軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ⑮

「・・・文字の解読・・・? いや、考察か」

優先度は低そうだけど、これは読んでみるべきかな。

古代エルフ文字を自分で読めるようになるなら、その方が良いけど、時間的制約は文字の解読に時間を掛ける猶予を与えてくれない。

そこは先達の知啓に頼ってしまおう。

あれは、読書用かな?

周りを見回すと、本棚の間を抜けた窓際に小さなテーブルと一人掛けの椅子が1脚、置かれている。

胸に本を抱えて、トコトコとテーブルへ向かう。

キープした本をテーブルに置いて本棚の間へと戻る。

刻印術式の辺りの棚を眺めながら歩く。

こっちの棚は背表紙にタイトルが書かれている本が、ほぼ無い。

たまたま目に付いた本を引っ張り出してみる。

「・・・あっ。これ、たぶん回路図だ」

遺物かな?

ページを開くと、魔法道具の実物から写し取ったのであろう複雑な図形が描かれていて、別のページには装飾品っぽい見た目の全景図らしきスケッチ画が描かれている。

図面だけではサイズ感が分からないけど、装飾品なら、現物の回路は相当に細かく緻密で小さなものだったのだろう。

つまり、この回路図は拡大図ってことだ。

こんなの機密情報だろうに、よく手に入れられたよね。

魔法道具技術を独占している神教会にすれば門外不出の機微情報だったはず。

注釈や説明書きのようなものが一切ないところを見ると、本というよりも、これは図録というか、現物から模写したスケッチブックのようなものなのだろうね。

神教会や西方国家から出た情報では無く、現物から拾い上げた情報って認識すべきか。

こんな資料を、どう活かせるか。

「・・・回路図から現物の復元を試してみる?」

丸写しで作ってみて、問題点を洗い出してみて、実際に動かすことが出来るのか。

ああ、でも、図面から復元を試みるより現物が手元にある、あの姿を消す魔法道具が先だよね。

「・・・簡単に復元できるものなら、今までに誰かが復元してるだろうしなあ」

図上の回路の導線を指先でなぞる。

魔石から引き出された魔力は、何らかの機能を決定付けるのであろう一文字から、回路に導かれて次の一文字へ。

そこから分岐した魔力は別々の文字を経由して、さらに別の一文字へと至る。

何度もそんなことを繰り返した末に、この回路がどんな効果をもたらすものかが分からない。

「・・・ん? あれ?」

図上の文字に目を凝らす。

最初に手に取った本で見た古代エルフ文字と思しき文字は、短い直線や点をいくつも組み合わせて一文字が構成されたいた。

でも、魔法道具のキモとなるのであろう図面上の一文字には曲線が含まれていて、もっと簡素だ。

図上の文字は他の本で見た文字とは少し違うもののように見える。

これは本当に同じ文字なのか、と、疑問を抱いてしまう。

文字じゃなく記号?

時代によって、同じ文字でも簡略化されたり多少の形状変化は有り得る、とか?

「・・・かと言って、全く違う文字でも無さそうなんだよなあ」

確たる根拠は無いけど、文字の雰囲気のようなものが似ている気がするし、文字としては図面の文字の方が簡素で象形文字に寄っている感じ?

楔形文字も象形文字も表意文字では有るから時代的な変化なのかも。

表意文字とは一文字で意味を伝えるものだ。

前後の文脈によって意味が変わることなんてザラに有るし、表意文字と言ってもメチャクチャ幅広いから、文字や言語から古代エルフ文字を解析していると、数十年ぐらい、あっという間に経ってしまうことだろう。

漢字の”六書”みたいな文字構成ルールブックが有れば―――。

ああ、止め止め。

頭を振って思考を打ち消す。

私の目的は魔法道具の自国生産で有って、古代エルフ語の解読では無いのだから、目的と手段を間違えてはいけない。

「・・・でもまあ、この回路図は、サンプルとしては有用だよね」

これもキープだな。

窓際のテーブルへと置きに行く。

「・・・それよりも、どういう過程で取り掛かるのが一番か・・・」

テーブル上に積み重ねた本の表紙を見下ろしながら、方法論を考える。

あの魔法道具の複製品と回路図の魔法道具を復元できないものかを試作してみて、その結果で次の方向性を考えるしか無い?

禁輸品密輸事件の奴隷商から押収した「奴隷環」も見せて貰わないとね。

サンプルは多ければ多い方が良いから、ぜひ、「奴隷環」の回路も複写しておきたい。

色々な回路を見比べた上で、最も簡素で複製できそうなものを選んで試作に取り掛かった方が良いのかな。

その方向性でお母様の意見を聞いてみよう。

そんなことを考えていたら、書庫の扉をノックする音が耳に届いて私の思考を中断させた。

書庫の奥に居るニーナさんの声がノックに返事を返し、扉が開いて顔を覘かせたのは、早朝から人集めに走ってくれていたマーシュさんだ。

「フィオレ様。そろそろお時間ですよ」

「・・・あ、うん。すぐに行くよ」

入室して窓際まで歩み寄ってきたマーシュさんが、テーブルに載せられた2冊に目を留める。

「もう、選び終えられたんですか?」

「・・・うん。今日は、これで十分かな」

「足りなければ、また見に来れば良いですからね」

そうそう。片道2時間かければ、また書庫を見に来られるし、ピーシス家の本邸を新領地へ移転するんだったら、用事の合間に次の資料を選び出すことも出来るはず。

「・・・もう、みんな集まってる?」

「集まっていますが、参加するのは20人も居ないんじゃないでしょうか」

「・・・そうなんだ?」

おや。意外と少ないね。

これを、認めてくれていた人が多かったと見るべきか、それとも、期待していなくて興味が薄いと見るべきか。

別に、待たせて苛立たせようとか、そんな小細工をする気も無いし、さっさと終わらせてクリームコロッケ祭りの時間を作ろうか。

移動しようと持ち帰る資料に手を掛けたら、マーシュさんの手が私の手を抑えた。

「これは私がお持ちします」

「・・・そうなの?」

マーシュさんを見上げると、ニッコリと笑い掛けられる。

「フィオレ様は、立ち会いの準備をなさってください」

「・・・ありがと。でも、準備なら、もう出来てるから」

言うが早いか、マーシュさんは資料を胸元へ抱き上げてしまった。

「では、このまま訓練場へ向かいましょうか」

「・・・うん」

ルナリアを呼びに行こうかと思ったら、私が声を掛ける前に本棚の間からニーナさんが顔を覘かせた。

「マーシュさん。時間ですか?」

「はい。移動します」

マーシュさんの返事に、ニーナさんの顔が本棚の陰へ引っ込む。