作品タイトル不明
新たな芽吹き ⑫
そりゃあ、何で? って、思うだろうね。
ロス家の役割が重要になるから協力体制を強化したい、とは、私も考えたけど、まさか、傍系の現役エージェントを私の部下にくれると私も考えて居なかったし。
私の認識とピーシス家の認識が同じなら、ロス家は諜報任務を家業とする家系で、正面から敵を薙ぎ倒すのを信条とするピーシス家の家系とは在り方が違う。
ロス家はウォーレス家の血族で譜代の直臣なんだから、専門外の同系列会社に転職する理由が分からないのだろう。
「ロス家の騎士がピーシス家に仕えるのですか?」
「誤解なさらないでください。私たちがお仕えするのはフィオレ様で、ロス家の騎士は今後もウォーレス家の騎士です」
何だろう?
いつも飄々として明るい雰囲気のミセラさんの声に、どこか棘が有るように聞こえる。
私と同じ感想を抱いたのか、目の奥に炎を揺らめかせるようにジアンさんの態度も固さを帯びる。
要は気分を害していらっしゃる。
「その、ロス家の騎士が、なぜ?」
「フィオレ様にお仕えすることがルナリア様のためになるからです」
ジアンさんの問いに答えるミセラさんの静かな目に、底の見えない闇が宿っているような気がする。
戦闘態勢に入ったアンリカさんやアリアナさんが見せた燃えるような目とは対照的に、凍り付くような冷徹な戦意と言えば良いのだろうか。
動と静? 立場の違い? それとも、戦闘スタイルの違いなのかも。
ジアンさんからはアンリカさんたちと同じような騎士の気迫のようなものが感じられて、負傷する以前のジアンさんは正しくピーシス家系の騎士様だったのだろうことが察せられる。
もう一方のミセラさんは、恐らく、搦手を使う戦い方をするのでは無いかと予想する。
静かに高まりつつ有る緊迫感をぶった切ったのはお婆様だ。
「あなたたち。その辺りで止めておきなさい」
「は。申しわけございません」
「大変、失礼を致しました」
瞬き一つでそれまでの緊張を消し去って、二人が同時に頭を下げる。
小さく溜息を吐いたお婆様が、場を締めに掛かった。
「爵位承継も転封も決定事項です。始まる前から必要以上に身構えたところで意味など有りません。皆、移住の備えだけ進めて置きなさい」
「「「「「はっ」」」」」
一斉に返事が返って空気が緩む。
重たくなった空気を掻き消すように、あちこちから明るい声が上がる。
「そう言えば、フレイア様。ご婚約おめでとうございます」
「そうですよ! おめでとうございます、フレイア様!」
「お、おう・・・」
明後日の方向へと目を逸らして答えるお母様の頬が、心なしか赤くなっているように見える。
年かさの男性が目を細める。
「精霊様の下へ召される前にお嬢様の晴れ姿を目にすることが出来るとは・・・。もう、いつ死んでも思い残すことはございません」
「死んだら見られんだろうが」
ぶっきらぼうにお母様が答えて広間に笑い声が満ちる。
「おお。そうでございましたな」
「お祝いをしなければ!」
「もういい。お前ら、さっさと仕事に戻れ」
やっぱり、これ、照れてるんだ。
シッシとお母様が手を振っても特大の慶事に家人が黙るわけもなく、笑い声は収まらない。
嬉しいな。みんな、お母様との距離の近さが感じ取れて、お母様の幸せを喜んでくれていることが私にも伝わってくる。
柔らかくなった目をお母様たちへ向けていたジアンさんが、お婆様へと目線を戻す。
「シェリア様、フレイア様。領内のご報告と、この後の段取りについて少し確認をよろしいでしょうか」
「執務室で聞きましょう。フレイア。貴女も領内の報告を聞いておきなさい」
「分かった、分かった。―――、タリア。今日は時間が無い。こいつらを書庫へ案内してやれ」
「はい」
家人たちをあしらいながら答えるお母様が私たちを指して、きっちりと髪を結い上げてアップにした女性が返事をする。
私たちの方へ歩き出そうとした女性―――、タリアさんを、別の女性が制止した。
「あ。それは私が。タリアさんは報告の方をお願いします」
「ニーナ、お前。体調は良いのか?」
女性の申し出に、お母様が心配そうに眉根を寄せる。
心配された女性の方は、ニコリと笑みを返した。
「もう、すっかり」
「そうか。では、任せる」
お母様が明らかに安堵の表情を見せた。
健康そうに見えるけど、病気でもしてたのかな?
ニーナさんって、さっきも名前が出てたよね。
ヨルクさんと挨拶したときだったっけ?
ニーナさんはまだ若い人で20歳過ぎぐらいに見える。
この人の穏やかな雰囲気は、騎士様の、それじゃ無いな。
「フレイア様の書庫へ、ですね?」
「そうだ」
ニーナさんへ向けるお母様の目は、エゼリアさんたちと話すときと同じように柔らかくて、警戒心が感じられない。
平常運転に戻ったらしいミセラさんが、同僚たちへと顔を振り向ける。
「レヴィア、マーシュ。皆様への状況説明の方、頼める?」
ミセラさんは、私たちに付いて書庫へ来てくれるってことかな?
聞きたいことが有るから、丁度良いや。
「では、参りましょうか。ルナリア様、フィオレ様、ノーア様」
「ええ! お願いするわ!」
「・・・お願いします。ニーナさん」
「にゃ」
明るい声での誘いに三人で返事をすると、ニーナさんはニッコリと笑い返してくれる。
何だろう? ニーナさんとは初めて有った気がしないな。
そこで、ふと、上座側の袖に控えているノイエラさんが目に入った。
意図せず私の首が傾ぐ。
「・・・ん?」
「どうかなさいましたか?」
首を傾げるニーナさんとノイエラさんを見比べる。
ニーナさんの方が何歳か若そうに見えるけど、なんか、そっくり?