられます」

「本当に近いですね」

具体的な数値を示すとお婆様も唸る。

「・・・はい。風向きなどの状況によっては、臭いや音や目視で察知していてもおかしくない距離です」

「お前は“察知している”と見ているんだな?」

お母様の問う視線に頷いて返す。

お母様もお婆様も楽観視していないだろうし、当然、私も楽観視していない。

「・・・悪い条件で想定しておくべきだと考えます」

「もっともだな」

慎重に返した私にお母様も納得を返してくれた。

その横で、腕を伸ばしたお婆様が地図の1点を指した。

「この曲がった線は、どういった状態なのですか?」

「・・・古い方の獣道は、小川を渡って程なく進路を変えて森の奥へと続いています」

「古いものと新しいものが合流しているわけか?」

お母様とお婆様が同じように首を傾げる。

イメージしにくかったかな?

直接の血の繋がりは無くても、やっぱり母娘だよね。

仕草がそっくりだよ。

「・・・はい。この獣道を定期的に複数種の魔獣が巡回していると考えてください」

「つまり、この獣道までがバンダースナッチの縄張りか」

正しく理解してくれたお母様が正答に辿り着く。

「・・・目視あるいは嗅覚で獲物を察知できる範囲だと思われますから、正確には、もう少し広い可能性が有るかと」

「広いというのは、どのぐらいだ?」

この辺は誤差というか、揺らぎというか、想像するしかない部分だね。

ただ、近似する種の特性は異世界でも変わらないんじゃないか、ってものは有る。