軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ⑩

お母様は相変わらずの大人気で、馬から下りたと思ったら、あっという間に人垣の中へ飲み込まれてしまった。

そこへ、お屋敷の扉が開いて二人の男性が連れ立って出て来る。

一人は20歳過ぎぐらいに見える少し変わったお仕着せ姿の男性で、もう一人はお母様と同年代と思われる、ワールーターさんのような執事服に身を包んでいる男性だ。

「シェリア様、フレイア様。お帰りなさいませ」

「おう、ヨルク。ニーナは元気か?」

若い方の人が掛けた声に人垣が割れ、お母様が片手を軽く挙げる。

「お屋敷で元気に働かせていただいておりますよ」

人好きのする柔らかい笑顔でお仕着せの男性―――、ヨルクさんが答える。

明るい栗色の癖っ毛で、ぽっちゃり気味のヨルクさんの挨拶を追い掛けて、執事服の男性が胸に手を当てる貴族式の礼で迎える。

「シェリア様、お帰りなさいませ。フレイア様、漸く、お帰りくださいましたか」

「帰って早々、小言は止めろ。ジアン」

茶色が混じったような金髪を首の後ろでまとめた男性に、嫌そうな顔でお母様がヒラヒラと手首を振る。

ん? 何か違和感が有ると思ったら、この人―――、ジアンさんが胸に当てたのは右手ではなく左手だったのか。

「留守の間、問題はありませんでしたか?」

「はっ。滞りなく」

お婆様に答える返事が短く切れの有るものだったことから、ジアンさんは騎士様なのだと察せられた。

私の視線を感じ取ったのか、ジアンさんの目が私へと向く。

「フレイア様。こちらのお方が?」

「ああ。―――、フィオレ」

「・・・はい」

手招きされて、お母様の傍へと急ぐ。

お母様の隣に立って、ぐりぐりされながら紹介される。

「こいつはピーシス家本邸の執事、ジアンだ」

「・・・フィオレです。よろしくお願いしますね」

軽く会釈しながら挨拶する。

本来、立場上、私は現当主となっているので軽々しく頭を下げることは出来ない。

日本人ムーブで、ついつい、条件反射で頭を下げてしまうんだよねえ。

出掛けに領軍の兵士さんに頭を下げたのは、私の被保護者である新人メイドさんたちが迷惑を掛けたためだ。

対するジアンさんは左手を胸に当てて綺麗な所作で礼を取る。

「ジアン・クックと申します。フィオレお嬢様の勇名は、かねがね耳に致しておりますよ」

「・・・あ、あはは」

ジアンさんが向けてきた柔らかい笑みに空笑いか出る。

勇名、だよね? 文脈から「有名」ではないことぐらいは私にも分かる。

一体、誰から何を聞いているんだか。

「こっちは、ヨルクだ」

「委託統治領の文官を務めさせていただいております、ヨルク・リナレスと申します」

「・・・よろしくお願いしますね」

ヨルクさんにも、軽く会釈して挨拶を交わす。

「広間に皆を集めておけ」

「はっ。直ぐに」

私をぐりぐりしながら出されたお母様の指示に、ジアンさんとヨルクさんが答えを返して身を翻す。

ここで、ジアンさんに感じていた違和感の正体に気付いた。

ジアンさんの右手の袖がスカスカで、腕の振りによる風にそよいでいるのだ。

戦傷、かな・・・。

ジアンさんは右手の前腕部―――、肘から先を欠損している。

「行きますよ」

「・・・あ。はい」

ジアンさんの後ろ姿を見送っているとお婆様に呼ばれたので、思考を打ち切った。

私たちが移動を始めると同時に4の鐘が鳴り始める。

どこで鳴っているのか鐘楼も見当たらないけど、音が近いから、お屋敷の近くに音源があるはず。

お屋敷の正面出入口から入ってすぐに右へ折れ、玄関ホールに面した扉を潜ると、レティアの領主館の食堂と同じぐらい広さがある広間だった。

上座側へ、お婆様とお母様に挟まれたルナリアと私とノーアが立つ。

下座側には、ピーシス委託統治領の領主館である本邸に勤めているので有ろう人たちが立ち並ぶ。

エゼリアさんたちとピーシーズも上座側の袖に控えているので、まあまあ人口密度が高い。

「皆、ご苦労」

「改めまして、お帰りなさいませ。フレイア様、シェリア様」

お母様の労いにジアンさんが代表して応え、30人以上の人々が一斉に頭を下げる。

この人たちが本邸に勤める家人らしい。

「みんな、久しぶりね!」

「いらっしゃいませ。ルナリア様」

「お久しゅうございます」

ルナリアの太陽みたいな笑顔に家人のみなさんから明るい挨拶が返る。

挨拶の声が収まるのを待って、お母様が私とノーアの背後へと移動して頭にポンポンと手を乗せる。

「紹介しておくぞ。こいつらが私の娘、フィオレとノーアだ」

「・・・フィオレです。みなさん、よろしくお願いします」

「にゃ。ノーア」

ちょっ、ノーア。

いつもなら、ちゃんと挨拶できるのに、今日に限って出来ないなんて。

私はギョッとしたけど、ノーアはまだ3歳だ。

下座側に立つ人たちから返ったものは、微笑まし気な暖かい笑顔だった。

小っちゃくてフワフワなノーアは反則的に可愛いから、「カワイイは正義」で許された可能性も有るのだろうか。

ポッと出の養女に対する反感を買わないかとヒヤヒヤした私の心配が空振りに終わって、ホッと息を吐く暇もなく、お母様が話を進める。

「聞いているとは思うが、私は爵位をフィオレに譲り、隠居した。良いな?」

「「「「「はっ」」」」」

老若男女を問わず、軍隊を思わせる短い返事が一斉に返る。

「ま。親父殿も現役に戻ったし、領主としての実務は私とお袋殿が代行するから、今までと、ほぼ変わらんと思え」

砕けた口調でお母様が言葉を繋いで、室内の空気が緩む。

そこで家人を代表して口を開いたのはジアンさんだ。

「ところで、領民に召集を掛けられたとお聞きしておりますが?」

「ただのお披露目だ。召集というほどのものでは無いぞ」

お母様の返事に、小さく首を傾げたジアンさんの目が私へと向く。

立ち会いの件かな?

ミセラさんが手配してくれた私のお願いは、一足先にピーシス領へ入っていたマーシュさんによって、問題なく領民へ伝えられているようだ。