作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ⑥
「何か見つけたの?」
「・・・見つけたわけじゃないけど、こっちの獣道も使われてる様子が有るんだよ」
「そうなの?」
おっと。伝え方が迂遠だったかな。
「・・・ルナリアには前にも教えたけど、獣道がどうやって出来上がるものか覚えてる?」
「野生動物は決まった場所を通るから、踏み固められたりして出来上がる、だっけ」
ハイ、よくできました。花丸をあげよう。
「・・・そ。ここは森の中で、枯れ葉が落ちてくるわけだよね?」
「落ち葉で埋まり切らずに獣道が有る時点で何かが踏ん付けてるわけだから、まだ使われてるってこと?」
「・・・そういうこと」
素直で地頭も良いし、ヒントを貰えれば理論だった思考に至ることが出来るのはルナリアの長所だね。
さすがサラブレッド血統。
どこかのお馬さん娘にも引けを取らない高位貴族家のご令嬢が、獣道の先を見る。
「この道って、小川の向こうまで続いてるの?」
「小川を渡って直ぐに、採掘場から離れる方向へ向かって曲がっています」
「・・・森の奥に続いている、と」
てことは、逃走劇のときにも小川を渡った後に獣道とルートが交差していたはずなんだけど、それは気付かなかったな。
敵に発見されて全力で逃げてるときにでも横断したんだろうか。
「行きますか?」
「・・・うん。次、行こう。次」
次の指示を先回りして問う猟師さんに了承を返す。
事前に聞いた情報と記憶に有る森の様子を照らし合わせれば、新たに発見された獣道は直ぐそこのはずだ。
先導する猟師さんたちの後に付いて、小川に平行したルートで森の奥へと向かう。
いよいよ問題の現場に近くなって来たせいか、ピーシーズの表情にも緊張感が漂いだしている。
ルナリアと私が狩ってきた魔獣の数はピーシーズよりも多いけど、ワナで嵌め殺した以外の魔獣は触角ヘビだけだからね。
私たちも気を引き締めないと。
「先ほどの獣道ですが、バンダースナッチの痕跡は無いのですか?」
「・・・探せば有るかもね」
警戒を強めているネイアさんの疑問に、端的に答える。
「探さなくて良かったのでしょうか」
「・・・あんまり意味は無いと思うよ。痕跡を見るだけなら、有るかどうかも分からない新たなものを探すよりも、すでに見つかっている確実なものを見に行った方が早いし」
古い方の獣道を詳しく調べなかったことにネイアさんは疑問を抱いた様子だけど、いま答えたように私は重要視していなかった。
それが意外だったのか、ネイアさんが首を傾げる。
「意味が無い・・・ですか?」
「・・・シカかイノシシか、これだけ近くにある通り道を今でも何かが使っているのなら、鼻の利く肉食系の魔獣が気付いていないとは思わないから」
長年の経験を持つ熟練のワナ師の直感がそう告げている!!
ハイ。ウソです。
普通に考えて、数百メートル程度の領域内で捕食者と被捕食者が闊歩していて、数ヶ月単位で一度も痕跡に遭遇しないとは考えにくい。
いくら野生動物が決まったルートを通るとは言え、遭遇すれば被捕食者は逃げるし捕食者は追跡する。
特に今回は捕食者側が鼻の利く犬系なのが判明してるのだから、獲物の存在は察知していると考えるべきだろう。
「すでにバンダースナッチの縄張りの内側だと?」
「・・・そういうこと。たぶん、小川のこっち側は縄張りに入ってるのだろうし、ここから先は、獲物の特徴と群れの構成を探るのが目的になるよ」
うむ。理解が早くて助かるよ。
以前は体内保有魔力が少なくて苦労していたネイアさんは、真面目な上に研究熱心で理解力が高いからね。
私のテリトリー内宣言でさらに緊張感が増してピーシーズの表情が引き締まる。
みんな左手が腰の鞘を握っていて、もう、すでに、臨戦態勢って感じかな。
「私たちは何をすればよろしいですか?」
「・・・一緒に痕跡を見に行こう。大体の感じは掴めたと思うから、具体的な情報がもう少し欲しい」
「「「「「はいっ」」」」」
みんなが殺る気になってるのに私が何もしないわけにも行かないな、というわけで、水面に波紋を広げるイメージで、広範囲に魔力を浸透させる。
昨日の立ち会いで、魔力を浸透させた範囲内の地面に接している人の存在が感じ取れることに気付いちゃったんだよね。
それって、言わば、ルナリアが「聞いたこと無い」って言っていた「対人レーダー魔法」的なヤツじゃない?
実験の結果次第だけど、もしも、人間と同じように魔獣の存在も感じ取れるものだとすれば、不意の遭遇戦を避けられるってことになる。