作品タイトル不明
新たな芽吹き ⑯
「ルナリア様。訓練場へ参りましょう」
「ちょっと待って! まだ選べていないわ!」
本棚の向こう側から、ルナリアの声と、ドタンバタンと本を積み重ねるような音が聞こえてくる。
私と顔を見合わせたマーシュさんが、少し大きな声で呼び掛ける。
「気になったものを、全部、持ち帰られても、よろしいのではー?」
「うう~! そ、そうする!」
焦った声のルナリアは、選択を棚上げしてマーシュさんの妥協案に乗っかることにしたようだ。
またドタンバタンと賑やかになる。
「ああ、私が運んでおきますよ」
「お願い!」
ニーナさんの助け船に乗ったルナリアが棚の陰から飛び出して来る。
勢い余ったルナリアの体を抱き止めると、ニッと太陽みたいな笑顔を向けられる。
「お待たせ!」
「・・・うん。行こっか」
先導してくれる、腕の中に資料を抱いたマーシュさんの後ろに付いて、廊下を歩き、階段を下りる。
今生で二度目ということも有るけど、前世の子供の頃から何度も有ったことだから、私に動揺は無い。
「今から、やるの?」
「・・・うん。―――最終的に、何人ぐらいになりそう?」
「30人も居ないと思いますよ」
ルナリアに答えつつ訊くと、マーシュさんが平然と答える。
たぶん、私とピーシーズが初顔合わせで何をしたか、マーシュさんたちは知っているのだろう。
アリアナさんとの立ち会いで他のピーシーズも巻き添えを食った話は、ワールターさんが把握していたし、あの件は領軍の中でも話題になっていた。
ロス家ならレティアに居なくても情報共有しているものだと考えているから、私もそのつもりでマーシュさんに訊いている。
私に挑んでくる総数が30人ぐらい?
その半分が大人で、残りの半分が男の子だとすれば、10人も居ないのか・・・。
「・・・もうちょっと欲しかったなあ」
「護衛部隊の志願者でしたら、もっと多いですよ?」
私が何をしたいのかを理解しているらしいマーシュさんは、欲しい情報をくれた。
「・・・あ。そうなんだ?」
「ピーシーズに入りたい子が、全員、フィオレに挑戦するわけじゃないのね」
あれ? ルナリアとの認識にズレを感じる。
ルナリアの認識だと、挑んでくるのは子供だけってこと?
ポッと出の私が気に入らない大人も居そうなものだけど、私の認識が間違ってるっぽい?
「今の子たちも、全員がフィオレ様と立ち会ったわけでは無かったのでは?」
「そうね! アリアナ以外は巻き込まれただけだったわ!」
マーシュさんの認識もルナリアと近いっぽいな。
挑戦者の構成が実際にどうなのかは訓練場へ着いてみれば分かるから良いんだけど、物語の冒頭に出て来る暴れ馬みたいな言われ方には異議を申し立てておきたい。
「・・・暴走事故みたいに言わないで欲しいな」
「あのときはビックリしたんだからね?」
「・・・そう?」
おっと。ジト目が飛んできた。
いきなりだったし、ルナリアには心配させたんだっけ。
「面白かったけど!」
「・・・なら、良かった」
ニッと笑うルナリアに安心する。
あのときは、お母様たちも笑い転げてたもんね。
じゃあ、今日も笑わせてあげようじゃないか。
大怪我をさせる気は無いけど、多少の痛い目は見て貰うつもり。
雑談しながら本邸のエントランスを抜けて、屋外へ出ると、結構、人が集まっている。
老若男女が三々五々に雑談している姿が目に入って、人々の視線が私たちへと集まって来る。
「おお。ルナリア様だ」
「大きくなられたわね」
以前の私だったら、たじろいだだろうけど、もう、そんな姿を見せちゃいけない。
堂々としていないと、お母様たちの名前に傷が付く。
「すると、あちらがフィオレ様か」
「随分と可愛らしい方ね」
私たちは強さの象徴じゃなきゃいけないんだ。
だから、ルナリアと二人、衆人環視の中を、胸を張って歩く。
「大丈夫なのかしら?」
「今日は、ルナリア様も?」
「そうは聞いていないが」
人を集めさせたのは私だけど、ルナリアに対する期待と心配の目も向けられている。
向けられている“視線の質”は、それだけじゃ無いんだけど、これ、ルナリアもやるって言い出すんじゃ・・・。
「わたしも、やろうかしら」
「・・・やっても良いけど、私の後にしてね?」
ほらね。ルナリアは負けん気が強いから、きっと、挑まれれば受けてしまう。
釘を刺すと、意味が分からなかったのか、ルナリアが小首を傾げる。
「どうして?」
「・・・面倒なのは、先に潰しておきたいから」
屋外へ出てから、ずっと、嫌な感じの視線が混じってるんだよね。
今のうちに腰のポーチを探って魔石を二つ取り出しておく。
襲撃ではないから、いきなり襲い掛かってくることは無いと思うけど、備えるだけは備えておく。
「ふぅん・・・?」
私の宣言にルナリアが小さく首を傾げた。
私が魔石を取り出したことで、ルナリアも状況は察した様子だ。
前世で“敵”が多かった私は、他人から向けられる「視線の質」に敏感だから、“どう見ているか”の気配を感じ取ってしまう。