軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ㉔

「・・・また剣を振れるよ?」

「奥の手を教えて、よろしいのですか?」

「・・・あなたほどの人を遊ばせておけるほど、ピーシス家に余裕は無いんだよ」

ジアンさんの顔が辛そうに歪み、弱々しく首を振る。

「しかし、私はハーヴェイ様を守りきれなかった未熟者です」

「・・・ハーヴェイさん?」

誰だっけ?

聞き覚えの有る名前だな。

無意識に私の目がルナリアの姿を探す。それで思い出した。

「・・・あっ。ルナリアのお兄さんか」

「そうです。私は、ハーヴェイ様の側近として補佐に付いていながら、むざむざと主を討ち取られた無能なのです」

んー。何て聞いたっけ?

初陣で戦死して、ハインズ様を落ち込ませて、お爺様たちを隠居させたお兄さんだよね?

お兄さんの悪口を言うつもりは無いけど、成人前にカリーク公王国が攻めて来て、出会い頭の事故みたいな形で亡くなったんじゃなかったっけ?

将来有望で決して評判は悪くなかったそうだけど、運の無い人だったんだなあ、って、内心、思っちゃったんだっけ。

当時はハロルド様が、まだ王都騎士団に勤めていた頃で、ハインズ様が現役を続けて居た頃のことだったはず。

ハインズ様の跡はハロルド様が継ぐにしても、その次の、将来の当主に決まっていた嫡男の補佐って、右腕でしょ?

将来的にはお爺様のポジションか、それに近いポジションで、ウォーレス領内でもトップクラスに優秀な人だったってことじゃん。

「・・・回復薬も効かない形で、命を助けられなかったんだよね?」

「ご遺体を奪われずに連れ帰るだけで精一杯でした」

苦しそうに吐き出されたジアンさんの言葉に、マークスお兄さんのときの、ムーアの仕打ちが思い出された。

遺体を奪われれば、アンデッド化させられて人間としての尊厳まで奪われる可能性が有ったわけだ。

ウォーレス領への侵略に固執して並々ならぬ粘着力を発揮するカリーク公王国のことだ。

討ち取った未来の当主の遺体を手にすれば、どんなことを考えるか分かったものじゃない。

「・・・それって、上出来だったんじゃ無いの?」

「そうでは有りません。主に手を掛けさせてしまったことが、すでに側近失格なのです」

まるで、懺悔だ。

悔恨に俯いて、言葉を吐き出す姿は、罰を望む罪人のように見える。

でも、ちょっと待って欲しい。

あの、驚異の即効性を持つ回復薬だよ?

例えば、喉や頸動脈を切り裂かれたとしても、あるいは、心臓を刺し貫かれたとしても、アンリカさんが刺されたときのように毒でも塗られていない限り、すぐに対処すれば助けられたはずなのだ。

それでも助けられなかったってことは、回復薬も飲ませられないほど敵が殺到していた状況か、即死状態だったってことなんじゃないの?

自分を責めるジアンさんの言い分には納得が行かない。

「・・・本当に、そう?」

「それは違うな」

首を傾げる私の問いに答えたのはジアンさんではなく、厳しい表情でジアンさんを見つめているお母様だった。

お母様が引き連れてきたエゼリアさんたちは、事故防止のためか穴ぼこを元に戻した辺りで地面を踏ん付けたりして固さを確かめている。

「ジアン。ハーヴェイが死んだのは、夢中になって突出したハーヴェイの失態で、お前の責任では無いと、何度言えば分かるんだ」

「しかし・・・!」

泣きそうな顔で声を荒げたジアンさんを、もっと声を荒げたお母様が大喝する。

「くどい! ウォーレス家の当主も、ピーシス家の当主も、死は宿命だ! 戦場へ出れば真っ先に狙われる! 降り掛かる死を撥ね除けられる強さと、慎重さを持ち合わせなかったハーヴェイの責任で、そんな未熟者を戦場に出した当主の責任だった! ―――、だからこそ、御大は身を引いて隠居したんだ」

「―――、!」

反論する言葉を失ったジアンさんが項垂れる。

なるほどなあ。ハインズ様が隠居して私邸に引っ込んでしまったのは、「嫡孫を失った失意によるもの」って聞いていたけど、ジアンさんに責任を背負わせないためでも有ったのか。

ハインズ様らしいな。

怒鳴りつけたお母様の叱責にも、最後は諭すような優しさが籠もっていた。

お母様が、これだけ頭ごなしに怒るんだから、今までに何度も同じ問答が行われたことが察せられる。

ジアンさんが真面目で責任感の強い人なのも分かった。

忘れろとは言わないけど、自分を責めすぎなんだろうと思わざるを得ない。