作品タイトル不明
精霊信仰 ㉚
「・・・ついでだから鏡面加工にしちゃえ」
すでに手を付けている3段目から、四面と上面をツルッツルに均していく。
3段目が終われば2段目を。
2段目が終われば1段目を。
全面を均し終えたら作業は終了だ。
「出来たの?」
「・・・うん。慰霊碑、完成だよ」
全ての魔法を解除して、ルナリアに答える。
風に揺れる木々の枝葉に合わせて僅かな木漏れ日も揺れ動く。
鏡面に反射する光が煌めいて、薄暗い森の中で小さな光が瞬く様子は星空を眺めているみたいだ。
「綺麗ね・・・」
「・・・そうだね」
呆けたようなルナリアの独白に答えると、胸の中で魔力がわざめいた。
今は魔法を使おうとしてたわけでも無いし、ざわめくタイミングが掴めないというか、法則性が分からないなあ。
「フィオレ様」
「・・・ありがとう」
作業の間、私が摘んできたお花はレヴィアさんが預かってくれていたみたいだね。
ルナリアが摘んできたお花はメリーナさんが預かってくれるっぽい。
レヴィアさんの手から受け取ったお花の束をみんなで分ける。
1輪ずつ手渡して、私たちの手にも1輪ずつのお花が有る。
全員にお花が行き渡ったのを確かめてから、ルナリアとノーアと三人で連れ立って慰霊碑の前に立った。
「どうすれば良いの?」
「・・・お花を供えて、心の中でお兄さんたちに話し掛ければ良いんだよ」
「そっか」
私が台座の上面にそっとお花を置くと、ルナリアが同じようにお花を供え、ノーアも見よう見まねでお花を供える。
ルナリアが胸の前で両手の指を組み合わせて静かに目を閉じる。
食事前の感謝の祈りと同じで、欧米スタイルの祈りの仕草だね。
ノーアがルナリアの仕草を真似て目を瞑り、私も二人と同じ仕草で祈りを捧げる。
ルナリアはマークスお兄さんの実妹で、ユーエンさんたちから見れば仕える主の妹君だ。
お母様の養女となった私とノーアもまた、ハロルド様がお母様と再婚することが決まった今となっては、ルナリアと同じ立場で慰霊碑の前に立っている。
だから、私も心を込めてご冥福と輪廻の輪に戻られることと、出来るだけ早期のご帰還をお祈りする。
まあ、生まれ変わって戻って来たところで、私みたいに前世の記憶を持ち越しているので無ければ、お兄さんたちもルナリアも、お互いに誰が誰だか分かんないんだけどね。
ルナリアが懐いていた人たちなら、出来ることなら私も会ってみたいものだ。
叶わない望みだろうけど願うのはタダだしね。
ルナリアが待ってるから早く帰ってきてあげてね。
お母様もハロルド様も待ってるし、ハインズ様とセリーナ様も待ってる。
もちろん、お爺様とお婆様も待ってる。
それを言ったらレオノーラ様のこともハーヴェイお兄さんのことも、みんなが帰ってきてくれるのを待ってる。
ああ、オルレーシアお母さんとフレーリアも精霊の下へ還ってるのかな?
うん。そうだね。
ルナリアが書いた碑文は真理に等しいものだろう。
だって、この世界に来てフィオレになった私ですら、会ってみたい人たちが何人もいる。
心から、「早く帰ってきてね」と、そう願ってる。
胸の奥で魔力がさざめく。
いつもと違うのは、さざめきが広がっていくような感覚が有ることだ。
鏡のように静かな水面に波紋が広がるように、私という「枠」を超えて、さざめきが静かに広がっていく。
不思議な感覚だな。
漣(さざなみ) に触れて何かがフワッと舞い上がった気がする。
ビーカーの底に溜まった 澱(おり) が、水の動きで舞い上がるような感覚。
でも、「悪いもの」ではない。
本能的な部分で、そう感じる。
舞い上がった澱はスゥッと色を薄め、気配が消えてしまうほど希薄になって、どこまでも高く舞い上がっていく。
澱が舞い上がって空白になった空間には周囲の澱が押し寄せて、元通りに隙間を埋めてしまったように感じる。
何とも不思議な感じだったけど、夢の中のように、最初から何も無かったようにも思う。
ただ、何となくスッキリとして心の中が軽くなったような?
祈りを終えて瞼を開くと、みんなの視線が私に集まっていた。
およ。私が最後だったんだね。
ルナリアもノーアも、私が祈り終えるのを黙って待っていてくれていたようだ。
ピーシーズもミセラさんたちも、すでに祈り終えてたみたい。
「・・・お待たせ。さあ。次、行こうか」
「うん! 次は崖の上ね!」
声を掛けると、スッキリとした笑顔でルナリアが頷く。
他のみんなも、どこかスッキリとした顔をしている。
慰霊碑を作ったのは良かったみたいだね。
一度、採掘場に戻るか。
崖上に上がることをお母様たちに報告して、獲物の回収作業が終わっているなら、猟師さんたちも引き連れてバンダースナッチの痕跡確認かな。
タスクの一つは終えたけど、まだまだタスクは積み上がっている。
ヤルぞー。