作品タイトル不明
新たな芽吹き ⑤
みんなと雑談しつつ走り終えてスタート地点へ戻ってくると、ディディエさんたち二人は、まだ、どんよりしたままだった。
汗拭き用の手ぬぐいを持ってきてくれた二人の顔を見上げる。
「・・・いつまで落ち込んでるの」
「ご恩返しがしたいのに、お叱りを受けるような真似をしてしまうなんて・・・」
「不甲斐ない自分が許せません・・・」
うーん。気にするな、とは言わないけど、気にしすぎても心を病むだけだしなあ。
「・・・反省したんだよね?」
「「もちろんです!」」
呼吸ピッタリに身を乗り出して返事をするので、二人に勢いに仰け反る。
「・・・だったら“次”に活かせば良いだけだよ。スッパリ気持ちを切り換えると良いよ」
「次に活かす、ですか・・・」
「気持ちを切り替える・・・」
真面目、というか、私みたいにスレていないから、真っ直ぐに向き合うことしか方法論を知らないんだろうね。
それで困難を乗り越えられれば良いけど、乗り越えられなければ、心か体か、その両方を壊してしまう。
私の持論だけど、思い詰めても良い結果には繋がらないからね。
惰性で反省や教訓を活かせないのは問題だけど、何が問題だったのかを省みて、同じ轍を踏まないように調べて考えて、スッパリと仕切り直した方が生産的なんだよ。
「簡単に割り切れれば苦労しない!」って反論されるかも知れないけど、人間一人いなくなったところで社会や組織への影響なんて、ほぼ無くって、何ごとも無かったかのように回り続けるのが社会や組織というものだ。
何の脅威にも晒されないぐらいに守ってくれるほど世界は私たちに優しくない。
だったら、こっちが割り切って何が悪い。
思い詰めて壊されるぐらいなら、何もかも投げ棄てて仕切り直して自己防衛する方が良い。
二人が生きてきた場所で、二人は守って貰えなかった。
いっそのこと、環境を丸ごと変える方が二人にとって安全だと思ったんだよ。
だからこそ、私は、この二人を連れ帰ったのだから。
さて、どうやって切り換えさせるべきか。
この二人さえ牽引して行けないのなら、私が全ての領民を牽引して行くなんて夢のまた夢だ。
“何をさせるか”の前に“何が出来るか”が先?
そういえば、この二人の“出来ること”って把握していなかったな。
「・・・二人は剣術や魔法を訓練した経験は?」
「有りません・・・」
「魔法術式も生活魔法ぐらいしか使えませんし・・・」
また、どんよりと俯く。
ふむ? 自衛手段を何も持っていない?
そりゃそうか。
二人が抵抗する手段を持っていれば、暴行を受ける前に殺されていた可能性の方が高かったように思う。
二人の実家が有った村は農村だったよね。
ミセラさんたちが身辺調査した結果でも全く裏の無い農家の娘だったらしい。
調査結果が出るのがメチャクチャ早くてビビったんだけど、私たちの目に触れない距離でロス家の人員が常に配置されているのかも。
15歳で成人する世界で20歳手前なのに二人が未婚だったのは、寒村の男性不足によるものが原因だったって聞いた。
そして、労働力で有ると同時に、新たな労働力を増やすために子供を産むのが重要な仕事で有る女性は、特に結婚が早いらしい。
政略結婚で家同士を繋いで子供を産む以外に仕事が無い御令嬢ほどでは無くても、20歳までには結婚するのが普通なんだってさ。
お母様たちって、本当に特殊なんだな。
まあ、一般論や特殊事例は横に置いておこう。
この二人のような寒村の娘というものは、村の人口を増やすために婿入りしてくれる男性を求めるものなんだと。
つまり、婿入りしてくれる男性が居なくて二人は売れ残っていたわけだ。
働き手が少ない寒村では、男女の区別なく子供の頃から家業の手伝いに従事する。
剣術や魔法なんて―――、日本では義務教育だった基礎知識すら学ぶ機会なんて無かったことは、想像に難くない。
でも、よく考えると、二人の前職はプロの農民だったと言えるんだよね・・・。
それって、私が欲しいと思っていた人材そのものじゃん。
亡くなったご両親から教わったから読み書きは出来る、と。
四則計算も教え込むか。
スライム畑や新しい作物を選定するときに二人を担当にしようかな。
そうなると、二人に農村の把握や指導を任せる状況も考えておかなきゃ。
デキる人のところに仕事が集中するのは世の常だ。
治安の悪い場所へ行かせるつもりは無いけど、自由に活動できる状況を作るには二人も鍛えておく必要が有る。
「・・・ヨシ。じゃあ、私と一緒に訓練しよっか」
「「―――、!!」」
誘いを掛けると、二人がバッと顔を上げる。
「・・・自分の身を守る手段は持っておかないとね?」
「「はい!」」
パァッと表情を輝かせて二人が頷いた。
ルナリアは訓練用の鉄剣を手にピーシーズの5人と一緒に本格的な剣術の訓練を始め、私とノーアは木剣を手にレヴィアさんが見せてくれる剣術の”型”を見よう見まねでトレースする。
落ち込んでいるディディエさんたちにも私たちと並んで木剣を振るように命じたので、先生役のレヴィアさんを前に、ド素人ばかりが揃った初心者向けのカルチャースクールみたいになってしまった。
体を動かしている方が気分転換にもなるんじゃないかと思ったんだけど、正解だったかな?
「型」に意識を集中し始めると、二人の表情から思い詰めたものが薄れはじめたように見える。
剣術の「型」っていうものは、攻撃の基本動作や防御の基本動作が織り込まれたものだ。
無意識にでも反射的に「型」の動作ができるように、徹底して体に覚え込ませることで、最低限の戦闘行為が可能になる。
女性騎士になる必要までは無いけど、二人にも何か武術を教わるように命じてあげた方が良いのかも。
自信が付いてくれば、命じられるのを待つ受け身ではなく自発的に行動してくれるかも知れない。
人を扱う側からすれば、自発的に考えて、先回りしてくれる人材ほど有り難いものは無いはずだ。
1時間も体を動かせば、それなりに汗だくになっていて、領主館に戻ったら、ルナリア共々、ノーアもろともメイドさんたちに捕獲されて浴室へと拉致された。