軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな芽吹き ②

時間の掛かるルナリアが、ようやく着替えて隣の椅子に腰を下ろした。

私の身支度が終わると今度はノーアが髪を梳かされる番。

ルナリアとは反対側の隣の椅子に設置されたノーアのふわふわの髪は私たちよりも短いから、濡れ手ぬぐいで軽く湿らされて梳かされると、すぐに寝癖も直る。

そうなるとルナリアの髪が見られる程度に収まるのを待つだけになるので、三人でレヴィアさんが淹れてくれたお茶を飲んでいる。

温かいお茶で体が温まってきて頭が働き始めたらしいルナリアの目に、思考力の光が見えている。

「今日はピーシス家の本邸に行くのよね?」

「・・・そうだよ。取りあえず、現状を確認して、どう選抜するか考えるつもり」

何の選抜かと言えば、当然のことながら、ピーシーズの増員メンバーの話だ。

暦の上では、あと1週間ほどで新年を迎えるらしいんだよね。

こっちの世界の戸籍記録の無い文化では、個人個人が生まれた年月日を公式に記録していないから、新年を迎えるごとに年齢がプラスワンされる。

ルナリアと私は、あと1週間で6歳になるわけだ。

一気に何かが変わるわけでも無いけど、今年よりも、出来ること、すべきことが少しだけ増える。

今日、「すること」も、その足掛かりの一つだ。

絡まった髪に櫛を通されながらティーカップのお茶に口を付けるルナリアの問いに、「考えるつもり」とは答えているけど、“何となく”のプランなら、すでに有る。

エゼリアさんたちの話では、当初の選抜基準から外れた子も十数人ほど居るらしいから、年が変わる前に顔合わせは済ませておきたいんだよ。

アンリカさんのお母さんも選抜試験に携わっていたらしくて、合否判断に携わっていたから詳細を聞いているんだって。

不合格だった理由は、「見た方が早い」だそうだ。

元々、予定されていた選抜目的が「ルナリアの側近候補」だしね。

そこに私が割り込んで、ワンクッション入れる形になった。

そもそも、なぜ、ワンクッションが必要だったのか。

大体の予想は付くけど、だったら余計に会っておきたいと考えた。

その子たちの何が届かなかったのかを確かめて、届かなかった部分を集中して鍛えれば、第1次派遣部隊のメンバーは何とか揃えられるんじゃないかと私は予想している。

目標数は60人で、最低確保数は20人。

選抜した新メンバーは採掘場で血を飲ませまくった上で、現メンバーで徹底的に鍛えまくる。

「そ、そう」

「・・・うん?」

私の答えを聞いたルナリアは、そわそわと落ち着かない様子?

瞬きが多くて、あっちを見たり、こっちを見たりと、言葉を探すように目線が忙しなく動いている。

顔色が、ちょっと赤いな。

手を伸ばしてルナリアのおでこに手のひらで触れてみる。

「・・・大丈夫? 熱でも有る?」

「な、無いわよ!」

「・・・そう?」

おっと。横を向いて逃げられてしまった。

何だ? この反応・・・。

ルナリアの顔色が、さらに赤くなってるんだけど、本当に大丈夫かな。

「ほ、本邸には、お、おおお、お母様も一緒に行くのよね?」

「・・・うん。古代エルフ文字の蔵書も見せて貰うことになってるし、お母様とお婆様が一緒に行ってくれるんだよ」

「そ、そうなのね!」

私の口から出た「お母様」という単語にピクリと肩を震わせた後、パアアッとルナリアが太陽みたいに笑顔を輝かせる。

ははぁ。これはアレかな?

今まで「叔母様」って呼んでいたお母様を「お母様」って呼ぶことに、気恥ずかしさを感じているのかな。

私のときは、気恥ずかしさよりも、自分の記憶が定かじゃ無かったことの方が問題だったけど、ルナリアの場合は、長年の人間関係の変化だからね。

「・・・ルナリアも“お母様”って呼んであげると、お母様も喜ぶと思うよ?」

「そ、そうかしら・・・。ううん。そ、そうよね!」

「・・・うん。がんばれ」

「うん!」

助言して励ますとルナリアは大きく頷く。

ルナリアが嬉しそうに笑っていると私も嬉しいんだなあ。

そう言えば、ハロルド様がお母様と再婚すれば、ルナリアと私って、今後の家系上は義理の姉妹になるんだよね。

姉妹というものがどんなものなのか、お母様とミリア叔母様や、アンリカさんとアリアナさんの関係でしか目にしたことが無いけど、私たちも、あんな風になれるんだろうか。

ルナリアとの絆が切ろうにも切れない形を得ることは、意識せずニヨニヨと口元が緩んでしまう程度には嬉しいことだと感じている。

そんなものが無くても私はルナリアの傍に居るつもりだけど、ルナリアと一緒に居る大義名分が強化されることは素直に嬉しい。

いつまでも緩んでいられないから気を引き締める。

年の瀬と言っても日本的なイベントは特に無く、新年だからと何かをするってわけじゃないそうだけど、ウォーレス領全体が戦争でバタバタしていたから、後始末だとか、みんな、それなりに忙しい。

ハインズ様とお爺様とセリーナ様だけでなく、戦後処理の書類の山を片付ける作業にハロルド様も動員されているから、お母様とお婆様の手を何度も取らせたくない。

だから、今日一日で、大方の決着は付けておきたい。

ようやくルナリアの寝癖との戦いに勝利しそうなレヴィアさんを見上げる。

「・・・今朝は、マーシュさんは?」

「マーシュでしたら、昨夜、ロス領へ報告と情報交換のために帰った後、ピーシス領へ先乗りして異状が無いか確認する予定になっています」

「・・・ピーシス領で異状?」

ピーシス家の地元と言えば脳筋の巣窟の最奥だよね?

お母様が憧れの大女優みたいな扱いで大人気なのは、お披露目と出陣式のときに見たし、そんな場所がピーシス家やウォーレス家への忠誠心を揺らがせることなんて無いんじゃないだろうか。

「何と言いますか、自分の目で確かめないと納得しない頑固者が、それなりに居るんです」

「・・・自分の目で?」

私の首が傾ぐ。

つまりそれは、自分たちのボスとして受け入れられるかどうか、って意味だろうか。

ふぅん。それって私に対してかな?

それとも、ルナリアに対してかな?

どちらにせよ、私の予想は当たっているってことだな。