作品タイトル不明
精霊信仰 ⑰
王様という上位の意志決定権者が居て、王都から遠く離れたウォーレス家よりも、王様の近くに居る王宮関係者の方が説得の機会を多く持っている。
この辺りは地政学的、というか、物理的な距離の問題だから、どうしようも無い。
どこかで悪意を持って情報を歪められる可能性が高いのだから、こちらも最終防衛線としてワンクッションを入れておくべきだ。
無理筋の条件を押し付けられたときに、「社長に確認してみますね~」とか「役員会の稟議が通れば~」みたいな時間稼ぎが出来る状況を作っておけば、取引上の失敗を犯す可能性を減らせる。
この意志決定システムが一般的だったのが「日本式経営」で、リスク低減を実現すると同時に、意志決定の煩雑さと遅さが「悪癖」として諸外国から指摘されていたものだ。
でも、その「日本式」は、本当に悪いものだったんだろうか?
デジタル化が進んで社会の変化速度に付いて行けなくなったから、攻めの観点では「悪癖」と評価されるようになったわけだけど、外圧に対抗する組織防衛の観点に限れば、「のらりくらりと逃げられる」やり方は優れていたんじゃないだろうか。
「バスに乗り遅れるぞー!」とか、急かされて脅されても、ゆっくり、じっくり、コトコトと煮詰めてから決断できる環境を作れば良いんだよ。
これからのウォーレス領は利権に噛み込もうとする外圧が高まるのは確実だし、組織防衛が必要な局面が続くのだろうから、こちらでガッチリと主導権を握っておけば慌てずに済む。
本音を言えば、私は「新領地そのもの」を守るつもりは無いからね。
新領地はウォーレス領を守るための 緩衝地帯(バッファ) で構わないと考えている。
極論すれば、いざとなったら私が新領地の統治権をルナリアに渡して、ウォーレス領と合体してしまえば良いんだし。
無理に独立独歩を維持しようとすれば分断工作の隙になるだろうけど、一体に戻せば、いつだって、その隙を無くせる。
そう言った意味でも、丸投げ元請けの立場は私が確保しておきたい。
もちろん、ルナリアと私の分断工作なんて許すつもりは、さらさら無いけどね。
「・・・さてと。どうやって説得しよっかなあ」
「そのまま伝えれば良いんじゃないの?」
「・・・ええ?」
ルナリアが、「誰を」や「何の」の意味を正確に理解した上で言っていることは何となく分かるけど、ただでさえ、セリーナ様を「振り回している」なんて評価をカレリーヌ様から頂戴しているのに、いい加減、身内からも反発を食らいそうじゃない?
「フィオレが王国を守ろうとしていることも、みんなを守ろうとしていることも、みんなが分かってるんだから、誰も反対しないわよ」
「・・・いや、でも、利権に関わることだし」
「するわけ無いの!」
私の反論は、軽く肩を竦めただけで、バッサリと否定されてしまった。
「・・・なんで?」
「フィオレはお母様の娘で、そもそも、魔の森に関連する利権はフィオレが生み出したものじゃない。みんなが恩恵を受けてるんだから誰も文句なんて言えないわよ」
「・・・ええ? そんなもんかなあ」
理屈としては、その通りなんだけど、そんな綺麗事が通用するなら政争なんて起こらないんじゃない?
世間の荒波に晒されてヨレヨレに心の汚れた32歳としては、楽観視し辛いなあ。
「大体ね。フィオレ以外の誰が、国王陛下やカレリーヌ様と交渉して、やり込めて帰って来られるって言うのよ」
「・・・ああ。そういうこと」
ぐうの音も出ないぐらいに論破された。
論破はされたけど、素直に認めたくない私が居る。
うーん? 王様は兎も角、カレリーヌ様を丸め込むのは・・・、やっぱり厳しいか?
利権の末席にでもありつきたいのなら、下手に手を出して藪からヘビを出さずに、難しい交渉事は私に任せて仲良くしておいた方が得策になる、と。
ついでに王妃様も曲者だと思うけど、ラスボスがカレリーヌ様だもんなあ。
タッチしたくないからお任せって考え方も理解できなくは無いな。
テレサも大概だけど、これが、あと1週間で6歳になろうかって幼女のセリフだよ?
ビックリするよね。
ルナリアを見る私の目がまん丸になっている自覚が有る。
私みたいなナンチャッテ幼女と違って、テレサもルナリアも真性幼女のはずなのに、まともに利権構造を踏まえたパワーバランスの議論が出来るんだから。
そのままルナリアの顔を見ていたら、またジト目が返ってきた。
「なに?」
「・・・いや。ルナリアって凄いな、って」
「フィオレに言われると微妙な気持ちになるわね」
呆れた顔で首を振られた。