軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ⑪

「よろしいのですか?」

「・・・お願いしたのは、私です」

どうやら、純粋に心配してくれているらしい。

ジアンさんの目には気遣いの色がある。

「立ち会いをお許しになったのも、ですか?」

「・・・はい。みなさんも参加したければ、どうぞ」

広間のあちこちから、「ほう」と小さな声が上がった。

ふてぶてしく言った私の態度に、一瞬、目を丸くしたジアンさんが、ニヤッと口角を引き上げる。

「受けて立つ、と。これは確かにフレイア様のお嬢様ですね」

私は今朝、「立ち会いに応じる」とマーシュさんに宣伝を依頼した。

その対象者はピーシス領内の領民全てで、例外を設けるつもりは無い。

むしろ、身内だからこそ私を認めさせる必要が有る。

見所の一つぐらい見せられない子供の指揮に、命なんて賭けられないと考えるのが普通で、私には、その懸念を払拭する義務がある。

私が“紅蓮”を身に付けて後継者の資格を得ていることは周知の事実だから、それを見せる必要は無い。

今回は“蒼焔”のような危ない魔法を使う気は無いけど、全力でやるよ。

想定が”1対多”だから手加減するつもりは無いし、新領主に腕試しを挑もうとする人たちなのだから、大人で有れば歴戦の戦士なのだろう。

あるいは、それが子供で有れば、ただの跳ねっ返りか、相当なバカだ。

悪ガキの類いでも腕っ節には自信が有るのだろう。

多少のことぐらいで取り返しの付かないことにはならないだろうし、私の手札を見破れば即座に対応してくるはず。

いくつかの案は考えてあるし、私自身、この程度の障害を乗り越えられなくて、どうする。

余裕で勝つぐらいじゃないといけないし、”ガチバトル”なんてものに持ち込ませるつもりは無いよ。

力を信奉する脳筋の里だからこそ、その流儀に合わせた上で捻じ伏せる。

とっくに私の覚悟は決まっているんだから。

「良い目をしておられますね」

しばし、私の顔を見つめていたジアンさんが、お母様へと目を戻した。

ジアンさんの視線が戻って来たのを受けて、立ち会いの話は終わりだと言わんばかりに、お母様が話題を次に移す。

「フィオレは基本的にレティアでルナリアの側近として詰めている。本邸には、そう多く来られんだろうが、皆、新領地への転封の準備を進めておけ」

「しかし、まさかコーニッツとムーアを我々が治めねばならなくなるとは・・・」

誰かが零す声が聞こえ、室内が少しざわめく。

「旧勢力の始末は如何されますか?」

そんなことはどうでも良いとばかりにジアンさんは「実務」の範囲を問うてくる。

感慨よりも実務、か。

実直な人なんだな。

お母様がジアンさんに信頼を置いていることは、距離感の近しい雰囲気を見ていれば分かった。

戦傷による障害が有っても使い続けたいぐらいに有能な人なのだろう。

ワールターさんの例を見ても、有能で無ければ執事さんという職務は務まらないのだろうし。

でも、ワールターさんは良い歳だけど、ジアンさんはまだ若い。

そんな人がピーシス家の本邸に引っ込んだままなのは、勿体ないと感じてしまう。

「昨日、ほぼフィオレが終えている。今はマリッドが先乗りしているから心配は要らん」

お母様の宣言に、私も大きく頷く。

そうそう。私、がんばったよ!

