軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拡大家族会議 ⑪

いつもと違う配置で座る場所を指定された思ったら、セリーナ様は、最初から、これが目的だったのか。

ルナリアの隣に座っていたノーアはと言えば、サッとお婆様の手で回収されて、膝の上へと移設済みだ。

雷が落ちるのかとガクブルしているルナリアだけでなく、私もヒヤヒヤしていたら、セリーナ様は叱り付けるのではなく、やれやれとばかりに首を振った。

「全く・・・。フィオレの機転で恥をかかずに済んだそうだけれど、親族の名前も覚えていないなんて」

「ううっ。ごめんなさい!」

鷲掴みされたまま涙目で謝るルナリアに首を振って見せながらも、セリーナ様のお小言の向かう先はルナリアでは無かった。

「本来、母親が教えるものだけれど、母親が居ないと不備が出るのかしらね? フレイア」

「(―――ハッ!! セリーナ様!! この流れは!?)」

「なぜ、私に言う?」

私の隣に座っているために、セリーナ様の意図を察して目を輝かせる私にお母様は気付いておらず、お母様はセリーナ様から投げ付けられた苦情に対して、怪訝な顔で疑問を返している。

この流れは、絶対に“あの流れ”だ!

セリーナ様は私と話した計画を実行に移そうとしてくれている!

「肩の荷も降ろしたのだし、そろそろ結婚しなさいな」

「待て。いきなり何だ」

キターッ!!

乗るしか無い!! このビッグウェーブに!!

身を乗り出した私は、人生最速を確信する速度でシュバッと手を挙げた。

「・・・私もルナリアには、まだお母様が必要だと思います!」

「フィオレ? ルナリアには?」

「ん?」

私へと怪訝な目を向けるお母様には、「よく出来ました」と言わんばかりに、満足そうに頷いているセリーナ様の姿が見えて居らず、鷲掴みから開放して貰ったけど自分の名前が出て私へと目が移ったルナリアにも、満足そうに頷いているセリーナ様の姿が見えていない。

早く気付いて、ルナリア! 航空支援を要請する!

なんだかんだで可愛がっていてルナリアに甘いお母様に、“お願い爆弾”を投下するんだ!

お母様の防衛態勢に揺さぶりを掛けるためか、抵抗を示したお母様からセリーナ様はさっさと目線を移して、攻撃目標をよく出来た息子へと変更する。

「ハロルド。フレイアを後妻に迎えなさい」

「―――はっ!!」

「はぁっ!? ちょっと待て、母上!」

ピンポイントに精密爆撃を敢行したセリーナ様の“そのものズバリ”の言葉で、ようやく状況に気付いてくれたルナリアが、セリーナ様との応戦状態に入ったハロルド様に向けて横合いから 吶喊(とっかん) を開始する。

「お父様! お父様は、叔母様のことが嫌いなの!?」

「えっ! なっ!? そ、そんなわけが無いだろう!」

思わぬ伏兵に急襲されて本陣へ斬り込まれたハロルド様が混乱に陥っている内に、ルナリアが致命的な追撃を加えた。

「じゃあ、好き!?」

「うっ! あ、ああ、好きだぞ! フレイアは私の妹のようなものだからなっ!」

ヨシ! 言質は取った!

偉いよ! ルナリア!

防御を完全に崩されたハロルド様が“論理のすり替え”で窮地から離脱しようと試みるけど、逃がさないよ!

突然の大規模攻勢で呆気に取られているお母様を私が急襲する。

「・・・お母様も、ハロルド様のこと好きだよね?」

「えっ? あ、ああ。―――、あっ!」

連携技で遊軍と化した私に意表を突かれてお母様がポロリと本音を漏らした。

攻略目標が晒した大きな隙を見逃してくれるほどセリーナ様は甘く無い。

一族内世論の共通認識を再確認させるようにズバリと指摘して外堀を埋めに掛かる。

「お互いに好意は持っているのね」

「なら、構わないでしょうに」

「待て待て待て! 何で、こんな話になっているんだ!?」

ここぞとばかりに逃げ道を塞ぎにお婆様までもが参戦したことで、戦況の不利を察したお母様が防御態勢を再構築すべく戦線離脱を試みる。

しかし、エゼリアさんたちまで頷いていて包囲網は既に完成しつつある。

「さっきも言ったでしょう。ルナリアには、まだ母親が必要だからよ」

醸成された世論は包囲網の完成阻止を企図したお母様の撤退戦を許さず、しれっと言い放つセリーナ様の攻勢に、同意したみんなが頷いていて援軍は現れそうに無い。

「そ、それは・・・!」

「私は結婚しないと前にも言ったはずだぞ!」

完全に押し込まれた圧倒的不利を自覚したハロルド様が言葉に詰まり、窮地に追い込まれたお母様が強行突破で包囲網からの脱出を図る。

でも、お婆様は追撃の手を緩めない。

「以前とは状況が変わったでしょう。もう貴女たちは隠居したのだし」

「フィオレに全てを押し付けて、母親の私が責任を放り出すような真似ができるか!」

うん? お母様の気持ちは嬉しいし、有り難いけど、そこは指摘せざるを得ないな。

「・・・お母様が結婚すると、お母様は私のお母様じゃ無くなるの?」

「そんなわけ有るか! お前は私の娘だ!」

断言するお母様の言葉が、めちゃくちゃ嬉しい。

どこにも行き場の無かった私は、もう、どこにも居ないんだ。

涙が出そうになるけど、グッと堪える。

「・・・お母様が結婚して家名が変わることになっても、私にとっても、お母様は私のお母様だし、同じ家の中にいて何も変わらないのであれば、何も問題は無いよね? 元々、ウォーレス家とピーシス家も親子みたいなものだし」

家名を守って血を繋ぐ、という意味では、私というイレギュラーは、アスクレーくんというミリア叔母様の血をピーシス家に戻すことでイレギュラーでは無くなる。

家名というカテゴリーでは、ピーシス家におけるお母様の役目は無事に果たされて、お母様がウォーレス家にカテゴリーを変えたとしても、人間関係にも変化は起こらないし、何の問題も無いのだ。

後は、お母様とハロルド様の気持ちだけ。

互いの気持ちでも、お母様とハロルド様は好意を抱き合っている。

お母様たちが自分の気持ちを抑える理由なんて、故人への思いしか無いはず。

「フィオレの言う通りでしょうに」

「そうでは無くてだな!」

ええい、往生際が悪い!

声を荒げて抵抗を諦めないお母様に取り付いて、ここは私が降伏勧告の使者を務めるしか無いだろう。

「・・・お母様!」

「フィオレ?」

大きな声を出すことが少ない私の大声に驚いたのか、抵抗を停止したお母様が隣に座る私を見下ろしてくる。

分かって、お母様。

お母様の心に届くように、私も心を込めて言葉にする。

「・・・家がどうとかじゃなく、みんな、お母様に幸せになって欲しいんだよ」

「―――ッ!」

驚き。あるいは、痛み、だろうか。

心の傷に触れる言葉にお母様の顔が辛そうに歪んだ。