作品タイトル不明
精霊信仰 ⑨
「でしたら、調理方法を覚えなければいけませんね」
「必ず打ち勝ってご覧に入れます」
「・・・そっか。じゃあ、コレどうぞ」
腰の小物入れから取り出したシカの魔石をジアンさんの左手に握らせる。
手のひらの魔石に目を落として、ジアンさんとタリアさんが首を傾げる。
「「えっ?」」
「・・・えっ?」
「なぜ、魔石を?」
あれぇ? 私が魔石を使っていることに気付いてなかった?
大っぴらにしているわけでは無いけど、レティアの領主館では私が魔石を使うことを知っている人は知ってるよね。
ピーシス領には伝わってなかった?
もしかすると、ピーシス領でも情報統制が行われてたのかな。
でもまあ、教えると私が約束した以上、ジアンさんは情報開示対象者だ。
「・・・魔石を扱えるようになるのが基礎だから」
「あれが、魔石を使う技術なのですね?」
おや? 「あれが」ってことは、新しく魔石を使う技術が生まれたこと自体の情報は入ってるのか。
だったら、魔法道具か何かの技術だと誤解してたのかも?
「・・・ああ、いや。魔力の消耗が大きくて勿体ないだけで、体内保有魔力でも出来るよ?」
「そうなのですか!?」
なぜ、そこまで驚く?
これは、やっぱり、何らかの魔法道具だと思ってたっぽいか。
情報量による温度差に戸惑っていたら、お母様から催促が飛んできた。
「おい、お前ら。そんな話は移動しながらでも出来るだろう。さっさと準備しろー」
「・・・あ。はーい」
「はっ」
本邸の人たちが牽き出してくれている馬へと、ジアンさんと二人で急ぐ。
すでに馬上にあるお婆様が見送りの人たちへと目を向ける。
「では、ジアンの不在中、本邸の差配は頼みましたよ。タリア、ヨルク」
「承知いたしました」
「皆様、いってらっしゃいませ」
居留守役の筆頭を務めるらしいタリアさんとヨルクさんと先頭に、本邸勤務の人たちが一斉に頭を下げる。
「タリア。行ってくる」
「行ってらっしゃい。あなた」
頭を上げたタリアさんに、ジアンさんがキリッと凜々しい表情で告げ、薄らと涙を浮かべているタリアさんが優しく微笑む。
仲良いよね、このご夫婦も。
最終確認でお母様へと目を向けると頷いてくれたので、手を挙げて指示を出す。
「・・・じゃあ、出発」
道を覚えていない私に代わって、帰路もお母様とお婆様を先頭に馬列が進み始める。
手を振る本邸の人たちに手を振り返し、前を向く。
時間調整のためか、常足でも少し速めのペースかな。
一日中、体を動かして機嫌の良いルナリアのお喋りに相槌を返しつつ、鞍の上で揺られていると、ジアンさんが馬を進めてきた。
「フィオレ様。先ず、技術の概略をご指南いただいても?」
本当に、お母様に言われた通りに来るのだから、移動中の時間も無駄にしたくないんだろうな。
ジアンさんの真面目な性格がよく出た行動だと感じる。
うんうん。良いね。付き合ってあげようじゃないの。
「・・・みんなも聞いておくと良いよ」
話し相手はジアンさんだけど、ルナリアを含め、ピーシーズにも、ミセラさんたちにも聞こえるように話そうか。
みんなも練習中の身だから、理解を深めるために聞いていて損は無いはずだ。
「・・・さっきも言ったけど、“魔力の手”を習得するには、魔石の扱い方を覚えるのが早道だと私は考えてる」
「魔力の手、ですか」
「・・・私は、そう呼んでる」
単に私のネーミングセンスが無いだけだけど、見たそのまんまでしか名前を付けて居ないからね。
「どの系統の術式なのですか?」
「・・・うーん? 術式、なのかなあ」
「は・・・?」
首を傾げる私に、ジアンさんが目を丸くする。
それは答えるのが難しい質問だなあ。