軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ㉕

ハーヴェイお兄さんが亡くなったときに、お母様もめちゃくちゃ悲しんだと聞いているし、そのお母様が、ここまで言うってことは、本当にジアンさんの責任では無かったのだろう。

こりゃあ、たぶん、慰める方向じゃダメなんだな。

同じ傷を持っていて、同じ痛みを共有しているお母様では慰めてしまうんだ。

ミセラさんが、なぜ、「ジアンさんは私に仕えるべき」と言ったのか、分かった気がする。

過去の柵に囚われていなくて、今までにない手段を持つ私に、ミセラさんは期待したのだろう。

回りくどいとは思うけど、当のジアンさんが、お母様に叱られても心変わりしない状態なんだから、新たな切り口に期待したくなる気持ちは分からなくも無い。

どうして、そこでロス家系のミセラさんがお節介を焼くのかは、知らない。

でも、私を認めてくれている人に期待されたのなら、その期待に応えるべく善処してあげたい。

それ以前に、私の意志として、ジアンさんという人材を惜しいと感じている。

だから、私の意志でお節介を焼こう。

「・・・ねえ、ジアンさん。それで良いの?」

「良い、とは?」

ジアンさんが目を上げるけど、それは弱りきったものだった。

ずっと苦しんで、ずっと悔い続けてきたのだろうね。

お母様とエゼリアさんや、ルナリアと私の関係に置き換えるなら、ハーヴェイお兄さんとジアンさんの関係は、親友であり、兄弟のようなものだったのだろうし。

大体の状況は理解したし、思い出させてあげる。

ジアンさんが抱く故人への思いも素っ飛ばして、事実だけを提示してあげる。

「・・・カリーク公王国の人たちが、また元気に攻め込んで来ようとしてるみたいなんだけど、ジアンさんは、ハーヴェイお兄さんの無念も晴らせないままで、ピーシス領に引っ込んでるの?」

「・・・・・」

ジアンさんが、辛そうにギュッと目を瞑る。

お母様たちはジアンさんと同じようにハーヴェイお兄さんへの思い入れが有って、諭す方向へ行っちゃうみたいだけど、故人を知らない私が傷の舐め合いに参加することは無い。

言い方は良くないけど、突き詰めて言えば、そういうことだ。

故人に思い入れが無い私だからこそ、後ろを振り返らずに、ずかずかと無神経に踏み込める部分があるんだよ。

「・・・ハーヴェイお兄さん、悔しかっただろうなあ」

「―――ッ!!」

ジアンさんがハッと目を見開く。

悔いるのも悲しむのも良いけど、ハーヴェイお兄さんの気持ちを忘れてない?

故人に代わって戦場に立てるのは誰なのかを思い出して欲しい。

「・・・生きていたら、負けっ放しで泣き寝入りなんてしなかったよね?」

「・・・・・」

顔を伏せて再びギュッと瞼を閉じる。

さっきと同じような表情だけど、雰囲気が少し変わったかな?

脳筋の巣窟ウォーレス家の直系で、ルナリアのお兄さんだからね。

ルナリアならどう考えるか。

きっと、負けず嫌いなルナリアなら自分の手で雪辱を果たそうとするだろう。

自分の手では出来なくても、ルナリアなら、私が代わって雪辱を果たせば幾らかの溜飲を下げてくれるはずだ。

「・・・利き腕に剣を握れなくなった体では、雪辱を果たせなかったんだよね?」

「―――、!!」

ジアンさんの肩がビクリと震えた。

気付いたかな?

そう。今までは、だよ。

そんなものは過去の話だ。

今、この場には、手段を持つ私が居る。

ハーヴェイお兄さんの雪辱を誰が果たすべきなのか。

どうしてあげるべきなのか。

故人に捧げる「弔い合戦」ではなく、自己満足の「仇討ち」でもない、故人に代わっての「雪辱戦」だ。

同じ行為でも、その行為が持つ意味は異なる。

俯いたジアンさんの左拳に力が籠もって、手の中の木剣がミシミシと破断音を上げる。

ギリギリと奥歯を噛みしめる音が聞こえ始める。

全身の筋肉に力が籠もって、ジアンさんの体が一回り大きくなったような錯覚すら覚える。

パキャッと乾いた音を立てて木剣の柄が砕けた。

「カァァリィィクゥゥウウ・・・!!」

ジアンさんの口から地獄の底から響いてくるような赫怒の声が漏れた。

顔も見えていないのに、凶暴な肉食獣と同じ檻に入れられたような迫力を感じて、私の背筋を冷や汗が伝う。

こ、こわE・・・。

自分で煽った手前、後退りそうになる足を根性で抑え込んで圧力に耐える。

この怒りは共に戦場を駆けたジアンさんのものであり、戦場に果てたハーヴェイお兄さんの怒りでもあるのだろう。

僅かに目を見開いて息を呑んだお母様もまた、一転して迫力の有る笑みを浮かべて私をぐりぐりする。

再び静かに目を上げたジアンさんの顔は怒れる戦士のものとなっていた。

私の前に片膝を突いて頭を下げる。

「フィオレ様。伏してお願い致します。私に、もう一度、剣を握らせてください」

「・・・分かった。請け負うよ」

ジアンさんの心からの願いに、私も踏ん張って頷き返す。

そうだよ。今までと違って、あなたの目の前には手段が有る。

あなたがが手を伸ばすだけで良いんだよ。

全力で教えて、魔力の手を使えるようにしてあげる。

あなたは利き腕を取り戻せるんだよ。

血を飲むことで、あなたは、もっと強くなる。

魔石の使い方を知ることで、あなたは、かつての限界を乗り越える。

魔力の手を得たあなた自身の手で、ハーヴェイお兄さんの雪辱を果たさせてあげる。

「ハーヴェイ様の無念。この私の“右手”で晴らしてお見せします」

決意に燃える目のジアンさんが示して見せる、欠損した右手が、ぐっと力強く拳を握ったのを幻視した。

故・ウォーレス家後嗣ハーヴェイの元側近、ジアン・クック。

これが、かつてウォーレス領の期待を背負っていた失意の男が、再び立ち上がった瞬間だった。