軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンダースナッチという魔獣 ③

返事をくれたこの人は、テレサと泊まり込みの強化合宿をしていたときにも居た人だ。

採掘場の出荷作業では、投げ縄を駆使して出来るだけシカを暴れさせずに吊り上げるのが重要だからね。

ナンナちゃんが確立した手順を分かっている人が指導してくれるのは安心できるし、とても助かる。

「ふむ?」

おや? このタイミングでお母様が思案顔をする。

見上げた視線がキャットウォークと崖上を行き来している。

ということは?

「・・・お母様たちも興味あるんじゃ?」

「そうだな!」

そわそわしながら正直に認めるお母様が可愛い。

バンダースナッチを取るか、シカの出荷を取るか、どちらも知的好奇心を刺激されるんだろうね。

ミリア叔母様からも聞いていたけど、昔もこんな感じで実験と研究に没頭してたのかな。

「・・・前に血を飲んだことが有るのって、エゼリアさんとアンリカさんとディーナさんの三人だけだっけ」

「あのときは、まだ何も分かっていませんでしたからね」

三人の表情がドヤっていて、他の五人も揃ってそわそわしている。

みんなと視線を交わし合ってるところを見ると、お母様もシカに傾きつつ有るかな?

ほんと仲良いよね。

面白そうなことに対する貪欲さも同じで波長が合うんだろう。

バンダースナッチの方が面白くなってくるのは方針を決めた後になるだろうし、出荷作業の方を楽しんでくれていれば良いや。

現時点でも、血を飲むことによる体内保有魔力量の増加は、延々と増え続けるものでは無いことが分かってきている。

そして、ルナリアやピーシーズを含めた私たちは、すでに全員が頭打ちになっている。

猟師さんたちも頭打ちになっているらしいけど、彼らは狩猟がお仕事だからね。

どうせ誰かが出荷作業をしなきゃいけないんだし、まだ魔力量の増量効果を見込める人が、楽しんで仕事をこなしてくれるなら一石二鳥だ。

「・・・崖上には、私たちだけで行ってくるよ」

「護衛はどうする」

そりゃまあ、心配はするよね。

何が起こってもルナリアだけは守り通す必要が有る。

真面目な目に戻ったお母様の確認に、私も真面目に検討し直す。

ふむ? 今回は対人じゃなく、対魔獣だからなあ。

護衛を必要とする場面の種類が違う。

対人面でも猟師さんたちを無条件に信じることは出来ないけど、万が一が有っても全員が敵に回る事態を想定する必要は無いだろう。

今、崖上でしなきゃいけないことと言えば、防衛計画と段取りを決めることだよね。

私一人での狩猟ならインスピレーションで決めるところだけど、今回の目的は採掘場の防衛で、お肉を獲ることじゃない。

大人数を動員しての作業では、個々の直感に頼っていては無駄が多すぎるし、バラつきが生じて防衛ラインに穴ができては防衛ラインの意味がない。

痕跡を辿っての状況確認が最優先で、次に位置関係と地形から最終防衛ラインを選定して、寄せ餌で誘導する場所とワナの設置範囲を決めるのが良いか。

「・・・痕跡を確認して、ぐるっと地形を見てくるだけだし、ピーシーズと猟師さんたちだけでも大丈夫だと思うけど」

「どうだ?」

お母様から目を向けられた猟師さんたちが互いに顔を見合わせて、異論が出ないことを確認した上で、お母様に頷いて返す。

「見回ってくるだけなら危険は無いかと」

「ふむ」

私と猟師さんたちの意見を踏まえた上で、思案顔のお母様がお婆様と視線を交わした。

お婆様が頷いたのを確かめて、お母様に確認する。

「・・・行って良い?」

「異変を感じたら、直ぐに戻れよ?」

私に無茶をする意志が無いことを分かって貰えたようだ。

分かって貰えたんだよね?

許可はくれたけど、お母様の首が傾いだままなんだよ。

もしや、私って信用が無いんだろうか?

んあー。こんなことに引っ掛かっていたところで無意味だからツッコまないけど。

「・・・そうする」

返事を返す私の微妙なテンションと、ルナリアたちのハイテンションは比例しない。

くるりとピーシーズや猟師さんたちの方へ向き直って両手を腰に当て、ペッタンコの胸を張る。

「じゃあ、行くわよ!」

「「「「「はっ」」」」」

元気なことは良いことだ。

元気が有れば何でも出来るんだっけダー。

猟師さんたちを引き連れて、ぞろぞろと階段を上がって崖上へと上る。

「・・・おお」

「ほえ~」

完成してから崖上へ上ったのは初めてだったかな。