軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンダースナッチという魔獣 ⑨

「・・・お母様」

「おう。お帰り」

ぞろぞろと階段を下りて崖下に戻ると、お母様とお婆様がテーブルに着いてお茶を飲んでいた。

なぜ、わざわざ屋外に食堂のテーブルと椅子を?

お母様たちの傍に控えているのはミセラさんたち三人で、積み上げられた石材の上に毛布が敷かれていて、ディディエさんとダーナさんが寝かされている。

指を組み合わせて両手を置いた胸が呼吸で上下しているから生きてるのは間違い無さそうだけど、ハンカチを顔に掛けて寝るのは死体みたいだから止めようよ。

もっとも、王国の文化ではご遺体の顔に布を掛ける風習は無いから、屋外で寝ると眩しいからハンカチを掛けてるだけなんだろうね。

建設現場のお昼休憩の時間なんかに、昼寝している作業員のオジサンがやってるやつだ。

ルナリアが不思議そうな顔でディディエさんたちを見ている。

「どうしたの? コレ」

「魔力酔いだ」

「「ああ・・・」」

ルナリアと私の声がハモる。

シカの血を飲んで倒れたんだね。

どうと言うことのない顔でお母様が答え、お婆様は落ち着いた澄まし顔でティーカップに口を付けている。

「あ~、フィオレ様。私たちは蔓を取りに行ってきますね」

「私らは倉庫からロープを出してきます」

「・・・ありがと。お願いね」

気を使ったのだろう、ククリに使う蔓草を採取しに行くと言う猟師さんたちと、採掘場の資材倉庫へロープを搬出しに行くと言う猟師さんたちを見送って、ディディエさんたちへと目を戻す。

魔力酔い、ねえ・・・。

我が身にも覚えが有るルナリアと私が微妙な顔になる。

お母様たちは監督役として、ひっくり返ったディディエさんの傍に付いていてくれたのだろう。

とはいえ。

原因と安全性が判明している症状で数人が倒れたところで、お母様たちが顔色を変えることなんて無いのは知ってるけど、屋外の資材の上に寝かせておくなんて、この扱いは可哀想じゃない?

さすがに気の毒に思えて、寝かされている二人の傍へと近寄る。

「・・・二人とも大丈夫?」

「ふぃ、フィオレ様」

「も、申しわけございません」

私の声に反応した二人が、顔のハンカチを摘まみ上げて上体を起こそうとする。

一撃でブッ倒れて緊急搬送された私たちと違って、意識は有ったんだね。

だとしたら、資材の上に寝かされていたのは、二人が退場を拒否した結果なのかも。

「・・・ああ、良いよ良いよ。落ち着くまで寝てて良いから」

「そんなわけには」

平衡感覚が揺らいでいて上体を起こすために体重を支えている腕をペシッと払うと、支えを失ってダーナさんが後ろ向けにコロンとひっくり返る。

「あっ」

ダルマ落としかな?

違うか。柔道技の小内刈り的な感じ?

「・・・良いんだよ。ワナの設置作業も今日一日で終わるものじゃあ無いんだし、休める余裕が有る状況なら休んでなさい」

この人たちは強めに言わないと頑張ろうとするみたいだからね。

大人しく諦めたダーナさんを見てディディエさんも横たわり直した。

3ヶ月ほど前の出来事を思い出したのか、ルナリアがイタズラっぽく笑う。

「魔力酔いかあ。わたしたちも、やったものね!」

「・・・そうそう。意識不明になって、揃って領主館に運び込まれたんだよね。あんなの、そのうち慣れるよ」

私たちが笑っていることで、ディディエさんたちの体から強張りが取れる。

あのとき、テレサとルナリアは私がひっくり返ったのを目撃した上で、命に別状は無いと聞いて自分たちも血を飲んでひっくり返ったんだよね。

王女様と侯爵家の跡取りが、だよ?

面白そうに見えれば同じことをしたがるのが子供の習性とはいえ、よくやるよね。

遊びのつもりだったとしても、二人とも度胸の据わり方が飛び抜けてる。

結果論だったとしても、そのお巫山戯で体内保有魔力量を増やす「良い結果」を掴み取っているのだから、嗅覚というか幸運も「持ってる」のだろうね。

テレサとルナリアの事情に巻き込まれている部分も有るだろうけど、私は二人の幸運をお裾分けして貰っている部分も有ると思う。