軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ⑦

ウォーレス領では全ての領民が騎乗訓練を受けているから、馬の手配を命じてくれたハロルド様も、二人が馬に乗れないとは思ってなかったんだろうなあ。

私も確認することを失念してたし。

責任の所在を問うなら、二人の主で有る私が問われるべきだ。

普段のお母様なら「放って行く」と判断するであろうところを、お母様は我慢してくれている。

今日は、ディディエさんたちを本邸に勤める人たちに紹介するのも目的の一つだから、だろうね。

とはいえ、せっかちなお母様がグダグダと長引くことを快く思うはずもなく、兵士さんに向かって面倒くさそうに訊く。

「荷馬車ぐらい有るだろう」

「もちろん荷馬車は有るんですが、今日は使う予定を聞いていなかったので、荷馬を放牧に出してしまいまして」

「ああ。それは仕方がないな」

兵士さんの回答に、お母様が納得して頷く。

領主館の荷馬は輜重部隊の管理下だ。

戦地から帰ってきたばかりで疲労して居るであろう荷馬を、放牧に出して休ませているのは当然の処置だな。

馬は資産で有り、無茶な使い方をすれば馬が潰れてしまう。

これはダメだ。

悪いけど、ディディエさんたちの我が儘を通すわけには行かない。

「・・・二人とも。良い機会だから乗馬にしなさい」

「で、でも・・・」

二人が不安そうに眉尻を下げる。

誰だって初めて挑むときには初心者なのだ。

ルナリアと私だって、乗馬を教わり始めて3ヶ月間ほどしか経っていない。

「・・・慣れだよ。慣れ。これ以上、厩舎に迷惑を掛けるなら、ここに置いていきます」

「「乗ります!」」

軽く脅しを掛けると即答で返してきた。

かまってちゃんかな?

いや。思い詰めた表情で手の中の鞭を見下ろしているディディエさんの姿を見る限り、意図してトラブルを起こしている様子は無い。

だからといって、気を使って甘く接するのは二人にとっても良くないのかも。

「あと2頭、用意してやれ」

「はっ」

小さく溜息を吐いたお母様の指示に兵士さんが急いで駆けて行く。

決着したと判断したのであろうお母様は、さっさと愛馬の下へと歩いて行ってしまった。

怒っている、というわけではなく、呆れているのであろうお母様の気持ちは私にもよく分かる。

「フィオレ様!」

「・・・な、何?」

二人に対する今後の扱い方をどうしたものかと考えていると、ディディエさんが身を乗り出してきた。

成人であるディディエさんたちの身長は160センチメートルは有って、私の身長は110センチメートルほどだ。

50センチメートルも身長差がある相手に迫られると、覆い被さられるような格好で、私の方が仰け反ってしまう。

驚いている私の目の前に、胸元に抱いていた鞭を差し出してくる。

「これで私を打ってくださいませ!」

「・・・へっ!?」

一瞬、頭の中が真っ白になって、何を言われたのか分からなかった。

さらには、混乱している私にダーナさんが畳み掛けてくる。

「私もです! お仕置きしてくださいませ!」

「・・・お仕置きって、何!?」

何を言われたのか分からなかったのでは無く、私の頭が理解を拒絶していたのか。

「お好きに打ってください!」

「・・・ちょっ! ええっ!?」

鞭を差し出したディディエさんと両の拳を握りしめたダーナさんが、切羽詰まった表情でグイグイ迫ってくる。

「「お願いします!!」」

「・・・ななな、なんでそんなことを!?」

私は意味も無く人を傷付けるような真似をしたくないし、意味が分からない。

「朝から、もう二度もお叱りを受けてしまいました・・・」

「今も、皆様の足を引っ張ってしまって・・・」

うわぁ・・・。かなり精神的に不安定っぽいな。

死人かと思うような暗い表情で萎れる二人の姿に、二の句を告げなくなる。

“ 人間が失敗するの(ヒューマンエラー) ”は当たり前のことだし、そこまで落ち込む必要は無い。

失敗に対する反省は必要だけど、小さなミスでいちいち落ち込んでいたら、まともに生活していけなくなる。

気を取り直して私が口を開く前に、催促が飛んでくる。

「おーい。早くしろ-」

「フィオレー。まだー?」

「・・・うええ!? は、はいぃ!」

苛立ちを含んだお母様とルナリアの声に、ディディエさんたちに言い聞かせる時間的猶予が無いことを認識させられる。

行き場の無い二人を受け入れたのは私の我が儘に過ぎず、二人に対する監督責任は私にある。

そこへ、鞍を背に乗せた2頭の馬を兵士さんが牽いてきた。

後ろの催促と、目の前の要求と、何ごとかと目を丸くしている兵士さんの視線に、私が追い詰められる。

何なのコレ!?

「「どうか、お願いします!!」」

「・・・もおお! これはダメっ!」

こんなことを、してる場合じゃ無いのに!

傷が残るようなこともダメ!

ディディエさんの手から鞭を奪い取って足元の地面にベシッと叩きつける。

「「あっ!」」

「・・・後ろを向きなさい!」

絶望的な顔で悲痛な声を上げる二人に、背後を指して強い言葉で命じる。

「「は、はいっ」」

「・・・ええい!」

従順に後ろを向いた二人のお尻を、ヤケクソで、ペシッ、ペシッと平手打ちした。

突然の行為に兵士さんが驚いた顔で一歩後退る。

牽かれてきた馬も驚いたようにピタリと脚を止めた。

「「ああああああっ! ありがとうございましゅうううっ!!」」

もの凄く嬉しそうな顔で肢体を震わせつつ、感極まったような嬌声を上げる二人の姿に私の膝から力が抜けて、ガックリと跪いて項垂れた。