作品タイトル不明
精霊信仰 ㉑
可能性が高いのは小川の河岸周辺の日当たりが良い場所や、野イチゴが生えていた場所の辺り。
開花時期も12月ぐらいから春までと長いし、すでに開花シーズンに入っている。
ヒナギクみたいな白くて小振りな花を咲かせるんだよ。
採掘場からもそんなに距離は離れていないし、あっちへ行くなら久しぶりに松の大木にも会える。
「じゃあ、探しに行ってみる?」
「・・・お母様たちに一声掛けてから行ってみよう」
「そうね! 行くわ!」
そうと決まれば、即、行動。
マーサさんたちの死亡現場に供える仏花を探しに小川へ行ってくると告げると、お母様もお婆様も快く許可をくれた。
そのお母様たちは、といえば、気になっていたシカの増殖状況を見てみたいと、すでに見たことが有るお婆様の案内でキャットウォークに上るらしい。
猟師さんたちは、早速、採掘場周辺のワナを回る回収作業に取り掛かっている。
さっさとお花を調達して、私たちも仕事に取り掛からなきゃ。
「・・・んじゃ、行こっか」
「うん!」
ピーシーズとミセラさんたちを引き連れて、ルナリアと二人でノーアと手を繋いで採掘場を出る。
久しぶりではあるけど、私のテリトリーだからね。
ルナリアも勝手を知っているエリアだし、迷いのない足取りで森を歩く。
マークスお兄さんたちの馬車現場に供えるお花も併せて調達してあげたいな。
少し歩けば見慣れた景色が見えてくる。
半年間、この周辺を歩き回っていた私がレティアの町へ移って居なくなったことで、いくらか下草が増えたようだ。
辺り一面、大量に転がっている松ぼっくりを見ると、松の実を掻き集めたくなってムズムズするよね。
だって、半年間も私の命を繋いでくれた“命の種”だもの。
思い入れも有るし、何より、ワナ猟や干し肉作りや岩塩掘りの傍らで、体力と時間に余裕が有れば集めまくっていたものだから、目の前に転がっていると、ほじくり出したくなって仕方がない。
今はお供えするお花を探す方が上位タスクだから手出ししないけどね。
洞の入口を塞いだ土魔法に異状が無いことを確認したら、一度、愛しの松の大木にヒシッと抱き付いてから、ルナリアの呆れた目線をスルーしつつ何ごとも無かったかのように再びノーアの手を取って歩き出す。
「・・・皆まで言うな」
「まだ何も言ってないわよ?」
「にゃ」
だよねー。
ピーシーズも何も言わずに私の奇行をスルーしてくれている。
ハァ、落ち着いた。
松の大木のセラピー効果ったら他では無いね。
少し歩いて小川に着いたら河岸を見回して、咲いているお花が見当たらないので下流方向へと歩いてみる。
小川の流れに削られて自然に出来た土手だから、人口的な土手ほど高さが無いんだよね。
100メートルも下らないうちに、ほら、有った。
そんなに多くは咲いていないけど、予想通りフランスギクの小振りな白い花が咲いている。
どこかから種が運ばれてきたのか、ひと塊に密集して30輪ぐらいは咲いている。
緩やかに吹き抜けた風に揺れる花の前でしゃがんだルナリアが、驚きに目を瞠っている。
まあ、確かに「あれ?」って首を傾げたくなる光景では有るよね。
「本当に真冬でも咲くものなのね」
「・・・生存戦略じゃないかな」
真冬って言っても昼間の気温は摂氏10度以上は有るんじゃないかな。
肌感覚でしかないから、実際、どうなのかは分かんないけどね。
3月下旬に目覚めた私にとっては初めての冬だけど、一番冷える夜明け頃でも氷点下まで冷えることが無いと聞く王国の気候では、日本で言えば晩秋か初冬ぐらいにまでしか寒くならないレベルだ。
四季の有る国の季節感から言えば、真夏の暑さでもエアコンが必要無いレベルの四季なんて、有って無いようなものだろう。
開花している株に手を伸ばして30センチメートルほどの長さで茎を手折る。
「生存、何?」
「・・・生存戦略。冬だからって受粉を手伝ってくれる虫が全く居ないわけじゃないし、他にお花が咲いていない季節だから、他の草花に紛れないで目立つんだと思うよ」
私と同じように茎を手折りながらルナリアが微妙な顔をする。
「ふーん。草花の世界も世知辛いのね」
「・・・そうだねえ」
そりゃまあ、草花だって生きるか死ぬかの世界だしね。
たまたま種が落ちた場所次第では芽を出すことも出来ずに死ぬかも知れないし、手足が無いんだから草食動物が襲来しても、草花だと逃げることも戦うこともできない。
自分の体に毒を蓄えて捕食者を殺せたところで食われた時点で自分も死ぬのだから、草花には生き方の選択肢も無いんだよ。
「生きる」って行為そのものが戦いなんだし、生き方にまだ選択肢が有る人間に生まれた幸運に感謝しつつ、精一杯、今日を生きるしかない。