上手く釣れた話は、まだ伝わっていなかったのか、響めきが上がってジアンさんたちが目を丸くする。

「フィオレ様が、ですか?」

「もう終えられたのですか?」

「マリッドさんが抑え込んだのではなく?」

得意げに私をぐりぐりしながら胸を張ったお母様がニヤリと笑う。

「一網打尽にされた豚ども鳴きっぷりは、なかなかに面白い見世物だったぞ。ワールターが取り纏めに入るから、引き継ぎまで暫く待っていろ」

「引き継ぎとは、委任統治の割り振りですか?」

質問というよりも、ジアンさんの口調は確認の意味に聞こえる。

表情を引き締めたお母様は広間の人たちを見回した。

「各家の委任領は倍以上に増えると思っておけ」

「倍以上、ですか」

「そして、領民の数は半数程度に過ぎん」

重々しく伝えられた情報に、ジアンさんの口元がヒクリと動いた。

私も遠い目になる。

うーん。新領地って、そんなに人口が少ないのか。

それは知らなかったなあ・・・。

あの守備兵たちを殺さなくて正解だったっぽい?

「土地だけは有っても、農地も戦力徴用限度も現状の半数程度になると?」

「実態は半数以下だろうよ。ウォーレス領よりも貧しく、領民の逃散が後を絶たなかった領地だぞ?」

お母様から答えが返って、ジアンさんが難しい顔になる。

大丈夫。私も頭を抱えたくなってるよ。

「それはまた・・・。やり甲斐が有りそうですね」

「今はまだ、未確定だが、西方地域、並びに、他国からの流出民が押し寄せる可能性が有る。移民の受け入れと掌握が必要になると考えておけ」

チラリと私へ目を向けたジアンさんは、こめかみを揉み始めた。

そりゃそうだろうね。

文字通り「毛色が違う」私と「他国からの流出民」という情報に、関連性を察したのだと思う。

それに、新領地の農地の少なさは労働力の少なさに起因するところも有っただろうし、その少ない労働力がウォーレス領へ逃亡するような真似を続けていたのが前領主だ。

人の営みというものは、本来、土地に根ざしたもので、転職する会社員のようにホイホイと引っ越しできるものではない。

畑は持って行けないし、山で原始人をしていた私だって、山から引きずり出されたときには抵抗した。

領主が代わったからと、すでに新天地での生活を始めた逃亡民が戻ってくる可能性は低いだろうし、労働力を他から調達してくるのも普通は難しいはずだ。

ディディエさんたちのような“問題を抱えた領民”でも無ければ、労働力の流出を阻止するのが真っ当な領主の在り方だと思う。

そして、そこへ文化が異なる地域からの流出民が大量に流入してくるとなれば、表面上の労働力不足はカバーできても、地元が先祖から受け継いできた元々の文化を破壊される恐れが有る。

移民の掌握と統制は必須で、扱い方を間違えれば無駄な血を流さなければならなくなる可能性が有る。

人心に関わる問題は、非常に手間が掛かって難しい大仕事となるだろう。

悪い情報を耳にして深刻な表情になったジアンさんたちを前に、お母様が再び口を開く。

「ただし、今後、“辺境”に注目が集まることになる。色々とな」

「その“色々”は、お教えいただけるのでしょうか」

真意を問うような視線で首を傾げたジアンさんに、お母様が答えを返す前に、澄まし顔のミセラさんがスッと手を挙げる。

「フレイア様。よろしいでしょうか」

「何だ?」

「今日はお時間がございませんでしょう。経緯や、それら諸々は、私たちから皆様にご説明いたします」

ああ、なるほど。

色々と知っているミセラさんたちは、説明するのに適任では有るね。

裏の事情まで把握するために王都邸に詰めているのがロス家なんだから。

ミリア叔母様とも連携していたし、私の傍に居れば、最新の情勢把握には一歩抜きん出ている。

ミセラさんの申し出に、アッサリとお母様も頷いた。

「そうだな。任せる」

「承知いたしました」

淑として頭を下げるミセラさんの存在に気付いていなかったわけでは無いはずのジアンさんが、ミセラさんへと、しっかりと目を向ける。

さらには、怪訝そうに首を傾げてレヴィアさんとマーシュさんを見る。

「ミセラ? 彼女らもロス家の?」

「今は移籍し、フィオレ様にお仕えしております」

言い返すようにミセラさんが即答し、ジアンさんの表情が改めて困惑を深めたものになった。