作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ⑦
森の中で私たち以外の存在を察知できたなら、それは魔獣だと断定して良いはずだ。
だって、森の中には私たち以外の人間が居ないのだから。
ルナリアの安全に責任を持つ立場に有る私としては、ぜひとも確立しておきたい魔法だ。
サクサクと枯れ葉を踏んで歩いていると、明らかに落ち葉が蹴り退けられて剥き出しになった地面が見えてきた。
普通の獣道は道幅50センチメートルも無いぐらいだけど、2倍ほどの広さが有る。
「また有ったわ! 獣道ね!」
「この辺りです」
猟師さんの言う「この辺り」とは、足跡の発見場所という意味だろう。
障害物が有るわけでも無い場所なのに獣道の道幅が古い方よりも広いということは、新しい方の獣道を通る個体の体格が大きいか群れの規模が大きいかのどちらかだろう。
「・・・この道って、どこまで続いてるか確認した?」
「小川を超えて、古い方の獣道と合流したところで終わっています」
「・・・なるほど」
予想通り、バンダースナッチは古い方の獣道の存在を知っているわけだ。
古い方の獣道を作った獲物が森の奥へと戻って行くルートを取っているから、バンダースナッチも森の奥へと戻っているだけだな。
採掘場の崖上部分はテリトリー内に入っているに等しいと考えて良いかも知れない。
「狩らないと危ないわよね?」
「・・・そうだね」
痕跡を探す猟師さんたちから私へと目を移してきたルナリアが、「一狩りしようぜ!」的に訊いてくる。
私たちのやり取りに、ルナリアの安全を確保すべきピーシーズの警戒度が上がる。
安全を確保される側のルナリアもまたヤル気マンマンだね。
ルナリアのヤル気に応える気マンマンの猟師さんたちも動きがキビキビしてきていて、周囲に警戒しつつも、獣道に残る魔獣の痕跡を探して目を皿のようにしている。
獣道に沿って数分間ほどウロウロしていると、猟師さんの一人がサッと手を挙げた。
「有りました。こちらです」
「・・・うわ。デッカ」
ルナリアたちと猟師さんのところへと行ってみると、4本の爪痕がくっきりと地面に刻まれている。
腐葉土が積もった森の地面って柔らかいからね。
多少は踏み固められたとしても、雨が少ない気候だし土が固く締まる条件が揃わないのだろう。
柔らかい土の上に薄らと見える肉球の跡で前足の大きさが、私の手のひらと較べて縦横それぞれ2倍ほども有る。
大きさ的に現実感が無いのか、ルナリアの反応が薄いね。
「これ、足跡?」
「・・・うん。鋭い爪と肉球の跡が4本と三角形の踵が有るでしょ? これが犬系の特徴」
「ほえ~」
実際には5本指なんだけどね。
4本指に見える犬系の足には、” 狼爪(ろうそう) ”と呼ばれる退化した指がもう1本有る。
この狼爪は地面に付かないから足跡には残らない。
しても意味が無いから狼爪の説明まではしないけど。
足跡の大きさに驚いているのか、特徴の見分け方に感心しているのか、感嘆の声を上げているルナリアの顔の大きさと足跡の大きさを較べると、どう見ても足跡の方が少し大きい。
数値で表せば、1.5ルナリアぐらいは有りそうだ。
「・・・そして、足跡の大きさで獲物の体格が分かるんだよ」
「大きいですね」
私は形状で動物の種類を見分けやすい前足の足跡で判別するんだけどね。
同じ犬系でも、原種であるオオカミに近い犬種ほど前足が大きい傾向が有ったように記憶している。
「・・・前足でこれだと、体格は採掘場の牡ジカよりも一回りか二回りは大きいと思うよ」
「大きすぎない?」
「・・・そうだねえ」
ルナリアが「大きすぎる」と言いたくなるのも分かるよ。
この足跡を残した個体は特に大きそうだけど、地球の生態系でもハイイロオオカミとか呼ばれる種類は胴体の長さだけで1.5メートルぐらい有ったはず。
鼻先まで入れれば2メートル近くあって、体の小さい私たちから見ると騎乗できるほどのサイズだからね。
この個体だと、胴体長だけでも2メートルを大きく超えていると思う。