作品タイトル不明
拡大家族会議 ⑰ ※アンサンブルキャスト面
「そこが不思議だな。思ったよりも、危険視されてはおらぬ様子ではないか?」
「あれはもう、才能だな。マリッドからの報告では、新領地の民心を早くも掌握したようだ」
「勝負勘は悪くないからな。状況次第で介入するつもりだったが、フィオレ一人で旧領主勢力を処理しきって見せた」
ハインズの疑問に首を振って応えるマルキオに、フレイアもまた応える。
「旧領主勢力の他はどうだ?」
「そう言えば、末端の騎士には、いくらか使い物になりそうな者は居たと思うが」
「恭順を申し出てきたが、フィオレは近いうちに領軍の騎士団で入団試験を行わせるつもりのようだ。己を鍛え直しておけと指示していたぞ」
その場に居なかったハインズとマルキオの問いに、フッと表情を緩めながらハロルドが答えた。
見せしめで脅して自ら従わせ、平等に扱うと安心させると同時に激励する。
あれは良い手だったとハロルドは評価したが、ハインズたちの評価も同様のようだ。
「ほう。度量を見せて、帰ってきたか」
「弱領の騎士と 嘲(あざけ) ていたが、忠誠心を持てば化けるやも知れぬな」
ハインズとマルキオが面白そうに口角を引き上げる。
下位の騎士とは王権に依らず、その土地の領主が地位を与えて雇い入れるもので、その本質は土地に根付いた半農半士の兵士と大差無い。
一口に”王国騎士”と言っても、領主が雇い入れた騎士爵は、領主が王宮へ登録を届け出たものを、王宮を通じて国王陛下が登録の承認をしたに過ぎないのだ。
つまり、爵位を与えたのは領主で有って、陛下ではない。
領地貴族家の末端の騎士程度を、いちいち陛下が任命することなど無く、陛下直々の任命を受ける王都騎士団の騎士に較べれば、同じ騎士爵でも格段に地位が低くなる。
あくまで彼らは「領主の騎士」であって、任命者の領主が失脚すれば彼らの地位も吹き飛ぶ。
領主が騎士爵を与えた騎士の名前を王宮に届け出るのは、有望な人材を領地に引き留めるためで有り、彼らの地位を確定させてやると同時に棒給を与えて食わせる必要が有る。
領主の騎士は与えられた地位を維持するために、領主への奉仕で報いるのだ。
領主と一蓮托生となる彼らの忠誠と信頼を得られるかは、領主の資質に依るところが大きい。
そんな彼らにフィオレは領主の資質を示して見せたようだ。
ルナリアの補佐を務める立場になるフィオレが、ルナリアに助言を与えられるだけの器を示したことは、主家たるウォーレス家の将来にとっても明るい結果だ。
「王都で術式を暴発させた話を聞く限り、自制心に課題があるように思っていたが」
「まだ5歳の娘だぞ? その内、自分で折り合いを付けるだろうさ」
目を細めつつ顎ヒゲを撫でるハインズに、フレイアが呆れた目を向ける。
「誰もが通る道だな。自制心というなら、逆上して一人で突っ込んでいくお前に、何度、 胆(きも) を冷やさせられたことか」
「む。ま、まあ、そうでは有るな」
大昔の話で、今となっては笑い話では有るが、ハインズの右腕として人生の大半を共に過ごしたマルキオに指摘されて、ハインズが目を逸らす。
「心配するな。お前がそうで有ったように、兵の死に心を動かさぬ将になど、兵は付いては来ぬのだからな」
これは忠誠心うんぬんではなく、生物としての生存本能の話だ。
兵を「数」としか見ない将の下では、兵たちは、いつ切り捨てられるかと恐怖に怯えながら戦わねばならなくなる。
恐怖は剣を鈍らせる。
一人の「人」として見てくれる将の下だからこそ、兵たちは果敢に戦えるのだ。
それでいて、将とは、己を信じてくれる兵たちに「死ね」と言わねばならない。
矛盾を孕んでは居るが、こればかりは、将が己の中で折り合いを付けるほか無い。
「ルナリアは、どうだ?」
「今は剣技を磨くのに夢中だな。あれは、あれで、まだ伸びるぞ」
祖父として、元・領主としての問いに、父として、前・領主としての見解をハロルドは答える。
「ルナリアは普段からフィオレに依存している部分が多いが、何だかんだで、大事な場面でフィオレを制御しているのはルナリアだからな」
「フィオレは基本的にルナリアを否定することがない。騎士や兵士の目にも、フィオレがルナリアを立てているように見えているようでな。フィオレの突飛な言動も、分かりやすいルナリアの存在で反発を受けずに済んでいるようだ」
師として、母としてのフレイアの見解に、ハロルドは部下たちの反応を添える。
「互いに補い合っているのだから、あの二人は良い相棒なのだろうよ」
フレイアが出した結論に、ハインズは安堵する。
次代が一人前に育つまで、まだ10年は掛かるだろう。
しかし、展望は決して暗いものではない。
一度は現役から退いた身だが、明るい未来の兆しに、年甲斐も無く血が沸き立つ思いを抱く日が来ようとは。
「そうか。問題は無さそうだな」
「まだまだ伸び代が有るのだ。二人の成長を楽しみにしておくとしよう」
マルキオと笑みを交わしたハインズの目が、立ち並ぶ墓標へと向く。
「ウォーレス家が在る限り王国は滅びぬ。いずれ精霊の下へと還る日にも、父祖たちの前で胸を張れよう」
「御大が精霊の下へ還るのは、まだまだ先のことに見えるが?」
「孫たちの成長を見届けずして、くたばれぬでな」
ニヤリと笑って茶化すフレイアに、ハインズもニヤリと笑って返す。
「しかしまあ、500年もの年月を経てレティア卿の剣が2本とも我らの手に戻るとは、父祖たちの誰もが、夢にも思って居なかったであろうな」
「殿下が居る場所での襲撃事件で手柄を挙げた報奨として、だったか」
「フィオレを王国に繋ぎ止めるための方便では在ろうがな」
マルキオとハインズの会話に待ったを掛けるのはフレイアだ。
「陛下に、そんな思惑が無いとは言わんが、手柄を上げたのは事実だ。フィオレが襲撃部隊を崩してルナリアが始末して見せた」
「戦場における、騎士と魔法術師の連携そのものでは有るな」
近接戦闘に優れた騎士と遠隔戦闘に優れた魔法術師には、それぞれに役目が有る。
制圧掃討が終わらねば戦闘は終わらぬし、魔法術師だけで勝てるほど戦場は楽なものでは無い。
フレイアの言い分は正論だが、あの陛下の考えることだ。
「殿下の両脇をルナリアとフィオレが固めれば、それなりに見栄えがする。それだけでも民は抑えられるはずだ。恐らくだが、陛下の狙いは、その辺りでは無いか?」
ハロルドもまた、ハインズたちと似た見解を抱いてる。
そんなハロルドに、フレイアは呆れたように首を振ってみせる。