軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ⑱

今のルナリアは実力を付けつつ有るけど、私と出会った頃は、まだそうでは無かった。

あの頃も、今も、ルナリアには子供らしい天真爛漫さが有って、それはルナリアという個人を形作る大切な個性だ。

コイツらの稚拙な欲求で、ルナリアに、おかしな色を付けて欲しくない。

かと言って、ウォーレス家を取り巻く現状は、選り好みをしていられる時間的猶予を与えてくれない。

ならば、どうすれば良いのか。

そんなもの、決まっている。

私が圧倒的な力をもって生意気なクソガキどもを従えて、ルナリアに影響力を及ぼせなくすれば良いのだ。

昨夜の家族会議でお爺様たちが私に求めた「部隊指揮官が果たす役割」。

それを私は「統率力と判断力」では無いかと受け取った。

ウォーレス家系の力学では、強さは正義。

暴力とは、生物として最も原始的な統率ツールでもある。

生態系の原理として、そこに人間だの動物だのという区別は存在しない。

このクソガキどもを力尽くで這いつくばらせることは、私の考える「統率力」と矛盾しないのだ。

だったら、遠慮なくコイツらを叩きのめすのみだ。

あなたたち自身が、それを望んだのだから、そうしてあげる。

「・・・ルナリア。避難してて」

「わたしの分も残しておいてよね!」

「・・・うーん。まあ、残ってくれると良いね?」

わたしの返事を受け取ったルナリアが、お母様たちの下へと退避していく。

ルナリアが私の傍から離れた時点で試合開始のゴングは鳴っている。

自信満々に徴発してくる相手に無策で飛び掛かるほど少年たちはバカでは無かったらしい。

すぐに飛び掛かってくるなら魔力の手で張り倒してやるつもりだったけど、ほんの少しだけ評価を引き上げる。

少女たちの方も木剣を手にゆっくりと距離を詰めてきているけど、こっちは少年たちの出方を見た上で、自分たちの動きを決めるつもりかな?

この子たちって周りと協力するとか状況を利用して有利に動くとか、そういう発想は無いんだろうか?

訓練場へ足を踏み入れたときのことを思い出す。

そう言えば、この子たちって、少人数のグループごとに固まっていて、まとまりが無かったような?

そういう意味では、こっちの少年たちの方が、まとまりは有るのか。

生意気な子供をいたぶるつもりで居るのか、木剣を手に、ニヤリと嗜虐的に口元を歪めたクソガキどもが、互いに目配せをして立ち位置を変え始める。

地元民同士だけ有って、フォーメーションや戦術を打ち合わせるまでも無いわけだ。

多勢に無勢で勝てると思ってるんだろうけど、余裕をブッこいちゃっていて良いのかな?

私の意志に魔力が応えて、私の周りに風が吹き始める。

イメージは台風だ。

低軌道上から撮影した航空写真のように俯瞰して、“目”の中心に居る私を取り巻いた風が渦を巻き始める。

もっと強く。

もっと速く。

私のイメージに従って、風が速度を増して地表の土を巻き上げ始める。

ヒュオオオオオ! と、鳴き声を上げる風は、竜巻のように上昇して霧散するのでは無く、高さ10メートルほどで固定されたチューブ状の風は不純物を孕んで風の渦を可視化させる。

さらに加速を続ける風は壁状に薄く圧縮されて、シュアアアアアア! と、甲高く鳴き声を高めた。

ここまで来ると、お馬鹿なクソガキどもも顔色を変え始めている。

一先ずの防御はこれで良いだろう。

風バリアーが完成する前に攻撃を受けたときは魔力の手で防御するつもりだったけど、これも攻撃を受ける前に風バリアーが完成してしまった。

ピーシーズとの初顔合わせでは、この状態でみんなを追い回したけど、今日は趣向を変えるよ。

あの頃は一つの魔法しか発動できなかったけど、今の私は少しぐらい成長してるんだ。

私の成長をお母様に見て貰うのにも丁度良い。

風バリアーを維持しながら、訓練場の地面を踏む足の裏から魔力の手を真下に差し込む。

水滴が波紋を拡げるように私の魔力が地面に広がる。

魔力の気配を感じ取ったのか、お母様をはじめとした大人たちの一部が地面へと目線を落とした。

ジアンさんも感じ取った側の一人だったみたいで、執事服を着せておくのが勿体ないなと感じてしまう。

お母様たちほど魔力を感じ取れる人なんて、そうそう居ないと思うけど、他の人たちにも感じ取れてしまうと言うことは、まだまだ私は魔力制御が甘いのだろう。

もっと精進が必要だな。

地面に浸透した私の魔力に触れている他者の魔力を感じ取る。

感じ取れるけど、雑音が多いな。

体感的に、“異物”の数が数百は有ると思う。

これって、現状、かなりの範囲に魔力が広がっているんだろうね。

もっと範囲を絞るかな。

訓練場を見回して、視界に入るクソガキどもの感触だけに意識を絞って「異物」を認識する。

狙い目は攻撃に出て来る“一歩目”かな。

スゥッと魔力の手を伸ばして、少年少女たちの足元の地面に目印となる「×」マークを付けた。

背後に回られると見えないけど、今は私を侮っている彼ら彼女らは、背後にまで回り込んで来ていない。

後ろの方に居るのはまだ動かないだろうから、最初は10人未満だ。

個々の動きを注視するのではなく、視野を広く置いて全体を俯瞰する。

魔力の両手の指を伸ばして「×」マークに置き、動く瞬間を待つ。

私の「魔力の手」は、魔石を通して、自分の手の延長線だと認識しているものだ。

私の手には、それぞれ5本の指が有って、意識しなくても10本の指でそれぞれに印を押さえるぐらいは出来る。

「「「「「―――、!!」」」」」

少年たちの体がほぼ同時に重心を変え始める。

上体が前へ傾いで、踏み込むために片足が地面から離れる。

浮いた足が前へ振り出され、重心が前へ移動する。―――、ここだ!

もう踏み止まれないタイミングを見計らって、魔力の手の指先に力を籠める。

ズン! と地響きを立てて、少年たちの足元に直径2メートルの穴が開く。

深さは、たぶん3メートルぐらいじゃないかな。

威力が掌握しきれていなくても、魔力の手の移動距離で現象の規模は調整できる。