作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ⑧
「群れのボスですね」
「・・・だろうね」
猟師さんの見解に、概ね私も同意する。
「数え直しますか?」
「・・・お願い」
私たちの会話が聞こえていた猟師さんたちが、獣道のあちこちでしゃがみ込んで痕跡を分析し始める。
彼らもプロの狩猟者なんだから、お任せで良いだろう。
さて、どうするかな。
これだけ足のサイズが大きいとククリも大きくする必要が有るし、狙う獲物の体格が大きいということは、力も強いということだから、バネの力も大きくする必要が有る。
「・・・バネに使えそうな若木が少ないな」
「それは拙いのでは?」
私の独り言に反応を返したネイアさんだけでなく、声を聞き取った全員が不安そうな視線を私に向けている。
「・・・あ~、いや。吊り下げ式の重石にすれば、バネを代用できるから大丈夫だよ」
「吊り下げ式、というと?」
猟師さんの一人から質問が飛んでくる。
対人用のワナで説明したことが無かったかな?
「・・・蔓の端に重石を付けて高い木の枝の上を通すんだよ。重石が下へ落ちようとする力がバネの代わりになる」
「なるほど。それなら場所を問わず罠を設置できますね」
以前、教わったことの記憶と、いま私が口にした単語が結びついたのか、複数から納得の意思表示が返ってくる。
話を聞きつつも分析を続けていた猟師さんたちは、頭を寄せ合って意見の摺り合わせを行っているようだ。
取り纏めを終えたらしい猟師さんたちが頷き合って、私の方へと歩み寄ってくる。
「フィオレ様」
「・・・どうだった?」
「恐らくですが、11頭だと思われます」
そんな感じかあ。分析結果を持ってきた猟師さんたちの表情は渋い。
答えを聞いたルナリアの表情も難しくなる。
「増えてるわね」
「・・・誤差だよ。誤差」
「ちょっと、フィオレ?」
言い方かな?
大した問題では無いから気楽に返したらルナリアに咎められた。
楽観できる状況では無いのは確かだけど、みんな気負い過ぎじゃない?
元々、10頭に対して1000ヶ所のワナを仕掛けようと計画していたのに、1頭や2頭、狙う魔獣の数が増えたところで大勢に変化は無いと思うけどなあ。
ヨシヨシしていると不機嫌がどこかに飛んで行ってポワポワしてくるルナリアがチョロかわいい。
頭を撫で回しまくってルナリアの機嫌を取っていると、猟師さんの一人が小さく挙手している。
「それよりも、フィオレ様。おかしなことが」
「・・・何か有った?」
深刻な表情の猟師さんに、続きを促す。
「群れに居たはずの仔が居ないようです」
「数が増えていて子供が居なくなったってこと?」
ルナリアからの確認に、猟師さんが深く頷く。
「群れの構成が変わっていますね」
「仔を失った親が凶暴化することは無いのでしょうか」
メリーナさんとネイアさんの年長組が懸念を口にして、アイシアちゃんとオーリアちゃんとナンナちゃんの年少組が真剣な顔で聞き入っている。
こりゃあ、軌道修正した方が良いかな。
事態を深刻に捉えすぎて見落としが出てきている。
「・・・おかしくないし、大したことじゃないよ」
「えっ?」
みんなの目が私へと集まる。
なぜ、そこで驚く?
「・・・採掘場のシカと同じだよ。バンダースナッチだって、一晩で増えることも、一晩で成獣に成長することも有り得ると思う」
「言われてみれば、その通りですね」
私の指摘に理解が及ぶと、みんながハッとした表情を見せて、落ち着きを取り戻し始める。
そそ。仔だろうが成獣だろうが、することは同じ。
私たちはワナを仕掛けて魔獣を獲るだけだよ。
狙うべき獲物が1頭増えただけで状況は微々たる変化しかない。
もう他に新たな情報は無さそうかな?
じゃあ、次のフェーズに移ろうか。
「・・・一旦、戻ろう」
「お母様に相談するの?」
ルナリアはまだ不安っぽいかな。
その不安を払拭するために、敢えてニヤリと笑って自信を見せておく。
「・・・相談じゃなく、報告かな。具体的な方針を決めて、すぐにワナの設置に取り掛かるよ」
みんな忘れてない?
森は魔獣のフィールドだけど、私のフィールドでも有るんだよ。
私が見せた自信にルナリアの表情が明るくなる。
「分かったわ! みんな、採掘場へ戻るわよ!」
「「「「「はっ」」」」」
背中を向けて採掘場への帰途に就くルナリアに、ピーシーズと猟師さんたちが付き従う。
私の自信がルナリアにも伝播したわけだ。
緊迫した状況だからこそ、安心感って大事なんだなあ。
いつもお母様が不敵に笑ってみせる理由が本当の意味で分かった気がする。
行き過ぎると傲慢に見えて敵を作るかも知れないけど、人を率いていくには必要なことなんだな。
私が自信を見せることで、みんなが平常心を見失わずに行動できるなら、難局に直面しても乗り越えられるはず。