軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拡大家族会議 ⑫

お母様の頑なな拒絶は、きっと、大好きだった人への“義理立て”なのだろう。

きっと、お母様は、同じ戦場で死んでも構わないぐらいにハロルド様を愛していて、それでも、大好きだった“お姉様”の旦那様を奪う罪悪感を忌避しているのだと思う。

そうでも無ければ、自分がボロボロに傷付きながらも、ハロルド様の本隊を最前線に立たせず背中に隠し続けるような戦い方なんて、しなかったはずなのだ。

前線でのお母様の様子を聞いて、そう感じた。

お母様が宝物庫でルナリアに言っていたように、蓄積した疲労が剣を鈍らせるものなら、話に聞いた西部地域でのお母様の戦い方は自分の命を削るようなものだもの。

余程の“思い”が無ければ、自殺行為にも見える戦い方に妹同然のエゼリアさんたちを巻き込むことなんて、お母様なら、しない。

お母様のその思いを知っているからこそ、エゼリアさんたちは蓄積した疲労の中でもお母様を支え続けたのだろう。

でも、お母様とハロルド様が愛し合うことになったとして、大切な故人への思いが二人の中から消えて無くなるものだろうか?

私だったら、大切な人たちを残して自分が居なくなるなら、大切な人たちを任せられると信じる人に、後を託したいと考えるのでは無いだろうか?

自分のことを覚えていて欲しいと願うにしても、どこの誰かも分からない他人に後を任せるぐらいなら、信頼する人に任せたいと願うに違いない。

そうして、私は残していく人たちの幸せを祈って逝くのだろう。

戦場に立ち続けて、いつ死ぬか分からないウォーレス血族の歴史は、そうやって連綿と紡がれてきたもので、みんな同じ思いだったのだろうと思う。

きっと、レオノーラ様も、そうだったのだろう。

だから、レオノーラ様のためにも、お母様自身のためにも、お母様は幸せにならなきゃいけないし、ハロルド様とルナリアを幸せに出来るのはお母様しか居ないのだと私は思う。

こんなの、私の勝手な想像だし、故人の思いがどうだったかなんて、故人とお会いしたことも無い私には分からない。

「そうね。貴女は今までよく頑張ってくれたわ」

「フレイア。もう、意地を張る必要は無いでしょう? すでにピーシス家はフィオレへと承継されたのだから、貴女は貴女の幸せを掴みなさい」

セリーナ様もお婆様も、お母様の思いに報い、解き放とうとしている。

そのセリーナ様とお婆様の思いは私が抱いている思いでも有る。

「・・・ハロルド様とルナリアにもです。幸せになって欲しいんです」

「いや。だが、私は・・・」

ハロルド様もだ。

領主執務室に我が物顔で居座るお母様を、ハロルド様は、ずっと許してきた。

ハロルド様もお母様のことが大好きで、お母様の気持ちにも気付いていたけど、亡くなった奥様への思いと義理立てとの狭間で苦しい思いをして来たはずなのだ。

そうでも無ければ、破天荒で礼儀もかなぐり捨てたようなお母様の不器用な甘え方を、黙って受け入れていたりしなかっただろう。

ハロルド様は鈍感な人では無いし、義理堅い誠実な人だから。

ルナリアが、不安そうに、泣き出しそうな声を上げる。

「叔母様は、わたしのこと嫌い?」

「そんなわけが無いだろう」

即座に首を振るお母様に、セリーナ様が優しい目を向ける。

「フレイア。ハロルド、貴方もです。レオノーラのことを忘れろと言っているのでは有りません。ただ、もうそろそろ前を向いても良いでしょう」

「前を、か・・・」

目を伏せたハロルド様が噛みしめるように反芻する。

座っていた椅子からエゼリアさんが腰を上げた。

「セリーナ様。発言を、お許しいただけますか?」

「ええ」

新たな義娘となるエゼリアさんに優しい目を向けたセリーナ様の許可を得て、エゼリアさんがお母様へと向き直る。

「フレイア様?」

「何だ」

絶対的な信頼の絆で固く結ばれた“姉妹”が、互いに落ち着いた声を交わす。

「頃合い、なのでしょう? 私たちも、フレイア様の幸せを見届けてからでないと、安心して嫁になんて行けませんよ。ねえ? アンリカ」

「エゼリア・・・」

やはり、共に死線を潜ってきた“妹”の言葉は、誰のものよりも心に届くものらしい。

同等の信頼で結ばれた「姉妹」へとエゼリアさんが穏やかに笑い掛ける。

「そうね。どこの馬の骨かも分からないお嬢ちゃんにハロルド様を取られたら、その方が、レオノーラ様がお怒りになると思いますよ。ね? みんな」

「アンリカ・・・」

優しい目でニコリと笑うアンリカさんの目が、居並ぶ「姉妹」たちへと向けられる。

「レオノーラ様も、安心してくださるでしょう」

「トリア・・・」

いつも通りの落ち着いた声でトリアさんが背中を押す。

「そうですね。むしろレオノーラ様なら、グズグズするな、ってお怒りになりますね」

「エレーナ・・・」

トリアさんの後を引き取ったエレーナさんが、さらに背中を押す。

ルナリアのお母さんって、そんな感じの人だったのか。

まあ、ウォーレス女性だもんね。

お母様が「姉様」って慕うほどの人なら、“強い人”だったに違いない。

「そうですよ。私たちも嫁に行かせないつもりですか?」

「イディア・・・」

脅しのような言い方で、イディアさんがニコリと笑う。

「そうそう。フレイア様には先に結婚していただかないと」

「マキアナ・・・」

優しい目で笑いながらマキアナさんがイディアさんに同調する。

「私たちの“長女”なんですから、幸せになってお手本を見せてください」

「ディーナ・・・」

エゼリアさんたちの中でやんちゃな末っ子扱いされているディーナさんが、ニッと笑って励ます。

「フレイア様? これで”姉様”も、ようやく安心して眠れることでしょう」

「ノイエラ・・・。イリーナ・・・」

本当に静かな声で告げたノイエラさんが、ふっと微笑む。

姉妹で有り戦友でも有るお母様とエゼリアさんたちの絆が、とても深くて固いものなのだと私の心にも響いてくる。

イリーナさんって誰だろう?

その名前を聞いたお母様が、くしゃりと表情を歪めた。

お母様の頬を、涙が伝い落ちる。