作品タイトル不明
精霊信仰 ⑧
「もう良いのか?」
「・・・うん。今日の目的は達成したと思う」
「そうか」
ルナリアと同じようにぐりぐりされる。
本邸の人たちと顔合わせして、魔法道具の史料を選んで、立ち会いで実力を示して、小麦粉消費量の増量メニューを伝授して、孤児保護施設の取り込みを図る。
ここまでが当初の予定だったけど、ピーシーズ増員メンバーの当たりを付けるための立ち会いで女の子たちに逃げられた代わりに、ジアンさんという想定を超える知己を得て、ピーシーズ加入志願者が多く居るという情報も得た。
しかも、増員メンバー集めと訓練をジアンさんに丸投げさせてくれるという特大のオマケ付き。
これで成果不足だなんて言ったら 罰(ばち) が当たるよ。
優しい笑みを浮かべたお婆様にも撫でられる。
「ジアンの件、よくやりましたね」
「・・・いいえ。私は煽っただけなので」
正直な思いを口に出したら、ジアンさんと目が合った。
ほぼ同時に苦笑する。
傷付いたジアンさんを支え続けてきたのはタリアさんやピーシス領の人たちで、失意に沈んでいるジアンさんを引き留め続けてきたのはお母様やお婆様たちだ。
煽ったことが、ジアンさんが前を向く切っ掛けになったかも知れないけど、そんなものは受け止め方の問題であって、心の整理さえ付けばジアンさんほどの人なら自分自身で立ち上がれたんじゃないかな。
「それでも、です。貴女が手札を失うことは心配ですが、ジアンの結果を見て再起を目指す者は増えることでしょう」
そうだよね。
私の初めてのお披露目のときに、他にも戦傷による四肢欠損を抱えている人たちは居た。
ジアンさんが魔力の手を身に付けて、それを目の当たりにすれば、あの人たちにも光明を見出して貰えるかも知れないんだよね。
知識と経験を持つ老練の戦士たちが再起してくれるかも。
それはきっと、私たちの大きな力になる。
そのためのタネ明かしで魔力の手が陳腐化するとしても悪くない取引だと思える。
「・・・手品のタネを隠しても、いつかはバレるものですから」
「相変わらず、割り切ってるわねえ」
「・・・私が手札を増やせば良いだけのことです」
お婆様が目を細めつつ苦笑する。
どんな武器を作っても、対策されて新たな技術に繋がっていくものだ。
地球では「戦争が科学技術を発展させる」なんて思想が存在したぐらいなんだから。
1枚2枚の手札を手に入れても安心しては、いけないんだろう。
話を締めるように、お母様がポンと手を打ち合わせる。
「ヨシ。では、出発の準備に掛かるとしよう」
「・・・はい。みんな準備して」
「「「「「はっ」」」」」
撤収命令を受けて、みんなが一斉に動き出す。
私も準備しなくちゃ、と、みんなの後を追おうとしたら、落ち着いた男声が私の足を引き留めた。
「フィオレ様」
「・・・あ。ジアンさん」
ピシッと背筋を伸ばして胸を張ったジアンさんが、固めた左拳をドンと胸に当てる。
左右は反転しているけど、紛うこと無き騎士の礼だ。
「只今より、お側に仕えさせていただきます」
「・・・うん。お料理は食べた?」
「は。タリア共々」
ジアンさんに目を向けられたタリアさんが頭を下げる。
眼鏡を掛けてキリッとした美人さんで、いかにも文官っぽい、というか、キャリアウーマンっぽいというか、デキる女性秘書っぽい雰囲気の人だと思ってたけど、旦那さんの視線を受け止める表情はとても柔らかい。
「フィオレ様。ありがとうございます。美味しく頂戴しました」
「・・・勝利祈願のお料理だから、きっと困難に打ち勝てるよ」
「勝利ですか」
夫婦揃って目を丸くする。
思惑までは伝わってなかったのかな?
「・・・"カツ”っていうお料理なんだよ」
「なるほど。”勝つ”のですね」
ちゃんと思いは理解してくれたようだ。
語呂合わせの験担ぎだと理解したらしい二人が表情を緩める。
ハンデをひっくり返して打ち勝つためのお手伝いは、私もするよ。