軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンダースナッチという魔獣 ②

「こちらを」

「預かります」

私が頷くのを待って了承を確認したメリーナさんが、預かっていてくれたお花の束を差し出して、アンリカさんが受け取る。

「本当に真冬でも咲く花が有るのね」

アンリカさんの手へと渡った白い菊の花束に、お婆様が目を丸くする。

雑草だし、そんなに目立つ花でもないからね。

植物に興味でも無ければ視界に入っても意識に残らず見落とすことの方が多いと思うよ。

「・・・数はそう多くないから、お婆様たちもお供えして慰めてあげて欲しい」

「そうしよう」

歩み寄ってきたお母様に、ルナリアと二人してぐりぐりと撫でられる。

もののついでか、ヒョイとノーアを抱き上げる。

「・・・シカはどうだった?」

「50体ほど出荷すると言っていたが、本当に、毎日あれだけの数が増えるのか?」

感想を聞いてみたら、さすがのお母様も困惑は有るらしい。

こっちの世界の常識を知らない私でも困惑したんだから、いくら肝が据わっているお母様でも困惑しないわけが無い。

「・・・うん。餌も与えてないけど、朝になったら増えてる」

「ふむ? 魔獣は魔力から生まれるという説が有るが、ここは魔力が濃いのかも知れんな」

お母様も私が立てていた仮説と同じ考えに至ったみたいだね。

観察結果から仮説を立てて、ひとつ一つ裏付けを取るしか無さそうなんだけど、ちゃんと寝ないと叱られるしなあ。

一度、しっかりと観察記録を取れば、色々と分かってくるものが有りそうなものなんだけど、睡眠不足は体の成長に悪影響だからと夜更かしを禁止されてしまっては、採掘場に泊まり込んでシカを観察したいとは言い出しにくい。

一回死んだっぽい影響なのか、ルナリアほどドカ食いできないせいなのか、私の体はルナリアと較べても微妙に成長が遅れ気味な気がして、就寝前の読書時間もあまり取れずにいるぐらいだし。

ともあれ、今の話題はシカ増殖の謎についてだ。

「・・・やっぱり、それかなあ」

「夜中に増えているんだろう? 確認したのか?」

むむ。そりゃあ、正道だろうし、確認しろって言うよね。

「・・・まだ。したかったけど優先順位が低かったし、寝ないとみんなに叱られるから」

「そうか。しかし、考察を深めるなら、一度、夜間に観察した方が早いな」

面白そうに私の顔を見ながら、お母様が追撃を入れてくる。

「・・・だよね。観察したいよね」

「お待ちなさい。城壁の移設と育成施設用地の開拓の方が先でしょう」

ほらね。すかさずお婆様のストップが掛かった。

そう言われると思ってたし想定内だ。

優先順位的にも私に異存はない。

必要と実験を兼ねた慰霊碑作りでリニア魔法の目処がついたことで、城壁移設は出動命令待ちだし、開拓はピーシーズもヤル気だから、そっちも命令待ちでスタンバイ状態なんだよね。

私がどう動くかを見るつもりらしいお母様が、お婆様に同意を示す。

「確かにな。そちらも急ぐな」

「・・・じゃあ、観察は、また今度で」

お母様に教わった通りに決断は素早く。

次にすべき段取りは養成施設のプランニングとピーシーズ増員メンバーの訓練準備かな。

訓練の方はジアンさんが魔力の手を習得すれば一気に動くだろうから、プランニングの方が問題だなあ。

参考になる施設は無いだろうか。

お母様とお婆様はアカデミーの施設に詳しいだろうし、ハロルド様とハインズ様とお爺様は王都騎士団の訓練施設に詳しいよね。

食後のティータイムにでも聞き取りを進めるかな。問題点の把握と改善要望も有れば、王都に有る既存施設よりも良いものが作れるはずだ。

お母様の目が私へと向く。

「この後は?」

「・・・猟師さんたちに、バンダースナッチの痕跡を見つけた場所へ案内して貰おうかと」

「では、行くか」

危険で厄介な魔物ともなれば、お母様がじっとしているわけが無いよね。

一つ頷いたお母様が、崖上とへ続く階段へ向かおうとする。

「・・・あ。待って。ジアンさんやミセラさんたちには、シカの出荷作業をして貰おうと考えてたんだけど」

「血を飲ませるのね?」

お婆様の問う視線に頷いて返す。

血を飲んで体内保有魔力量を増やす効能というか、有用性を実感しているお婆様が監督してくれると助かるんだけどなあ、などと考えつつも兵士さんたちに目を向ける。

「・・・はい。採掘場に詰めている人たちなら、作業手順の指導もできるよね?」

「任せてください」

私の視線を受け止めた兵士さんの一人が控え目な笑みを浮かべる。

おお。買って出てくれたか。