作品タイトル不明
精霊信仰 ㉗
板ガラスと板ガラスを重ね合わせると、空気層が間に挟まっていればツルツルに滑るけど、空気層が無くなると逆にピッタリと貼り付いて引き剥がすのも難しくなるものだ。
よくよく思い出してみれば、スケートリンクはツルツルに滑るのだって、氷の表面に溶け出した水の皮膜ができるのが滑る原理だと聞いたことが有ったな。
てことは、ツルツルに滑らせるキモは間に挟まる水か空気の層だよね?
要は、”非接触状態”だ。
足元の鏡面の上に空気層を置いてみる。
イメージはバランスボールみたいな風船状かな。
ツルツルの地面の上に、不可視の平たい空気層が乗っかっている感じだろうか。
空気層の上に片足を置いてみれば、鏡面と靴裏の間に空気が挟まっていて靴裏が宙に浮いている。
グニグニと足を動かしてみれば、なるほど、さっきよりも圧倒的に小さな抵抗しか感じない。
私の隣ではルナリアとノーアも空気層の上に片足を置いてグニグニやっている。
「・・・どう思う?」
「うーん? ツルツルにはなったけど、微妙に違うかも」
「・・・だよねえ」
かなり近い感じにはなったけど、ほんの僅かに抵抗が感じ取れる。
現に、鏡面状態になった地面の上でルナリアとノーアがスイーっと滑っても、1メートルちょっとで止まってしまっている。
輜重部隊の人のツルツル魔法って、木の重さで初動の重量感は有ってもスゥーッと動く感じだったように思う。
もっと抵抗が少ないものって何が有る?
何か有ったように思うんだけど、何だったかな。
思い出しそうで思い出せないもどかしさに頭を抱える。
がんばれ! 思い出せ! 唸れ、私の灰色の脳細胞!
「・・・ぐぬぬ。滑るもの、滑るもの、―――ハッ」
アレが有ったな!
リニアモーターカー。
アレって電磁石の反発力で浮いているから、浮いていること自体の抵抗は無いんだよね。
ただ、浮いている対象物そのものの重量は存在するから、普通は横移動させようとすれば横ベクトルの応力が必要になる。
ところが、リニアモーターの技術としては反発力の軸をずらすことで、わざわざ横ベクトルの応力を必要としない通電制御を行っている。
磁石のS極同士、N極同士を正対させたときの軸のズレで、磁石が横向きに逃げようとするアレを高速かつ精密な通電制御で作り出していたはずだ。
何も、石碑や城壁を時速300キロメートルで動かそうってわけじゃないんだから、やれそうな気はする。
石碑に地核が有るわけでもなく、磁力線だとかが知覚できるわけでも無いけどけど、磁力による反発力が発生しているイメージぐらいは出来る。
石碑と地面が、それぞれ別のデッカい磁石だと思えば良いんだからね。
磁力が強すぎるとコロンとひっくり返る気がするから、あまり強い磁力はイメージしない。
魔力の手で押してみれば、イメージ通りにスルスルと動く。
「・・・輜重部隊の人のイメージは、こんな感じだったのかな?」
「成功したの?」
「・・・たぶん?」
ルナリアの問いに答えながら石碑を左右に動かしていると、獲物の動きを追い掛けたくてウズウズしている猫のように、ルナリアとノーアの目も石碑の動きとリンクして左右に動いている。
具体的にはレーザーポインターの光点を目の前の床に照射された猫っぽい。
「ねえ。動かしてみて良い?」
「ノーアも」
「・・・どぞー」
お利口さんで「待て」をしていた二人に「ゴー」を出したら、早速、石碑に取り付いて、わちゃわちゃし始める。
そこにピーシーズとミセラさんたちも加わるのだから、もう、わっちゃわちゃになる。
「あっ! こんな感じだったわよね!」
「にゃ~」
ノーアがしがみついた石碑を、ルナリアがスイスイ動かしたりクルクル回転させたりして遊んでいる。
新感覚の回され方でクルクルと回されているノーアも楽しそうだ。
「・・・イメージが同じかどうかは分からないけど、実用する分には問題ないと思うよ」
「さすがフィオレね!」
輜重部隊で運用している魔法のイメージが、どんなものなのかは、改めて聞いてみるとして、私のイメージとしてはリニアモーターで良いんじゃないかな、と考えている。
ネット上で一般的に解説されてる原理しか知らないけど、電磁石の反発力で浮上するって言うなら、電磁石を強力にして消費電力を大きくすれば、浮上する高さも磁力線が届く範囲内で調整できる理屈になるはずだし。
電磁石の原理を習ったのは小学校の理科実験とかじゃなかったかな。