作品タイトル不明
精霊信仰 ⑭
小さな街ひとつ分の土地って、お母様は目安を言ってたけど、どのぐらいの広さになるんだろうか。
ペンペン草の1本も生えていない土地だって、「小さな町」の広さなんてファジーな例えでは、私には想像が出来ないし、具体的な数値で伝えられたところで、鬱蒼と木々が生い茂った森では広さの認識が難しい。
林間道路を通しただけの原生林の風景を見たって、薄暗くて100メートル程度しか見通せないしなあ。
この道路際の片側だけでも拓ければ、かなりスッキリするよね。
木が減れば多少は触角ヘビの出没を抑えられるだろうし、建築需要が続く間は木材の需要も多いだろうし、1万本だって伐る意義はある。
「また木を伐ると聞きましたけど、いつから始めるんですか?」
エスパーかな?
斜め後ろに位置しているネイアさんの問いに顔を向けると、私が左手の森を眺めていたせいか、みんなが左手の森を見ていた。
「・・・今のところ、まだ“予定”だけど、伐ることになるのは確定だろうから、街道際の辺りからは伐採を始めても良いと思うよ」
「じゃあ、しばらくは練習台に困らないですね」
ネイアさんの返事に、みんなから笑い声が上がる。
そうなんだよね。
練習台に関しては、先行しているピーシーズでさえ、みんな真面目で上昇志向が強いから、機会が有れば自分も訓練に使いたいと考えているわけで、そこに60人もの追加メンバーが加われば、1万本でも足りない可能性が出て来る。
今は練習台に困らないけど、騎士を育てる永続的な養成施設を創設するともなれば、将来的な練習台の不足を視野に入れておく必要が有るんじゃないだろうか。
それだけじゃ無いな。
森は深くて開拓する余地がまだまだ有るにしても、森を拓くということは、ほんの数ヶ月前まで危険地帯として立ち入りを制限されていた魔獣の領域へ、さらに深く踏み込んでいくということだよ。
それには危険が伴うのだろうし、不測の事態も想定した“下準備”が必要になる。
具体的には、“相応の”知識と、武器や、防具や、道具だね。
「・・・うーん。そろそろ、狩猟道具の開発も考えるべき?」
「またぁ。何する気?」
私の独り言に反応して、ルナリアからジト目が飛んでくる。
「・・・ワナとか防具とか、魔獣用に特化したものも考えるべきかな、って」
「どういうこと?」
意味を量りかねたらしいルナリアが、コテリと首を傾げる。
「・・・すぐに、では無いけど、もっと森の奥まで入っていく機会が増えるんじゃないかと思ってね」
「何か問題があるの?」
それだよ。それ。
現状、何とかなっちゃってるように思うんだろうけど、「森の奥へ踏み込んで行く」って部分では、特に何の進歩もしていないことに、誰も気付いて居ないというか、そこに問題意識が無いと思うんだよね。
だから、ルナリアがどう考えるのか、問題点を提示してみる。
「・・・今までのウォーレス領に有った知識と技術と道具は、戦争を目的とした対人戦闘を想定もので、対魔獣戦闘を主眼に想定したものでは無かったじゃない?」
「んー・・・。そうかも」
お? イマイチ、ピンと来ない感じ?
「・・・目的が変われば必要になる知識も変わるし、用途が変われば道具も変わるよね?」
「それは、そうよね」
ここまでルナリアの反応が薄いと、お母様たちの承諾を得られるか自信が無くなってくるなあ。
「・・・武器はそのままで良くっても、魔獣を相手に全身甲冑が適切だと思う?」
「違うかも」
だよね?
TPOに齟齬があるのは間違いないんだよ。
「・・・例えばだけど、今は自然の素材で作っているワナも、専用道具として数を揃える方向性も有りじゃないかな」
「それで何か変わるの?」
ズコー。分かってくれてないじゃん。
「・・・せ、専用道具が有れば、安全性を高めたり、設置時間の短縮が見込めるかも、って考えてた」
「短縮・・・。素材を集めたり、枝を削ったりの時間が要らなくなる?」
「・・・ワナ猟に関しては、そういうこと」
そうなんだけど、今、私が言いたかったこととは話の方向性がズレてしまっているな。
今後、森の奥へ踏み込んで行くなら、もっと森の中で動きやすい防具に切り替える必要が有るよね、ってことも伝えたかったんだけど、狩猟用の専用道具で例えた私が悪かったか。
まあ、専用道具の開発を考える際には森での狩猟に合わせた防具の見直しにも話は及ぶだろうから、そのときに提案すれば良っか。