軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ⑬

「・・・え? あ、いえ―――、!」

「ニーナさんは、ノイエラさんの妹さんですよ」

あんまり人の顔をじろじろ見るもんじゃ無いな、と、首を振ろうとした私の両肩が、耳元で聞こえたミセラさんの声でビクリと跳ねた。

振り返ると、やっぱり直ぐ背後にミセラさんがいる。

くそぅ。またやられた。

なかなか気配を掴めないな。

心の準備はしていても、ビックリして、ちょっと心臓がバクバクしている。

「・・・そ、そうなの?」

「ミセラさんは、相変わらずですね」

私の視線にニコリと笑い返した後、ミセラさんに視線を移して、ニーナさんは呆れた心情を顕わにする。

ニーナさんの後に付いて広間を出る。

エントランスホールから大階段を上がって2階へ。

「それは仕方ないですね。一応、ロス家の端くれでしたから」

「だからって、あんな挑発をしなくても」

ミセラさんが胸を張り、ニーナさんがジト目で返す。

この二人って歳が近そうだからか、ニーナさんの指摘も遠慮のない感じ? などと、黙って聞いていたら、ミセラさんが聞き捨てならないことを宣った。

「ちょっとムカついただけです。大した理由では有りません」

「・・・ムカ・・・、ええ?」

私がミセラさんに訊きたかったことは、ジアンさんがどんな人なのか、だったんだけど、訊きにくくなっちゃうじゃん。

ワールターさんとお母様の信頼関係を見るに、ロス家とピーシス家は不仲ってわけじゃないはずなんだけど、ジアンさんとミセラさんは個人的に仲が悪いのかな?

2階の廊下で折り返して3階へ。

ジアンさんが先に、「何でロス家の人間がピーシス家に居るんだ」みたいな言い方をしたせいじゃないかと思うけど、いつものミセラさんなら、あの程度のことでケンカになったりしないんじゃないかと思う部分が有って、困惑する。

「あの方は、 フィオレ様に(・・・・・・) お仕えするべき方だからです」

「・・・私に?」

あれ? 売り言葉に買い言葉だと思ってたけど、そうじゃない?

いつも通りの口調に聞こえたけど、ミセラさんの目には真摯な光が有る。

どういうことなんだろう?

今、ミセラさんが言ったことは、ミセラさんの本心だと感じてしまった。

「そのうち分かりますよ。フィオレ様は、気にせず立ち向かってくる者を薙ぎ倒していただければ結構です」

「・・・ああ。ハイ」

すぐに平常運転のミセラさんに戻ってしまったから、了承の返事だけ返しておく。

ちゃんと理由を話す気は無さそう。

私とミセラさんの会話にニーナさんも口を挟んでこない。

「それはそうと、お腹の経過は良いのですか?」

「ええ。悪阻も終わりましたし、もう、すっかり」

話題を変えたミセラさんに、ニーナさんも乗っかるようだ。

そんなことよりも、気になる単語が。

「・・・お腹? つわり?」

「生まれるのは夏前でしょうか」

「・・・おおっ! おめでとうございます!」

戦争やら政治やら外国やら、嫌な話題が続いていたから、明るい話題に嬉しくなる。

いくつかの単語だけでは連想できなかったらしいルナリアが小首を傾げる。

「なに? どうしたの?」

「・・・お腹に赤ちゃんが居るんだって!」

理解が追い付いたルナリアが、バッとニーナさんを見る。

「そうなの!? ニーナ、おめでとう!」

「ふふっ。ありがとうございます」

パァッと表情を明るくしたルナリアに、ニーナさんも幸せそうな笑みを浮かべて返す。

そっかあ。ノイエラ叔母様になっちゃうわけだ。

お母様は知ってるのかな?

お姉さんのノイエラさんは、当然、知ってるだろうし、ニーナさんの体調を気遣う様子を見せていたのだから、お母様も知ってるよね?

ジアンさんとミセラさんの話は、ミセラさんの思惑通りにか有耶無耶で終わってしまった。

3階の廊下を進んで突き当たりの扉へと、ニーナさんは先導してくれているようだ。

まあ、ピーシス家もロス家もウォーレス家の血族で、それほど遠くもない親戚なのだろうし、身内だからこそ、なんだかんだ有るのだろう。

気にならないと言えば嘘になるけど、ミセラさんの方が話術もコミュニケーション能力も私より上手だし、ミセラさんに話す気が無いときには訊くだけ無駄なのだろう。

たぶん、その必要が有るか、知るべきタイミングが来たら話してくれると思う。

だから、今は考えるだけ無駄だ。

今、私が集中すべきことは別に有る。

無人だと分かっていてもニーナさんは扉をノックして、扉を開いて脇に退く。

「さあ、こちらがフレイア様の書庫ですよ」

「・・・おおっ。何これ凄い!」

「本だらけね!」

分厚いカーテンが閉まっていて薄暗いけど、壁の本棚だけでなく、図書館の書架のように背中合わせに設置された本棚の島が有って、見る限り、どの本棚にもビッシリと本の背表紙が詰まっている。

「ノーア様は、私と遊びに行きましょうか」

「にゃ」

本を「楽しいもの」と認識していないのか、ミセラさんに誘われたノーアは手を引かれて行ってしまった。

ミセラさんたちはノーアの教育係を兼ねているとワールターさんが言っていたから、遊びと称して隠形術か暗器術の訓練でもするつもりなのだろうね。

それにしても凄い数の本。

林立する本棚の間をキョロキョロと見回しながら、ルナリアと二人で歩く。