作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ⑩
問題無さそうだと判断したらしいネイアさんがミセラさんたちに視線を向けた。
「出荷は終わりですか?」
「まだ、やってるぞ」
ミセラさんが答える前に、お母様がキャットウォークを指す。
今、防壁の上へ上がっているのは、面白そうなことには全力なエゼリアさんたちと真面目に取り組んでいるジアンさんか。
チラリとキャットウォークを見上げたネイアさんが首を傾げる。
「ミセラさんたちは行かなくて良かったのですか?」
「皆さんが飽きてからでも良いと考えていたのですが、行かせていただいてもよろしいでしょうか?」
さすが、ロス家。
エゼリアさんたちの行動どころか、飽きれば帰ってくる辺りの性格もよく把握している。
ミセラさんたちが向けてきた視線に頷いて返す。
「・・・行ってきて良いよ。こっちにはピーシーズが居るし、しばらくはお母様たちに状況を報告してるから」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
エゼリアさんたちの代わりにお母様たちの護衛に就いていてくれたけど、いま現在、採掘場関連の情報はウォーレス領の最高機密で、ミセラさんたちも興味が無かったわけが無いからね。
もちろん、様々な形で情報は把握しているのだろうけど、実際に自分の目で見て確かめた情報は人づての情報とは信頼度が違う。
ミセラさんたちもエゼリアさんたちと同じで、面白そうなことには全力な人たちだし。
そそくさとキャットウォークへ上っていく三人の後ろ姿を見送って、お母様たちに向き直る。
ここからは、ちょっと真面目な話だ。
「・・・バンダースナッチは成獣が11頭だったよ」
「あら。仔は居なかったのですね?」
小さく首を傾げるお婆様に、首を振って予想を伝える。
「・・・育ったんだと思う。採掘場のシカみたいに」
「ふむ。なるほど」
納得を見せるお婆様に対して、お母様の反応はもう一歩踏み込んで問うてくるものだ。
「一晩で育つという、アレのことか?」
「・・・そうじゃないかな。同じ速度かどうかは怪しいけど、近いものは有ったんだろうね」
シカ増殖の謎解きも後回しになってるし、憶測に過ぎないけどね。
不確定要素を理解してくれているお母様は話題を次に移す。
「出没範囲は把握できたのか?」
「・・・大体の予想はついたよ」
「ほう?」
私の返事にお母様が面白そうに目を細める。
「・・・目で見てわかるように、絵で描き出した方がいいよね?」
「そうだな」
「作戦案は決まったのですね?」
それぞれの反応を返すお母様とお婆様に頷く。
「・・・うん。出荷が終わったら―――、いや。お昼を食べながら説明して、お昼の後にワナの設置を始めるよ」
出荷作業組がキャットウォークから下りてくる前に描き上げておいた方が良いね。
ホワイトボード的なものが有れば周知しやすいだろうけど、どのみち板書で描き写すのなら、紙に描いたものを写し取らせても同じかな。
「なら、貴女たちもお茶にしなさいな」
「はい! シェリアお婆様!」
おや。ルナリアはお母様だけでなくお婆様の呼び方も変えたのか。
フライング気味では有るけど、お婆様も嬉しそうだ。
そこでハタと気付く。
「・・・ハッ!!」
「どうした?」
「ん?」
ルナリアを見ながら気付いたものだから、お母様だけでなくルナリアも首を傾げる。
「・・・わ、私もハロルド様とハインズ様とセリーナ様の呼び方を変えるべき? ああ、エゼリアさんとアンリカさんもだ」
「何だ。急に」
呆れたような口調だけど、お母様の目は微かに笑っているように見える。
どうしよう?
ルナリアの様子しか見ていなくて、私もルナリアと同じ立場なのだということを、まるで考えていなかった。
ルナリアがフライングしているのだから、私もタイミングを合わせておくべきなんだろうな、って気はする。
そんな気はするんだけど、温和なハロルド様や、何だかんだで寛大なハインズ様は大丈夫でも、作法に厳しいセリーナ様のご機嫌を損ねたりしないだろうか?
正式な籍が入ったタイミングで呼び方を変えるのが正しいのだろうけど、ルナリアがフライングしている分、正式なタイミングでは却ってご機嫌を損ねそうな気配がする。
「・・・い、いやあ。度胸が必要そうだなあ、と」
「自分で撒いた種だろうが」
「・・・そうだった―――ッ!!」
「お前は何を言っているんだ」という感じで、バッサリと斬り捨てられた。
これ以上ないピンポイントでのご指摘に頭を抱える。
仰る通りで、みんなを焚きつけて外堀を埋め、お母様の退路を断って幸せ攻めで陥落せしめたのは私だった。
まさに自業自得。
してやったり、って感じでお母様はニヤニヤしているし、お婆様も楽しそうに目を細めている。