作品タイトル不明
精霊信仰 ㉒
咲いているお花を全て摘み取った私たちは採掘場へと戻る。
ルナリアに任せて歩いていたら、門を潜らずに行き過ぎたので、お兄さんのところへ立ち寄りたいのだろう。
ピーシーズを引き連れて、崖沿いを連れ立って歩く。
雑談しながら歩いていたルナリアの口数が、3ヶ月前までマークスお兄さんの馬車が眠っていた現場へ近付くほど減っていく。
お兄さんたちの怨霊化を防ぐために、念のため馬車は燃やされて、燃え残りの炭の欠片と名残を示す焼け焦げた崖面しか現場には残っていないんだけどね。
私の言うオカルト的な“幽霊”というものを有り得ないと断言するルナリアも、この場所へ来るとお兄さんたちのことを思い出してしまうのだろう。
ノーアの手を握ったまま、蔓草に覆われた崖をルナリアは寂しそうに見上げている。
普段、ルナリアは口にも態度にも出さないけど、お兄さんの遺骨から回収された銀の指輪を、ピカピカになるまで自分の手で磨き上げた上で、とても大切に保管している。
今のルナリアの細っこい指には指輪のサイズが大きすぎてブカブカなせいも有るけど、サイズ直しを薦められても拒否したところを見ると、たぶん、後継者として自分がまだ実力不足だとでも考えてるんじゃないかな。
誇り高くて責任感の強い子だからねえ。
まだ「子供」で居てくれても良いのに。
今はもう居ないお兄さんたちの前で、まだ胸を張れる実力が無いと考えているのなら、宙ぶらりんなルナリアの気持ちの行き場は、どこになるんだろうと心配になってしまう。
「・・・ね。ルナリア」
「なに?」
「・・・お兄さんたちの慰霊碑を建ててあげない?」
私の提案に、ルナリアが首を傾げる。
「いれいひ・・・。前にも言ってたわね」
「・・・うん。お墓とは別でね。魂を慰めるための石碑を作るの」
「お兄様たちは、ご先祖様たちと同じお墓に入ったのよ? お兄様たちは、ここには居ないわ」
その辺りの心に整理は付いているのだろうルナリアは、キッパリと言い切る。
ルナリアの言う通り、お兄さんたちの遺骨はレティアの町で荼毘に付されて、無事に先祖代々の遺灰槽へと納められている。
亡霊系の魔物が実在するこっちの世界では、オカルト的な意味での幽霊の存在は信じられて居ないって言うのは分かるけど、正式な墓所とは別に、死者を悼む慰霊的な意味でのモニュメントは有っても良いと私は思う。
それに、私が森に慰霊碑を建ててはどうかと考える理由が、昨日、もう一つ出来たし。
「・・・でも、死んだ人の魂は精霊様の下へ還るんでしょ?」
「そうね」
「・・・精霊様って、森に居るんじゃないの?」
私の推測が理解できなかったのか、ルナリアが目をまん丸にする。
「へ? なんで?」
「・・・昨日、エルザさんから聞いたけど、新年のご祈祷って森の入口でするんだよね?」
私の指摘にルナリアの表情がハッとしたものになった。
「あっ。じゃあ、お兄様たちは森に居る精霊様のところへ還ったってことになるのかしら」
「・・・森で頑張ってるルナリアのこと、お兄さんたちは見てくれてるんじゃない?」
「見てくれてるのかな」
普段は見せないけど、しょんぼりするルナリアが、マークスお兄さんの死去で、ずっと落ち込んでいたことを私は知っている。
みんなを心配指さないために隠れて泣くルナリアは、責任感が強い子で、心の強い子だ。
それでもまだ6歳を目前にした幼女に過ぎなくて、本心では、寂しがっていて悲しんでいるからこそ、私やノーアと一緒に居たがるのだろう。
この小さな体にウォーレス領の、―――王国の期待を背負わされているのだから、少しでも心のケアをしてあげたい。
私が提案して、引っ張って、やり過ぎたなら一緒に叱られて、心の中に抱え込んでいるものを少しでも発散させてあげたい。
「・・・だからね。今日も来たよー、って、ルナリアが頑張ってることを、お兄さんたちに伝えられる場所が有った方が良いのかな、って思ったんだけど」
「そうね・・・。そうよね。作りたいわ!」
うむうむ。前向きになったね。
”故人のために自分も何かをした“という実績も、心の整理という意味では無駄では無いと思うし、何かをすることで心の中に明確な区切りを付けることだって出来るかも知れないものね。
試してみたいことも有るし、同じヤルなら徹底的に、だ。
「・・・じゃあ、作ろう」
「うん!」
明るく笑って大きく頷くルナリアの姿に、私のヤル気も盛り上がる。
ルナリアが元気なことは良いことだ。