作品タイトル不明
精霊信仰 ㉔
「また変なこと言って」
「・・・良いんだよ。それでルナリアが元気になるなら」
きょとんとしたルナリアが、一拍置いて照れくさそうに再び笑う。
ちょっと変わってると思われるぐらいは大した問題じゃないな。
ルナリアは笑ってる方が、お兄さんたちだって安心してくれるはずだ。
さて、どう作ろうかな?
場所は? 大きさは?
落石を避けるのに洞窟状に崖面を掘り込んで祠にしてみる?
それとも、史跡の墓碑みたいに一段上がったステージ状にしてみる?
あれって、”石舞台”って言うんだっけな。
ノーアの手を握ったまま、私が何をするのかと眺める体勢に入ったルナリアの姿が目に留まる。
ルナリアの気持ちを軽くするためのものなのに、私が全てを作るのは”違う”かな。
何らかの作業でルナリアも携わらせるべきだろう。
「・・・私が石碑を作るから、碑名はルナリアが入れてあげない?」
「ひめい、って何?」
悲鳴じゃないよ。
首を傾げるルナリアにも分かる言い方にした方がいいな。
「・・・石碑に刻む文字だよ」
「ああ。お墓の名前みたいなもの?」
うむうむ。ルナリアは理解が早いね。
碑文って説明した方が良かったんだろうか。
「・・・そそ。“慰霊碑”とか簡単なものでも良いけど、“安らかに眠れ”みたいな願い事でも良いんだよ。みんな、ルナリアに刻んで欲しいだろうと思うから」
「願い事かあ・・・。考えてみるわ」
「・・・んじゃ、私は、ちゃっちゃと石碑を作っちゃおっかな」
ノーアはシンキングタイム中のルナリアに任せて、私は作業に取り掛かる。
んーっと。先ずは、祠状にするか石舞台にするかだけど、どっちにするか。
蔓草に半ば覆われた垂直な崖を見上げる。
これが崩れて来ないと考えるのは楽観的に過ぎるかな。
落石で墓碑が傷むのを避けるのに祠状も有りかと考えたけど、崖の組成がド素人の私には判別できないから、多少の落石は有り得ると考えた方が良さそうだ。
下手に祠状にすると、坑道やトンネルみたいに祠の天井が崩落して墓碑そのものが埋まってしまう可能性だって有るものね。
重力による応力を考えれば、垂直よりもオーバーハングした崖面の方が崩落の可能性は高い。
だとしたら、祠状は無しだ。
「・・・石舞台か」
”敬う対象”って意味で”一段上がる”のは、古今東西、万国共通の文化だ。
王都で王様と謁見したときにも王様は一段高い場所に据えられた玉座に着いていたし、こっちの世界でも敬意を示すものと考えて良いだろう。
落ち葉が振り積もり続けるこの森の中では、一段上がっていれば、実際的に慰霊碑が落ち葉に埋もれてしまう事態は避けられるはず。
ヨシ。決めた。
馬車と枯れ葉の山を囲い込んだ範囲を、一段上げた石舞台にしてみよう。
「・・・ふむ」
ご遺体が有った場所を人が踏ん付けて、ご遺体が無かった場所に墓碑を建てるのは違う気がするなあ。
小枝を手に、ご遺体現場を中心とした地面に、10メートル四方を正方形に囲んだ線を引く。
ガタガタに線が歪んだ四角形になったけど、あくまでも位置の目安だから下書きが歪んでいても構わない。
記憶に有る神社やお寺の石舞台を思い出してイメージするだけだから、完成品はそんなにガタガタにはならないはず。
普通に考えて、墓碑は崖を背中にするのが良いかな。
どうせ落ち葉で埋まるんだし、ここに慰霊碑が有るから無闇に踏ん付けるなよ? と示せれば良いだけだから、石舞台の高さは50センチメートルも上げれば良いか。
腰の小物入れから魔石を取り出して地面に魔力の手を差し入れて、石舞台予定地の形状に合わせて魔力を広げる。
また胸の中で魔力がざわめくけど、ざわめくに任せて土魔法を発動する。
「・・・ヨシ。ギュッと」
魔力の手の中で握り固めるイメージに従って、地面の下からピキピキと固い音が聞こえ始める。
魔力が浸透した土をカチカチの石になるまで圧縮して固めると、体積が小さく圧縮された分、ググッと地面の高さが下がる。
だがしかし、こんなことで私は慌てない。
ポドック領の大穴と昨日の立ち会いで土を圧縮すると体積が減ることを学習している。
物理的にも圧縮成形すれば体積が減るのは理屈に適っているし、体積減少分も見越して多めに固めれば良いだけだ。
「・・・ほい。上がっておいで」
私の意志に従って、石舞台の形状に整形された地面がズズズと迫り上がってくる。
私のイメージ力が未熟なせいか飾りっ気は無いけど、性能が足りていれば良かろうもんなのだ。
まあ、お巫山戯は無しとして、深さ2メートルほどの地面をギュッとしたから1メートルぐらいの厚みは残ってるだろう。
地表から持ち上げるのは50センチメートルで良いのだから、再び整形してお墓の形状を絞り出すぐらいは問題のない体積は有る。
謎なのは持ち上がった石舞台の下に有る体積分の土は、一体、どこから来たのかってことだけど、見えない場所のことは分からないのだからスルーしておこう。