作品タイトル不明
ピーシス領動乱 ㉔
「あの感じだと、男性たちの中には、コロッケどころかトンカツも回ってこない人たちが出ますね」
「・・・それは、ちょっと、あんまりじゃ?」
こうなるのが予想できたから、後回しにされた男性たちが抵抗を見せたのだろう。
弱者への分配を優先する考えは分からなくも無いけど、美味しい料理を食べたいのは男性だって同じだろうに。
「そう考えられたから、次の料理をご用意されたのでは?」
「・・・それは、そうなんだけど、ここまでの状況だとは思ってなかったよ」
反省しなきゃな。
次回からは、突発的な思い付きで振る舞うんじゃなく、もう少し念入りに食材を準備してからにしなきゃ。
「・・・レヴィアさん。唐揚げを持ってきてあげて」
「承知しました」
そうこう言っている内に配給の列が進んで女性や子供が掃け、ついに男性たちへと順番が回ってくる。
しかし、配給の残りは僅かしかない。
待望のトンカツにありつくことが出来た男性たちは、他の男性たちに奪われないよう、口の中にトンカツを丸ごと押し込んで頬袋をパンパンに膨らませながら感涙にむせび泣く。
あ。トンカツも全部終わっちゃった。
じりじりと待ち焦がれていた多くの男性たちが最後まで料理を手にすることが出来ず、予想通りに絶望の叫びと慟哭が響き渡った。
どのぐらい居るかな? 100人ぐらい?
これなら1人あたり3~4個ずつは行き渡るはず。
とことこと歩み寄って泣き崩れている男性の傍にしゃがみ込んで、ぽむぽむと肩を叩く。
「・・・ちょっと、ちょっと」
「ご、ご当主さま・・・?」
私に気付いた男性が涙と鼻水でベショベショになった顔を上げる。
たぶん、ハロルド様よりも少しだけ年上ぐらいかな。
あーあ。そこまで嘆かなくても。
「・・・食べさせて貰えなかった人たちを、私のところへ集めてくれる?」
「へ・・・?」
顔を上げたオジサンに本邸の正面出入口を示す。
そこへ、ディディエさんとダーナさんが扉を大きく押し開いて、ミセラさんとマーシュさんを先頭にバットを抱えた料理人さんたちが出て来る。
「・・・あなたたちにも、ちゃんと別の美味しい料理を用意してあるから、大丈夫だよ」
「「「「「―――ッ!!」」」」」
失意に打ち拉がれていた男性たちが、ガバッと涙に濡れた顔を上げる。
「・・・コロッケやトンカツとは違う揚げ物。唐揚げだよ」
「カ・ラーゲェ・・・?」
そそ。唐揚げ。
日本語って、こっちの世界の人にも発音しにくいのかなあ。
変なところにアクセントが入ると日本語に聞こえなくなるよね。
私だってトンカツは好きだしコロッケも好きだけど、それはそれ。
唐揚げも同じぐらい好きだし。
慈母のような微笑みを浮かべたミセラさんがディディエさんたちに向かって、「やれ」とばかりに顎先でクイッと指示を出す。
「「どうぞ。召し上がってください」」
「「おおお・・・。ありがたや」」
指令を受けた二人が手近にいるオジサンたちに紙で包んだ唐揚げを差し出し、滂沱の涙を零すオジサンたちが震える手で紙包みを受け取った。
「まだ食べて居られない方は、こちらへ!」
「ハイ。並んで、並んで」
「「「「「うおおおおおおお!」」」」」
畳み掛けるようにミセラさんとマーシュさんが新たな配給待機列の形成を促し、絶望を塗り替えた歓喜の叫びが冬晴れの空を震わせる。
希望の光を見た男性たちが膝をガクガクさせながら再び立ち上がる。
伸びて転がっていた人たちも助け起こされて、涙ながらに肩を貸し合い、共に支え合いながら大人しく列に並んでいる。
そこで伸びてたのって、さっきのクソガキたちじゃん。
アンタら、また伸ばされてたのか。
滞りなく配給待ちは掃けて行き、手にした唐揚げを恭しく捧げ持って歓喜の涙を零す。
もう、戦っている人も居ないし、これで全員に何らかの料理が行き渡った感じかな?
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「ウメぇよう! ウメぇよう!」
男性たちが鼻水を啜りながら至福の表情で唐揚げを頬張っている。
塩唐揚げで良かったね。
涙も鼻水も塩味だから味は変わらないし。
「カ・ラーゲェ!」
「カ・ラーゲェ!!」
「ヒュ―――ッ!!」
ハグし合い、肩を組んで互いの健闘を称え合っていた男性たちが勝利の雄叫びを上げ始め、甲高い口笛が夕暮れも近い冬空に響き渡る。
まだ口をもぐもぐさせている男性たちも合流し始める。
何なんだ? このノリ。