作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ⑤
有るじゃん。滑車。
そりゃあ、そうか。
レティアの町の城門も吊り上げ式の格子門だったものね。
よくよく考えてみれば、滑車を使っていないわけが無いか。
滑車があるのに昇降機が無いのは、技術転用の発想が及ばなかったのだろうか?
金属製の滑車が作れるのなら、H鋼やL型鋼も作れるんじゃない?
H鋼って言うのは大きな構造物の骨材なんかに用いられる鉄鉱製品で、L型鋼って言うのは一般的に「アングル」とか呼ばれる鉄鉱製品だよ。
どっちも強度を保ちつつ重量を抑える構造材で、耐えなきゃいけない荷重の大きさによって使い分けられる。
鉄骨造の貨物用リフトが作れるんじゃないかと期待しちゃったけど、武具を作るのを生業とするような鍛冶屋さんで鉄骨は作れないかなあ。
私が滑車を見上げて脳内トリップしている間にも、8人掛かりでハンドルを回している汗だくの兵士さんたちの頑張りで、10トン以上の重さは確実に有るだろう門扉がゆっくりと持ち上がっていく。
「崖の上も、あまり変わらないのですね」
歩いて潜れる高さまで持ち上がった門扉の向こう側を見通して、ネイアさんが率直な感想を口にする。
崩落跡を上ったときに、私も全く同じ感想を持ったっけ。
「3キロメテルぐらいの範囲は、ずっとこんな感じだったわよ!」
「・・・そうだったね。そこから先へは行ってないから分からないけど」
ルナリアと私がネイアさんに答えている間にも、門扉が上がりきるのを待たずに、槍を担いだ猟師さんたちが続々と崖上の森へと踏み出していく。
猟師さんたちに続いて私たちも門扉を潜ると、人の出入りがほとんど無いせいか、門を出て直ぐから落ち葉を踏む感触が足の裏に伝わってくる。
同じような景色が続いて方向感覚を失わないためか、門を出て左手の崖沿いに進んで行く。
崖下よりも水量が少なく、いくらか細くなった小川を渡って右折。
今度は小川沿いを森の奥に向かって進む。
「この小川は、どこまで続いているのでしょうね」
「10キロメテルほど上流で、プツリと終わっちまうらしいんですよ」
メリーナさんの疑問が耳に届いた猟師さんが答えをくれる。
「・・・10キロで、この水量なんだ?」
20メートルも標高が上がったのに、それほど水量が減ったようには見えないね。
山なら兎も角、平坦に近い地勢で水量が大きく違わないということは、相当な圧力が掛かった地下水脈が有るんじゃないだろうか?
採掘中の坑道で地下水が出たとは聞かないけど、採掘場周辺の地層って、どうなってるんだろう。
「どうかされましたか?」
「・・・ううん。かなり地下水が豊富なんだと思っただけ」
今は地層や地下水脈に思いを馳せている場合じゃないから、深く掘り下げずに首を傾げるメリーナさんに返しておく。
「ナーガ川から10キロメテルも離れていませんからね。湧き水も有るんでしょう」
「・・・そうみたいだね」
私の疑問に答えようとしてくれる猟師さんも律儀な性格の人のようだ。
「あっ。獣道!」
「・・・そうだねえ」
この辺りを通るのが3度目のルナリアは、結構、余裕が有るようで、キョロキョロと周囲を見回していても観察力を維持できているみたいだ。
「これって、前に見たヤツ?」
「・・・たぶんね」
腕組みのガイ〇立ちで獣道の先を眺めてルナリアが首を傾げる。
「コイツは古い方ですね」
「・・・やっぱり、新しいのが出来てたんだ?」
答えてくれた猟師さんに目を向けると、難しい顔で頷いている。
「はい。暫く奥へ行くと有ります」
「・・・ふむ」
落ち葉に埋もれていないし雑草も生えてないな。
私の記憶に有る限り、3ヶ月経った今でも取り立てて変わった様子が無い。
木々の間の落ち葉に覆われた地面に、黒々とした土が剥き出しの細い獣道が続いている。
獣道が続いていく先を見渡していると、私の目線を追ってルナリアも目を遣る。