作品タイトル不明
精霊信仰 ⑲
ほんの2週間ほど来なかっただけなのに、驚いたことに採掘場の外周を囲う防護壁の内側に大量の石材が積み上げられていて、様変わりしている。
これ、何の材料だろ?
採掘場へ初めて来たお母様たちは、早速、兵士さんや技師さんを取っ捕まえて質問責めを開始している。
採掘状況や見通しの把握も有るだろうから、現場の人たちから報告と説明を受ける方が良いだろうね。
向こうは向こうで始めているのだから、私は私で気になることを確認しておこうか。
「・・・この石材って?」
「先日の戦争が早々に終わったことと、塩と干し肉の売れ行きが好調で、採掘場の建て替えの予算が付いたんですよ」
兵士さんの答えに私の首が傾ぐ。
ふむ? 予算というのは、資材という意味では無く、人件費や食料費という意味だろうか?
たぶん、この石材って、どこかから切り出されたものじゃなく、採掘作業で出た土を魔法で固めたものじゃないかな。
崖の岩石と似た色の石だから、おそらく、そうだと思う。
集めてくる土魔法術師たちや運搬作業に動員した作業員さんたちの人数だけでなく、お給料や食事の予算も増えたんだろうね。
同じ説明を聞いてルナリアが疑問を抱いたのは別の部分だったらしい。
「もう建て替えるの!?」
「住居の建設で木材の需要も有るそうで、どのみち建て替える必要が有るのだから、前倒しでやってしまえ、ってことらしいですよ」
驚いて目がまん丸になっているルナリアの様子に兵士さんたちが微笑ましげにしている。
余裕が有る内に、ってことか。
完成して間も無いのに、って気持ちは私も有るけど、思い切ったよね。
「・・・ははぁ。セリーナ様の判断かな?」
「予算のことだから、そうじゃないかしら」
カリーク公王国の動きが怪しいって情報が入る前に出した判断なのだろうから、スケジュールに変更が入る可能性が有りそうだな。
もしかすると、建て替え計画の前倒しで人の数が増えたから、バンダースナッチの出没徴候も情報を拾えたのかも。
人が増えたことで情報量が増えたと言うなら、それは人手が足りなくて情報を獲り零していたとも言えるんじゃないだろうか。
詳しく状況を確認すると同時に人員配備の見直しも提言した方が良さそうかも。
「我々は詳しく聞いていませんが、防衛施設が堅固になるのは有り難いことです」
「・・・防衛って言えば、バンダースナッチの出没状況は、どうなってるのかな」
「今のところ、大きく接近はして来ていないようです」
大きくは、か・・・。ははぁん?
「・・・少しは接近してきてる、ってことだよね?」
「はい。まだ1キロメテル以上の距離は有りますが、バイコーンの存在に気付けば急接近してくる可能性は高いと思われます」
兵士さんたちも油断はして居なさそう、かな。
思っていたよりも事態は切迫している可能性が有るね。
「・・・どういう状況で痕跡を見つけたか分かる?」
「警戒に回せる兵員が増えたので巡回範囲を広げたところ、新たな獣道を発見しました」
獣道が出来上がっていると言うことは、しばらく前からバンダースナッチの縄張りに入っていたわけだ。
発見が遅れたのは、やっぱり人員不足が原因だったと考えて良さそうだ。
巡回頻度を少し抑えて、その分、警戒範囲を広げるとか、すぐに手を打っておいた方が良いな。
「・・・群れの規模は分かる?」
「10体ほどと思われますが、仔の足跡が見つかっています」
前情報の通り、そんなに大きな群れでは無さそう?
お婆様たちが「群れに仔が居ると危険」と言っていたことを思い出す。
追う側でも追われる側でも仔が居る動物というものは、総じて、仔を守ろうとして凶暴性が増すものだ。
私だって、ルナリアやノーアの命が掛かっている場面に遭遇すれば、凶暴化すると思うし。
普通に考えるなら、仔が居る群れは多くの獲物を獲る必要も有るのだから、貪欲にもなるだろう。
お肉を獲るためなら私も貪欲になるし、ちょっとだけ親近感が湧いてきちゃったな。
仔の存在で危険度は上がるだろうけど、ただでさえ凶暴性が強くて警戒心が低い魔獣のことだ。
より、ワナに掛かりやすい条件になっていると考えることも出来るね。