作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ①
ルナリアと二人でノーアと手を繋いで森を歩く。
ふむ? 確かに私も、少し心が軽くなった気分になってるね。
やっぱり、墓碑を建てて故人のために祈る行為には、残された者の心に区切りを付ける意味が有ったのだろう。
「精霊様って、森のどこに居るのかしらね?」
「・・・うーん。どこなんだろうね?」
答えに困るなあ。
思い詰めた感じのない純粋な疑問って感じだけど、ルナリアに答えてあげられる明確な情報を私は持っていないんだよね。
地球の精霊信仰だと「どこにでも居る」って答えになるんだろうけど、過去に精霊が実在していた、こっちの世界だと、精霊にも生態のようなものが有ってもおかしくないんじゃないかと考えてしまう。
精霊が実在するなら、「精霊の下へ還る」という「魂」も実在するんじゃないかって仮説が現実味を帯びてくるし、死霊系という霊体だか幽体だかの魔物が実在すると言うのだから、精霊も似たような存在なんじゃないだろうか。
「生物は”肉体”と”アストラル体”と”エーテル体”の三つが重なり合って存在するもの」って思想は”神智学”だっけ?
あんまりオカルト系に興味が無かったから詳しく知らないけど、日本語で意訳すると「肉体」と「霊体」と「精神体」だっけか。
キリスト教系の解釈か「日本的」解釈かで、大きく違ってた気がする。
肉体が生命活動を恒久的に停止する現象を「死」と定義するなら、死霊系の魔物とは、霊体と精神体のどちらを指すものなのか。
それ以前に、魔物化した霊体だか精神体だかは、生前の個体と同一のものなのだろうか。
死霊系の魔物と言えば、ゾンビだの骸骨だのも居るんだよね?
死を迎えた「肉体」にそのまま霊体や精神体が同居している場合、それは肉体の在り方が変わっただけじゃないの?
そうすると「死霊系の魔物」という定義も怪しくなってくる。
私が得た知識は「そう伝わっている」という概要でしか無いし、自分の目で実物を見たわけでも自分の手で調べたわけでもない。
そして、その「そう伝わっている」が間違っていた実例にも、私はすでに遭遇している。
この辺は、実際に死霊系の魔物を検証して仮説を立てないと、「精霊って何?」という推測も出来ないし、生態の予想も立てられない。
何をもって「精霊の下へ還る」としたのか、いつ「帰ってくる」のかも分かりようが無いよね。
ちゃんとルナリアに答えてあげられるようにするには、先ず、死霊系の魔物を調べてみるべきだろうか。
「おう。戻ったか」
「いれいひ? を建てて来たわ!」
採掘場の門を入ると、お母様たちがキャットウォークから下りてきていた。
元気に答えるルナリアに、お母様たちが揃って首を傾げる。
「何を立てたって?」
「・・・亡くなった人たちの魂を慰める石碑のこと」
石碑と聞いて、何を建てたのかには理解が及んだようだ。
レティアの町に「墓碑」は有るんだから、お母様たちにも変だと思われるかな?
「マークスたちの魂を、か?」
「・・・そう。精霊様が森に居るのなら、森に建てた方が伝わるかなって」
少し沈んだお母様の声に、大きく頷いて私が答える。
お母様たちにも必要なものだと思ったから、早めに建てたかったんだよ。
お母様たちも新しい門出を迎えるのだから、気持ちの整理は必要だと思ってたし、ルナリアが考えて書いた碑文は、みんなの気持ちを的確に、ピンポイントで代弁するものになったと考えている。
「早く帰ってきてね、って書いたの!」
明るく笑うルナリアの願いに、お母様たちも精霊信仰の言い伝えに思い至ったのだろう。
みんなが目元を緩める。
「ならば、私も後で行ってみるとしよう」
「そうね」
「私もご一緒させていただきます」
お母様だけで無く、お婆様とジアンさんも頷いたのを確かめて、ルナリアが私へと振り返る。
「お母様たちに摘んできたお花をあげても良い?」
「・・・良いよ。崖上は、まだ場所も確かめていないし、心配しなくて良い」
ほんと、優しい子だよね。
ヨシヨシと、ふわふわの金髪を撫でる。
フランスギクが生えている場所は押さえたし、開いていない蕾がまだまだ沢山あったことも確認済みだからね。
2~3日もすれば、また沢山咲くはず。