軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拡大家族会議 ⑱ ※アンサンブルキャスト面

「気の早い話だ。三人が前面に出て民草を率いるのなど、まだ10年も先の話だぞ」

「政治的な民心掌握は分からんでは無いが、見掛け倒しにならないように、強く在らねばならんな」

フレイアの見解にハインズは首を振る。

歳を食って思うようになったが、10年など、あっという間に過ぎ去るものだ。

誰よりも強く在らねばならないウォーレス家とピーシス家の当主ともなれば、己を鍛えるために与えられた時間として10年など決して長くは無い。

「王家がウォーレス家を従え、治癒魔法術師の増加と食料生産率の上積みが実現すれば、王家が主導権を取り戻す切っ掛けにもなろう」

「先王陛下は“強い王国”を目指されたが、各領地に伸し掛かる負担も大きかったからな」

思えば、この場に居る4人は、全員が先王陛下に振り回された経験が有る。

兵員に戦費、兵站に軍馬。

戦争をするには、あらゆるものが必要とされる。

ひっきりなしに戦場へと駆り出されては駆けずり回り、多くの貴族家が疲弊する結果となった。

外敵を作って国内に求心力を得る手法には、良い面も悪い面も有ったのだ。

その中でフレイアは、イリーナという側近の一人を失った。

実姉の跡を引き継いだノイエラも粉骨砕身で務めてくれているが、その実妹のニーナは騎士となる道を拒絶した。

同じような混乱が、王国各地の“保守派”領地でも起こったと聞いている。

一時の求心力は得られても、王国の根幹に揺らぎをもたらしたものも、また、戦争を安定の道具とした遣り方でも有ったのだ。

王国の疲弊は、このウォーレス領でさえ例外では無く、それを、まざまざと見せつけられてきただけに、今、起こり始めた変化を肌で感じるのだ。

「強さも豊かさが有ってこそ、なのかも知れぬ。ならば、フィオレが指し示す道は間違っておらぬのだろう」

「子供たちが前へ進もうとするならば、いつまでも儂らが過去に拘っておっては、足を引っ張ることになろうな」

しみじみと言うマルキオに、苦いものを飲み込むような表情でハインズが応える。

ハインズの背中をマルキオが励ますようにバシンと叩いた。

「複雑では有っても、飲み込むところは、飲み込むしか無かろうよ」

「分かっておるわ」

口をへの字に曲げてカップに口を付けようとしたハインズは、いつの間にか中身を飲み干してしまっていたことに気付く。

持ってきた酒瓶も空だ。

「やれやれ。そろそろ儂らは戻るか」

「そうだな」

よっこらせ、と、腰を上げたハインズと共にマルキオも腰を上げる。

マルキオが足元の空瓶を拾い上げ、空のカップを手に提げたハインズがハロルドとフレイアを見下ろす。

「お前たちはどうする?」

「レオノーラと少し話してから戻る」

ハロルドの答えにハインズは静かに頷いた。

「そうか」

「ではな」

娘と娘婿に一声掛けたマルキオは、ハインズと共に背を向ける。

連れ立って領主館へと戻って行く二人の背中を見送ったハロルドが目を戻すと、フレイアは一つの墓標をじっと見つめていた。

姉と慕った従姉と話しているのだろう真摯な横顔を、数秒間、見つめた後、ハロルドもまた墓標へと目を向けた。

墓標に刻まれた名は、レオノーラ・ウォ-レス。

家を空けることも多く、忙しくしていたハロルドに、25年間も寄り添ってくれた愛おしい人は、強く賢く美しい、典型的なウォーレスの女だった。

娘の行く末を案じながら一年前に病でこの世を去った亡き妻の名を心の中で呼んで、ここ数ヶ月間の出来事を思い出す。

嵐のように多くのことが起こった日々は、時間が止まったようなハロルドの停滞を押し流し、元の時間の流れに追い付こうとするかのようだった。

命を終え時間を止めた死者と、命の時間を続ける生者は、同じ場所には居続けられない。

そんなことは、ずっと以前から分かっていたことだ。

最後に残った末娘はまだ幼く、一人の父として、ウォーレスの血を引き継ぐ男として、やらねばならない務めが有る以上は、歩みを止めるわけにはいかない。

愛する人を亡くした場所から動けなかったハロルドも、再び歩み出さねばならない時が来ただけなのだ。

ハインズたちと話し合ったように、ここから多くのものが動き出し、多くのものが変わって行くのだろう。

時間の流れに風化して、いくらか麻痺して痛みは和らいだが、悲しみは今も胸の中に在る。

だが、前を向かねば。

ふと、横顔に視線を感じて、そちらを見ると、姉との語らいを終えたフレイアがハロルドをじっと見ていた。

フレイアは姉とどんな話をしたのだろうか?

色々なもの飲み込んだハロルドはフレイアの頭へと手を伸ばして撫でる。

昔は、こうやって撫でることも多かったが、フレイアが成長するにつれて、気軽に撫でることが出来なくなったのだったか。

照れくさそうにしながらも大人しく撫でられてくれているフレイアに、ハロルドは告げる。

「私たちも戻るか」

「ああ」

腰を上げたハロルドとフレイアは、もう一度墓標たちを見渡してから背を向けた。

墓地から通りへと出たところで足を止めたハロルドは、どうしたのかと隣で見上げてくるフレイアへと肘を差し出した。

「ん」

「ふん」

意味を理解してフッと表情を緩めたフレイアが、ハロルドの肘に手を添える。

頬を染めて視線を逸らしつつも素直にエスコートを受け入れたフレイアを伴って、ハロルドは未だ見ぬ明日への一歩を踏み出した。