作品タイトル不明
新たな芽吹き ⑲
「「「「「うおわああああっ!?」」」」」
踏みしめるべき地面が無くなった少年たちの姿は、情けなく慌てた叫び声を残して穴ぼこの底へと消えていった。
つんのめるように頭から落ちてったけど、生きてる?
「「「「「えええっ!?」」」」」
少女たちが素っ頓狂な驚きの声を上げ、訓練場の端で見守っている観衆たちから響めきが上がった。
お母様たちは例によって大ウケで、手を叩いて爆笑している。
うむうむ。最低ラインの娯楽には、なったかな。
そりゃまあ、実力も無いのにイキった生意気なクソガキどもが、一斉に悲鳴を上げて落とし穴に落っこちるのだから、傍目に見ていると肉弾系バラエティー番組的で、面白いと言えば面白いよね。
もうちょっとお母様たちを笑わせてあげて欲しいから、頑張って欲しい。
あれだけイキっていたのだから身体強化魔法は使えるのだろうし、すぐに穴の底から這い出そうとするだろうから、穴ぼこの上で魔力の手の指先を板状に広げてスタンバイさせておく。
位置的には、穴ぼこの直上、2メートル弱ぐらい。
「くっそぉおおお!」
「ふざけやがってえええ!」
角度的に穴ぼこの底は私の立ち位置から見えないけど、逆上していることは声の調子から分かる。
ただでさえ短慮なガキが、煽られた上に、舐めていた相手から小馬鹿にした恥のかかされ方をすれば、次に取る行動は読みやすい。
「・・・ハイ。ご苦労さま」
「ぎゃっ!?」
「ぐがっ!?」
予想位置、ピッタリだよ。
怒声と共に勢いよくジャンプして穴底から飛び上がってきた少年たちが、広げておいた魔力の指先に自分から頭をぶつけに来る。
あちこちの穴ぼこでピョンコピョンコと飛び上がっては、叩き落とされるように落ちていく。
そりゃまあ、魔力の手は目に見えないけどさあ、野生動物でも、もう少し学習するよ?
一度、頭をぶつければ、そこに何か障害物が有る、って思わないんだろうか?
「ぐあっ!?」
「がっ!?」
何度も全力で飛び上がっては天井に思いっ切り頭をぶつける少年たちは、短い悲鳴を上げて穴ぼこの底へと送り返されて、最後には静かになる。
天井の方か穴底の方か、頭の打ち所が悪くて気絶したらしい。
首の骨が折れてなきゃ良いけど、無駄に自慢の筋肉が付いてるんだから大丈夫じゃないかな。
「デっ!?」
最後の穴ぼこで悲鳴が上がり、7つの穴ぼこ全てが静かになってしまった。
あれ? まさか、これで終わり?
私、まだ一度も攻撃していないんだけど、全員、撃沈?
「・・・はぁ・・・」
思わず溜息が出た。
何だかなぁ・・・。
頭に血が上った結果なんだろうけど、いくら何でも間抜けすぎる。
一人も残らないとか、威勢が良かった割に弱すぎて、鍛えても使い物になら無いんじゃないかと心配になってくるよ。
少女たちもボケーッと眺めているだけで掛かってくる様子が無いから、一旦、風バリアーを消す。
大幅に評価を下方修正だな。
伸びてしまった少年たちは邪魔だから撤去しておくか。
今日の私の目的はピーシーズ増員の候補者集めで、この少年たちを従える担当は、本来、アスクレーくんだし。
穴ぼこに意識を向けて底面を下から持ち上げる。
魔力が浸透している地面は私の意志に応えてズズズと持ち上がってくる。
舞台の奈落の“迫り上がり”のように、白目を剥いて変なポーズで気絶している少年たちを乗せた穴底が地上へと帰還する。
珍ポーズの少年たちが生えてくる地面なんて、ピーシス領は豊かな土地だったんだね。
鼻水とか涎とか垂らしながら白目を剥いていて触りたくないから、そのまま向こうへポイしよう。
地面から50センチメートルほど高くなった穴底を、おかしな体勢でひっくり返っている少年たちを乗せたまま、訓練場の端までズリズリと移動させる。
ステージ状に盛り上がった穴底は邪魔になるだろうから、ドサッと崩して地面の一部に戻しておいた。
「・・・・・」
「・・・ん?」
強い視線を感じて、そっちを見たら、ジアンさん?
まあ、良いや。
今は、こっちの子たちだ。
何が起こったのか分からなかったらしい少女たちは、呆気に取られてポカーンとしている。
魔力の手が見えていないから、落とし穴に落ちた少年たちが穴ぼこからの脱出に失敗して、勝手に気絶したようにでも見えたかな?
ほんと、中途半端な子たちだな。
不満は有るけど主体性が無い?
「・・・ねえ?」
声を掛けると、我に返った少女たちの目が私へ向く。
それぞれの目に表れているものは、困惑と警戒心、かな。
戦意を失ったわけでは無いのだろうけど、敵対心のようなものは影を潜めているように見える。
「・・・全員で掛かってくるように言ったのに、どうして掛かって来なかったの?」
「「「「「うっ・・・!」」」」」
意味も無く戦力を分けて味方を減らしても、勝ち筋が遠のくだけだよね?
私はお母様に拾われて後継にまで引き上げて貰ったポッと出だ。
きっと、そのポッと出が気に入らなくて反発している無名の少女たちだ、と、思っていたんだけど、だとすれば、なぜ、攻めどころを考えなかったのか。