作品タイトル不明
精霊信仰 ⑬
反省の色は皆無みたいだけど、気持ちは分からなくもないから、私も注視しておくか。
私の何倍も生きている大人なんだから、無茶はしないだろう。
兵士さんが轡を取ってくれている私の馬の、縄梯子状の鐙を上って鞍に跨がる。
「・・・ノーア。おいで」
「にゃ」
最近はノーアも慣れたもので、ぴょんと跳び上がって、鞍の私の前へと収まる。
ほんと、器用だよね。
身体能力の高さは、ノーアの方が私よりも遙かに上なんだろう。
周りを確認すると、ルナリアもピーシーズも、すでに馬上で、猟師さんたちも荷馬車に乗り終えている。
お母様たちもミセラさんたちも準備が出来たっぽくて、確認済みの合図が来たので、号令を掛ける。
「・・・じゃあ、出発」
行き先が勝手知りたる採掘場だから、昨日と違って馬列の先頭はルナリアと私になる。
時間帯が早くて通行量も皆無に等しいし、暗いということは見通しが利かずに警戒度は高めになるから、馬列も横に広がり気味で、ゆったりとした密度になっている。
北門へ向かう私たちの周囲はピーシーズが固めていて、その後ろにジアンさんとミセラさんたち。
馬列の中ほどにお母様とお婆様が居て、お母様たちの周囲をエゼリアさんたちが固める。
殿(しんがり) は猟師さんたちの荷馬車が5台だね。
開いたばかりの北門を出て、脇道へと逸れて採掘場へ向かう弾丸道路に入る、いつものルートだ。
初めて採掘場へ行くジアンさんだけでなく、ミセラさんたちからも、「これを2週間で」と、呆れ混じりの驚きの声が漏れ聞こえてきて、ルナリアだけでなくピーシーズまでもがドヤ顔になっている。
隊列的に無理だったけど、西方地域へ出兵していて採掘場へ初めて向かうお母様たちに褒めて貰いたかった気持ちは、私だって有るからね。
上機嫌でドヤっているルナリアから質問が飛んでくる。
「今日って、罠を仕掛けるのよね?」
「・・・うん。崖上の状況を見て、どの辺りに仕掛けるかを検討してからだけどね」
「どのぐらい仕掛けるの?」
うーむ。どうかなあ?
物理的な人手の問題もあるし、それ以前に地形次第になるよね。
「・・・そうだねえ・・・。数日掛けて、1000ヶ所ぐらい仕掛けたいかなあ」
「ええっ!? 1000!?」
うんうん。普通に考えたら、4桁は多いよね。
徹底的に物量で攻めるつもりだから、妥協する気は無いけど。
猟師さんの数は30人ぐらいかな?
そこに私たちとピーシーズとエゼリアさんたちも加わるのだから、ワナの設置要員は少なく見積もっても40人ぐらい動員できることになる。
1人あたり5ヶ所も仕掛ければ、1日200ヶ所のワナを設置できるわけだけど、恐らく、それでは足りないだろうと私は考えている。
防衛線を突破されて採掘場への接近を許したら、万一の損害が読めなくなると思うんだよね。
今回はシカの血や内臓を餌に使うのだから、人間の臭いの多くは消せるだろうし、4~5日掛けて1000ヶ所ぐらい設置しておきたい。
ただ、それは現場を見ていない現状での、想定の話だ。
「・・・まだ分かんないよ? 誘導経路を絞れそうなら、もっと少なくて良いかもだけど、絞れないなら広範囲に仕掛けることになるだろうし」
「そっか。そうなるわよね!」
うむうむ。ルナリアは、シカのククリ罠に関しては場所の選定まで自分で出来るようになってるから、理解が早いね。
普通の野生動物なら、馬鹿みたいに数を仕掛けると逆効果だけど、警戒心が薄い魔獣なら掛かってくれると考えている。
そう思えるぐらいに魔獣のシカやイノシシは警戒心が薄いんだよ。
バンダースナッチは初めて狩る獲物だけど、本来、警戒心が強いイノシシでも掛かるのだから、犬系でも掛かると思う。
ただ、まあ。崖上の地形は若干の凹凸があるにしても、ほぼフラットな地形だったからね。
木が太くて大きい分、樹間は10メートル以上も開いていて、獲物の導線を誘導することが極めて難しい。
だからこそ、絨毯爆撃的にククリ罠を敷き詰めることを考えたわけで。
寄せ餌の効き具合によっては作戦変更も有り得るしね。
まだ開いたばかりで守備兵の姿しか無い北門を潜って、程なく、街道から採掘場に向かう脇道へと外れる。
暗かった空に白色が混じり青みを増してくる。
まだ真っ暗に近いけど、直線道路の景色も久しぶりだ。
道路左手の森の木々を見上げる。
頭の中に地図を思い浮かべれば、「あっかんべ」の舌のように張り出した森の、舌先部分になるのか。
私の想定では、この辺りの伐採を進めて養成施設用地を開拓するんだよね。