軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ピーシス領動乱 ㉓

「・・・あ。ロアーナさんだ」

受け身も取れずに強打したお尻を抱えて悶絶しているオジサンを足蹴にガッツポーズを取っているのは、エゼリアさんのお母さんで、子爵夫人にランクアップしたばかりのロアーナさんの姿で間違いない。

そのロアーナさんの向こうでは、男爵夫人に昇格した、アンリカさんとアリアナさんのお母さんであるリエンナさんが、まだ若い男性の背中からガッチリと首に腕を回して締め落としている。

何度か会ったことが有るけど、普段から溌剌としているリエンナさんよりも、知的な雰囲気を漂わせているように見えていたロアーナさんの方がアグレッシブっぽいね。

お二人とも派手さのないワンピースにエプロンを着けたお母さんスタイルだけど、家庭に入って引退する前はお婆様の側近だったらしいしなあ。

うん。実にエゼリアさんたちのお母さんっぽい。

脳筋の母は脳筋で、娘さんたちはお母さんそっくりに育ったんだね。

「儂にも食わせろおおおおお!!」

女性陣の体を張ったブロックの隙間をオジサンが上手く擦り抜けたと思ったら、サッと回り込んだ別の女性たちがオジサンの両側から伸ばした腕を振り抜く。

「「させるかあああああ!!」」

「グワ――――――ッ!!」

アレ、何て言ったっけ。

ダブルラリアット?

ロアーナさんとリエンナさんの周りにはエプロンを着けた同年代の女性たちと、エゼリアさんとアンリカさんが陣取っていて、その背後には野戦用の軍議机が並べられて真ん中にトンカツのバットが載せられている。

あの女性たちは、みんな、どこかのご家庭に入った元女性騎士の奥様方なんだろうね。

「隙有りいいいいいい!!」

「甘いわああああああ!!」

「グワ――――――ッ!!」

また一人、防衛線の隙間を擦り抜けようとした男性が、両足を揃えて横向きに素っ飛んできた奥様の靴底に横っ面を捉えられて吹き飛んで行った。

あれってドロップキックってヤツじゃなかったかな。

ちゃんとスカートが捲れ上がらないように裾を押さえてたけど、女性の慎み深さって、そうじゃないと思うよ?

改めて周りを見回すと、着実に進んで行く行列の周囲では、あっちこっちで肉弾戦が繰り広げられていて、あっちこっちに男性たちが死屍累々で転がっている。

「・・・ああ、やっぱりコロッケは完売かぁ」

かなりの量を作ったつもりだったけど、全然、足りなかったのだろうね。

軍議机の横に空っぽのバットが積み上げられていることから、こうなった状況が察せられる。

恐らく、早々に売り切れてしまったコロッケの有り様を見て、焦りを覚えた男性たちの実力行使に、奥様方を中心とした女性たちもまた実力行使で迎え撃ったのだろう。

コロッケは手間が掛かる分、量が少なめだったことは否めないしなあ。

男性たちが撃沈していく最中にも列は進み、ニーナさんたち、厨房へバットを取りに来た女性陣が、軍議机で植物紙で包んだトンカツを人々に手渡している。

ニーナさんたちの後ろでは、お婆様とお母様とトリアさんたちが本陣でどっしりと構える武将みたいに戦況を見守っていて、軍議机を挟んだ正面には、老人、女性、子供、傷病者を優先した行列が形成されている。

そして、行列に並ばせて貰えず後回しにされていた男性たちが、黄泉の国から溢れ出した亡者のように、「クロッケ~・・・。トゥンカトゥ~・・・」と、イっちゃった目で涎を垂らしながら、にじり寄って行くのだ。

ときに連携し、ときに単独で強行突破を図っては返り討ちに遭い、そこいら中で白目を剥いた男性たちが転がっている惨状を見るに、本当に奥様方の方が強いんだね。

そんな状況でも武器を持ち出す男性は見当たらないし、配給を受けた老人や女子供から奪い取ろうとはしないのだから、男性たちも偉いというか、紳士的―――、いや、騎士道精神に満ちてると思うよ。

そう考えると、女性の方が一方的に強いのではなく、男性たちは本気で戦っているわけじゃ無いのかも。

厨房で引き留められたダーナさんに代わって最終便のトンカツを軍議机へと届けたレヴィアさんが、混乱を避けて私の傍へとやって来る。

「美味しい食べのもが絡むと、まあ、大体、こんな感じです」

「・・・ロス領でも?」

「ええ。まあ」

「・・・なんか、可哀想・・・」

呆れた顔で腰に手を当てているレヴィアさんの態度からすると、ウォーレス領では、いつものことなんだろうなあ。

こんな状況で対抗手段の無いダーナさんが最後のトンカツが盛られたバットを持って現れれば、バットごと奪われるか揉みくちゃにされて帰ってくるのは火を見るよりも明らかだったろう。

レヴィアさんが軍議机へと視線を移し、釣られた私も改めて視線を戻す。

バット上に残ったトンカツは後わずかで、配給を待つ残りの行列は半ばから最後尾にかけてが男性ばかりになっている。