作品タイトル不明
精霊信仰 ㉙
碑名って、一般的には石材加工用の 電動回転式研磨機(ルーター) で掘り込むんだっけ。
あんまり細かく観察したことは無かったけど、所感的に、文字の太さと彫り込みの深さは1対1ぐらいの比率だったように思う。
文字を彫り込むのとは逆に、文字の方を出っ張らせる”浮かし彫り”という技法も有るけど、出っ張り部分に埃やゴミが積もりそうで嫌だな。
文字の方が引っ込んでいても埃やゴミは積もるのだろうけど、多少はマシな気がする。
掃除する必要性が減れば減るほど、メンテナンスフリーで維持管理も楽になるだろうし。
と、いうわけで、”彫り”一択なんだけど、墓碑なんかでも、文字の彫り込みは明確に角が立っていてハッキリと読めたよね。
パソコン用の画像編集ソフトでも、画素数が大きくて色の境目を明確にした方が鮮明な画像に見えるんだっけ。
つまり、今、この場で言えば、石碑の表面に対して彫り込みの角をキッチリと立てることで、碑文の一文字一文字をシャープに見せることができるわけだ。
普通は、どうするんだっけ?
確か、アレだ。石の表面に文字を彫り込んだ後に、仕上げで石の表面の方を研磨して角を立てるんだったかな。
すでに技術として確立されている技法なら、それに従っておくべきか。
「・・・よぉし。ヤルぞ」
石碑の表面にルナリアが木炭鉛筆で書いた文字の木炭を認識する作業だ。
無機物と無機物の違いは認識し辛いけど、先に魔力を浸透させてあったものと、それ以外、という分類で有れば識別できるはず。
予想通り、石碑の表面に薄く付着している「別のもの」がある気がする。
「・・・むー。コレかな?」
木炭で書かれた文字とは、圧力と摩擦で押し潰された炭の粒子が、へばり付いている状態と言えるよね?
要は「異物」だ。
これを認識するのは解毒魔法のときの応用になるのかな。
石材に魔力を浸透させた石材に付着している異物―――、汚れのようなものとして、意識を集中すれば認識できる。
炭の粒子を認識できたなら、それを石碑の奥に向かって、質を変えた魔力の手の指先で押し込めば良いだけだ。
「・・・ここを、こうだ」
押し込む深さは3センチメートルも有れば良いかな。
石碑の表面を平たく保ちながら、粘土のように少し柔らかくして、同時に碑文の文字部分に圧力を掛けて押し込む。
魔力の手の指先が、木炭で書かれたルナリアの字をなぞって軌跡を残していく。
再び石材をキュッと絞めれば、碑文が刻まれた石碑として残るって寸法よ。
ただし、グググと押し込まれた文字の部分は、周囲の表面を巻き込んで縁が丸くなってしまっている。
これでは刻んだ文字の輪郭が、ぼやけてしまって、文字を読み取りにくいだろう。
「・・・なるほどなあ。こうなるのか」
こりゃあ表面を研磨する必要が有るわけだ。
「研磨」ってことは「削る」ってことだけど、削ると言えばアレだよね。
風ジェットカッターの本来の使い方。
私の風ジェットカッターって、よく考えたら”サンドブラスト加工“になるんだろうか。
原理はウォータージェットと同じだけど、飛散する研磨剤を吸引することによる” 塵肺(じんばい) ”被害が頻発して、世界各国で使用禁止技術になったんだっけ。
異世界ファンタジー風味に言えば、使用者と周囲の健康を害する禁断の技法だ。
塵肺被害と言えば、産業革命以降の鉱山労働でも頻発した職業病の一つで、近年では自動車や工場が撒き散らす排気ガスや工業排煙に含まれる、PM2.5なんかの微細粒子が国際問題化していた。
そんな塵肺被害患者をウォーレス領で出すわけには行かないから、魔力の手で完全密閉した内側で加工すれば良いだろう。
角が丸まってしまっている深さは、最大で2~3ミリメートルってところか。
「・・・だったら、5ミリも削り取れば良いよね」
石碑の表面から5ミリメートルの深さで平面状に魔力を固める。
石材の内部に防御魔法を平たく展開した状態は、 被覆保護(マスキング) したようなものかな。
風ジェットカッターを発動して石碑の表層だけを削り取る。
魔力の手の内側で、シャアアアアアアア! っと、甲高い擦過音を伴って埃が舞った。
空気が白っぽく濁って見えるほどの密度で、削り取られた石材の破片が粉塵状に舞っているのだから、こんなものを日常的に吸い込んでいれば肺を悪くして当然だよね。
研磨が終わって粉塵が収まってみれば、しっかりと角が立った碑文はくっきりと鮮明に読み取れる。
研磨で減少した厚み分は、集めた粉塵を石材の内側に取り込んで固めてしまえば元通りだ。