軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ⑥

お婆様の命令で身長や足のサイズの他、色々と測られて、丸洗いされて身支度が終わったら食堂へ移動して朝食だ。

なぜ測られるのかと思ったら、これから私たちは成長期を迎えるし、立場上、人前に出る機会が増えていくから、頻繁に衣服を誂えていく必要が有るのだそうだ。

今までのように乗馬服ばかりはNGなんだな。

お洒落なんかに興味は無いし、肩が凝りそうな衣服を着なきゃいけないのは面倒なんだよなあ。

面倒くさくは有るけど、お母様たちが持っている軍服みたいな衣服なら有りかな。

学生みたいに、決まった制服を着ていれば良いのって楽だからね。

制服なら、今日は何を着ようか、なんて考える労力が減る。

社会人になって制服がある会社だと油断していたら、通勤は私服だから、同じ服ばかり着ているわけに行かなくて無駄な浪費をさせられた。

私は下着も同じものを、たくさん買うタイプだったからね。

同じものばかりなら、洗濯するときにも、乾いた靴下をセットで合わせたりする無駄な労力も不要になるんだよ。

雑談しながら、そんなことを考えていると食堂へ着く。

「・・・おはようございます」

「おはようございますにゃ」

「おう。おはよう」

食堂へ入って挨拶すると、お母様をはじめ、みんなが挨拶を返してくれる。

対外的な荒事が終わって気分が落ち着いているからか、みんな穏やかな雰囲気を纏っている。

ここで一人だけ様子が違うのはルナリアだ。

食堂へ向かう辺りから落ち着きが無くなってきて、食堂へ入った頃にはキョロキョロと視線が落ち着かず、完全に挙動不審になっている。

どうしたのかと、みんなの視線が集まって、急激に赤面し始めたルナリアは、意を決したようにお母様へと向き直った。

「お、おはよう! お、おおお、おか、おか―――」

「おか?」

「・・・・・」

穏やかな表情に見えるけど、目が面白がっているお母様が先を促し、お母様に遊ばれていることに気付かないルナリアは、真っ赤になったまま言葉を無くしてしまった。

「・・・ほら。ルナリア、落ち着いて」

メイドさんたちにセットして貰ったばかりの髪を撫でると、私と目を合わせたルナリアから力強い頷きが返ってきた。

大きく息を吸って吐き出して、少しだけ顔色が冷めた顔を決然と上げて言葉にする。

「お、おはよう! お母様!」

「おう。おはよう」

「―――、!!」

優しい目差しと共に返ってきたお母様の声に、ルナリアの顔がパァッと輝く。

ハロルド様をはじめとしたみんなとも挨拶を交わしたルナリアは、もう、満開のお花が咲き乱れたポワポワ状態だ。

私もハロルド様を「お父様」と呼ぶべきなんだろうけど、いつから呼び始めるべきか、この場では聞きにくいな。

今の優先順位は別の案件のほうが高いから、後回しで良いや。

「さあ、早く席に着きなさい」

和やかに朝食をいただきつつ、覚悟を決める。

収まるべきものが収まるところに収まってくれた感じで、家庭内に後顧の憂いは無くなった。

内が収まったなら、次は外。

今のところレティアの町中でルナリアを舐めて掛かる話は聞かないけど、ルナリアの立場は私と同じなのだから、騎士様や兵士さんを含めた領民の全てがルナリアを認めているとは脳天気に信じない。

