軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拡大家族会議 ⑯ ※アンサンブルキャスト面

「それにしても、ポドックか。彼奴も腰の据わらんところが有る男だが、フィオレに好意的ならば“保守派”として腰が据わるかも知れんな」

「それもまた、“利”か」

ハインズが言うように、ポドックという男は悪い男ではないのだが、“中立派”寄りであるために“保守派”の間では軽く扱われる傾向が有った。

ポドック自身がフィオレに価値を認め、“保守派”としての振る舞いを強めるので有れば、アレイオスという、陰働きをも厭わず王国のために働く男を生み出したファーレンガルド家に対する評価のように、“保守派”各家の見る目も変わってくるはずだ。

心中の複雑な思いが表情に表れているハインズが、手にしたカップの中に揺れるワインへと視線を落とす。

「困窮している“融和派”ならば、尚のこと靡くのだろう」

信じ難い。

本当に、信じ難いことだが、認めざるを得ない。

この場にいる全員が同じ思いを抱いているはずだ。

だからこそ、フレイアは敢えて言葉にする。

「このまま進むことが出来れば、これまでに無い、数百年ぶりの結束を王国内にもたらす可能性が有るな」

「大同団結か」

ハインズもマルキオも、ハロルドまでもが唸る。

それこそは、この500年の間、歴代の国王陛下が目指し、実現できなかったものなのだ。

理想、あるいは、願望。

夢想とでも言った方が正しいだろうか。

もちろん、万人にとって等しく幸福な結果など有り得ないことは百も承知だ。

飢えに病。

魔獣に侵略者。

果ては犯罪者に至るまで、この世界は脅威に満ちていて、いつだって死は直ぐ隣に存在する。

それ故に、統治者は“最大数の安定と生存”を目指して四苦八苦し続けてきたのだ。

だが、人間が二人居れば二つの派閥が生まれ、人間が人間で在る限り、争いが無くなることは決して無い。

要は、「まとまらない」のだ。

「最大数の安定と生存」を求めるだけでも、どれほど困難なことか。

「そんなことが可能なのか? と、考えてしまうのは歳を食った証拠か?」

カップを手にしたハインズが、眉尻を下げて夜空を見上げる。

己の老いを思って衝撃を受けたらしいハインズに苦笑しつつ、フレイアが肩を竦める。

「いいや。実のところ、私も夢物語のようにしか思えん。あいつも、そんな理想論なんぞを追い求めているわけでも無いだろうしな」

「それでも可能性は認めざるを得んのだな」

慰めるようなフレイアの言葉にも、ハインズもマルキオも考え込んだままだ。

「死霊系の魔石をスライム避けに、か」

「また突拍子も無いことを言い出した、と、一概に笑えんところが言葉に困るな」

治癒魔法術師量産計画などという、大仰な名前の企みだけでも王国内外に靡く者は増えるだろうが、スライム避けの研究が実を結べば、領地経営に苦しんでいる貴族家だけで無く、生活の向上に直結する王国中の民草がフィオレの下に結集することだろう。

「闇属性の魔力が健康に悪い影響を及ぼさないのであれば、食料生産能力が飛躍的に上がって王国の大きな力となろう」

「ならば、乗らぬ手は無いな」

ハインズとマルキオが顔を見合わせて頷き合う。

民草を掴まれては、派閥を問わず、領主貴族もフィオレを無視できなくなる。

いや。フィオレはテレサとアマリリアを通じて流布する意志を示しているのだから、王家の求心力回復に大きく寄与することは間違いない。

前向きになったらしい義父たちの姿に、フレイアが明るい声を上げて見せる。

「だが、何か有ってからでは遅い。数年間は採れた作物の全量を輸出に回して、本当に悪影響が無いかの経過を見るつもりだ」

「それが良かろう。害があっては民心が揺らぐでな」

ハインズとマルキオが情報を消化しきったことに安堵を覚えたハロルドは、軽くなった肺の空気を吐き出して中天の月を見上げる。

「魔石の使用方法も、そうだったが、思い込みによる見落としというものは、存外に多いものなのだな」

「血液のこともな。忌まれてきた“吸血種”などに向けられる目も変わるかも知れぬ」

ハロルドにハインズが応じる。

ハインズが吸血種で例えたことに特別な意味がないことを、ハロルドたちは理解している。

古くから有る根強い誤解は、思い込みと言うより、迷信の類いでも有ったのだろう。

変わったもの、未知なるもの、己の常識から外れたものへの恐れに風説が加われば、簡単に迷信が出来上がることなど容易く想像できる。

獣の血、然り、魔石の魔力、然り、死霊系の魔石、然り。

誰も試そうとしなかったということは、己の足元が見えていない証拠でもある。

剣を振る身に置き換えてみても、“気付き”一つで大きく技量が伸びることがある。

気付いて“知る”ことが己を伸ばすのだ。

フレイアやフィオレのように、未知を想像で補ったりせず自分たちの手で試して確かめれば、無知や迷信に惑わされずに済む。

新たな発見があれば、そこから見えてくる景色も、きっと変わるはずなのだ。

「治癒魔法術師の件もだな。殿下の助言があってのこととは言え、フィオレ自身が短期間で治癒術式を習得して見せた上に、教えを受けた者たちの術式発動成功率は驚くべき高さだった」

「塩と干し肉の国内供給に、治癒魔法術式習得方法の開示。更には、スライム避けの研究成果までも開示するとは、“利”を追い求める貴族家の常識では考えられんことだ」

ハインズとマルキオが数え上げ、改めて唸る。

「過去に縛られた儂らだけでは、踏み切る決断は出来なかっただろう」

「子供に教えられることの、何と多いことか」

フィオレの「思い付き」から「気付き」を得てハインズとマルキオが至った結論を、ハロルドが反芻する。

「それで、“変わるべきとき”、か」

「そう思わせるだけの説得力は有るだろうよ」

誰に言うでもなくハロルドの口から漏れた言葉にフレイアが応える。

“息子夫婦”の姿に安堵を覚えつつも、ハインズが今後の懸念を口にする。

「ただ、人を動かす力は有るが、施すばかりでは甘いように見られんか?」

「甘そうに見えて、自分たちの取り分は、しっかりと押さえていると思うが」

「あいつは、あのぐらいで良いんだ。知恵が回りすぎても敵を作る」

ハロルドとフレイアから返った答えに、ハインズが首を傾げる。