軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拡大家族会議 ⑬

「・・・お母様」

ノイエラさんの言い方から察して、恐らく故人なのだろう。

そして、ノイエラさんのお姉さんだったのであろうイリーナさんという人も、お母様にとってレオノーラ様やエゼリアさんたちと同じぐらいに大切な人だったことが、お母様の流す涙から察せられる。

ノイエラさんはお母様の騎士だ。

ノイエラさんのお姉さんなら、イリーナさんもお母様の騎士だったのだろう。

そっか・・・。

お母様は戦場で大切な人を失った経験が有ったんだね。

王城の訓練場で魔法道具の起動実験をしていたとき、前日、王都の街を焼きかけた私に、お母様は「身近な者が倒れることもある」と諭した。

目の前で大切な人の命を奪われたりすれば、お母様がどんな行動を取ったかなんて簡単に想像が付く。

がさつで大雑把なように見えて、お母様は繊細で思いやりのある人だもの。

きっと、荒れ狂って、仇を討って、悲しんで、そして苦しんだはずだ。

だから、アンリカさんが刺された事件で、やらかした私を強く叱らなかったのか。

お母様は、怒りに我を忘れた私の心情を、誰よりも理解していてくれたんだ。

きっと、思い出すのも辛かったはず。

自らの辛い教訓を私に教えてくれたお母様と同じ轍を踏むような真似を、絶対に私は、してはいけないのだと心に刻む。

堪らない感じに目をうるうるとさせたルナリアが、拳を握って腰を上げたと思えば、持ち前の機動力を発揮してお母様のお腹へとダイブした。

「叔母様! お母様も、きっと喜んでくださるわ!」

「そう、なのだろうか・・・?」

ルナリアを受け止めたお母様が、全力で訴えるルナリアの背中を抱きしめて良いのか迷うように両手を彷徨わせる。

じっと見守っていたハインズ様は我慢の限界を迎えたようで、ご自分の膝をバシリと叩く。

「ええい、ハロルド! 男なら、シャキッとせんか!!」

窓ガラスをビリビリと震わせるハインズ様の大喝に、呆然とお母様たちのやり取りを見つめていたハロルド様がハッと息を呑んだ。

目を閉じて様々な思いを飲み込むようにしたハロルド様が、静かに瞼を開いてお母様へと向き直った。

「フレイア。私の妻になってくれ」

「ハロルド・・・」

決意が籠もった決定的なハロルド様の一言に、お母様が目を瞠る。

堪らなくなった私もルナリアの上からお母様を抱きしめる。

全身に伝わってくるお母様の温もりと匂いに、心を込めて言葉を紡ぐ。

「・・・お母様。幸せになって」

「フィオレ・・・」

お願い。伝わって。

私に幸せをくれたお母様だからこそ、私はお母様にも幸せになって欲しい。

回されたお母様の手が私の背中を抱く。

迷い? 恐れ、だろうか。

お母様の手の細かく震える感触が、胸の内の心情を伝えてくる。

「フレイア。今まで、本当によく耐えてくれた。父として誇りに思うぞ」

「父様・・・」

染み入るような優しい声で、お爺様が労う。

私の背中に回されているお母様の腕に力が入ったのが感じ取れた。

「フレイア」

「母様・・・」

背中を押すお婆様の優しい声に応えるように、私の体に添えられていたお母様の手に力が籠もったのを感じる。

「叔母様! 私のお母様になって!」

「ルナリア・・・」

見上げてくるルナリアの目を受け止めて、迷いを見せていたお母様の腕がルナリアの背中を抱いた。

ぽろぽろとお母様の頬を大粒の涙が伝い落ちてくる。

「フレイア。受け入れてくれるか?」

「はい」

穏やかな笑みでコテリと首を傾げるハロルド様に、柔らかな笑みでお母様が答えた。

間近で顔を見合わせたルナリアと私は頬を寄せ合い、全身でギュッとお母様を抱きしめた。

「「「「「やった―――ッ!!」」」」」

私たちの声とエゼリアさんたちの声が重なった。

喜びと祝福の大きな声がティールームに満ちて沸く。

難しい話とストレスばかりが積み上がった日々は、こうして幕を閉じた。

バタバタと追い立てられるように忙しくしなければならない日々は、これからも変わらないのだろうけど、きっと大丈夫。

きっと、みんなで乗り越えていける。

そう信じられる。

家族会議の後の祝勝会と慰労会と婚約祝いを兼ねた晩餐は、エゼリアさんたちも一緒になって賑やかに―――、というか、バカ騒ぎとなった。

溜まりに溜まった疲労に、野営食ではない暖かな食事を思う存分堪能し、祝い酒まで浴びるように飲んだものだから、最後は、みんなバタバタと潰れてメイドさんたちに搬出されていったらしい。

早めにお暇したルナリアと私も、メイドさんたちの手で洗浄されながら、こっくりこっくりと船をこぎ始めて、洗った髪を乾かされている頃には椅子に腰掛けたまま完全に寝入ってしまったようで、朝、目を覚ましたらルナリアの部屋のベッドの中だった。