それは私自身にも同じことが言えるわけで、筋肉で語り合う脳筋の里だからこそ有り得るはずだ。

むしろ、ミセラさんたちが情報を出していないだけと考える方が自然だろう。

私がピーシス委託統治領で認められることは、後ろ盾という意味でもルナリアの統治に助けとなるはず。

脳筋どもを力尽くでねじ伏せて、私たちは前へ進むんだ。

食事中に今日の行動予定を共有したら、早々に出掛ける。

私の今日の目的を聞いたお爺様たちは、面白そうにニヤッと笑っただけで何も言わなかった。

私の「帰宅」に随伴してくれるのは、予定通り、お母様とお婆様に、ルナリアとエゼリアさんたちとピーシーズだよ。

随伴と言っても、ルナリアはピーシス家が統治している領地の委任者で、新しい地主として代替わりの挨拶をしに行く形になる。

お母様とお婆様は、文字通りの「帰宅」。

エゼリアさんたちとピーシーズは、半分ぐらい里帰りみたいなもの。

あと、オマケでミセラさんたちとディディエさんとダーナさんが付いてくるんだけど、ミセラさんたちの目的はピーシス家本邸に所属替えの挨拶と新人さんを紹介することだそうだ。

領主館裏の厩舎へ回ると、兵士さんたちが用意してくれていた馬が曳き出されている。

兵士さんたちにお礼を言って、みんなが騎乗する準備をし始める。

で。さあ、出発しようか、という空気になったときに問題は起こった。

「えっ? 荷馬車ですか?」

「は、はい。私たちは馬の背に騎乗したことが有りません。それで、荷馬車をお借りできればと・・・」

厩舎で準備をしてくれていた領軍の兵士さんたちを労いつつ、私たちが乗馬の手綱を受け取っていると、5メートルほど離れた物陰から恐る恐る顔を出したディディエさんに話し掛けられている兵士さんの一人が、困惑顔で首を傾げていた。

どこから借りてきたのか、ディディエさんの胸元には“長鞭”と呼ばれるタイプの、馬車用の鞭が握られている。

「鞭」という道具は、細長い棒の先に革の切れ端が結わえられていて、馬車を牽く馬のお尻を御者台からペシリと叩くためのものだ。

鐙で馬のお腹を押すのと同じ意味で、馬に「進め」という合図を送るために用いる。

自動車で言えば「アクセル」の役割だね。

今さらだけど、「ハンドル」は、行きたい方向へ手綱を引いて馬の顔を向けさせることで、馬の進路を変えられる。

「ブレーキ」は、手綱を手前へ引いて馬に顎を引かせることで、馬たちは脚を止めてくれる。

馴致の仕方で操縦方法に誤差は有るらしいけど、馬のコントロール方法は、どこでも大体、同じらしい。

ちなみに、日本の乗馬教室などで鞭を用いた馴致がしっかりと行われている場合、賢い馬は「鞭を手にした者に従う」ので、小枝を持って遊んでいる子供がいると「命令者」だと誤認した馬が、その子供を追い回すことがある。

実際に追い回されたことが有るんだよ。昔。

「馬車なら扱えるんですか?」

「の、農家の出なので・・・」

「はあ。そうなんですか」

気の抜けた返事をする兵士さんと、警戒する野良猫のようなディディエさんの、温度差が酷い。

これは、ちょっと、アレだな。

ウォーレス領全体に影響する要件でピーシス家本邸へ私たちが向かうので、ハロルド様が兵士さんに馬を用意するように命令を出して準備させておいてくれていたんだけど、命令が「馬の準備」なのだから、当然、馬車の準備がされているわけもない。

騎馬向きの馬と荷馬向きの馬って、筋肉の付き方が違うからね。

マラソンランナーと重量挙げの選手が違う筋肉の付き方をしているのと同じことだ。

用途の向き不向きに併せて用意させる馬の指示も変わる。

突然、指示に無い要求をされると、要求された兵士さんたちが困るのは当然だ。

ピーシス委託統治領まで、レティアの町から、おおよそ片道2時間。

今は3の鐘が鳴って1時間ほど経つから7時ぐらいだ。

帰りも2時間掛かるから、向こうへ着くのが9時ぐらいだとして、6の鐘で向こうを発つと考えれば、滞在できる時間は6時間しか無い。

本邸に着いてからの多くの用事をこなす必要が有るのに、出発に時間を掛けているわけには行かない。