作品タイトル不明
拡大家族会議 ⑨
「取り急ぎ、決めておかねばならんことは、このぐらいか?」
ハインズ様が家族会議を締めに掛かりそうな雰囲気を出したので、慌てて手を挙げる。
「・・・あ。もう一つ、お聞きしておきたいことが」
「何だ?」
ハインズ様だけでなく、全員の視線が私へと集まった。
「・・・王妃様とカレリーヌ様がレティアへいらしたときには、どこに滞在される予定なのでしょうか?」
大人たちが揃って意表を突かれたように目を丸くする。
すぐに再起動したのはお爺様だ。
「どういうことだ?」
「・・・王城に滞在したときに王妃様の居室へお邪魔したのですが、かなり広いお部屋だったと思い出しまして。心配になったと言いますか・・・」
「すごく広かったわね!」
ルナリアも同意して、大人たちが互いに顔を見合わせる。
首を傾げながら、ハインズ様が意見を求めるようにお母様を見る。
「領主館の貴賓室―――、では狭いか?」
「アマリリア様の、あの部屋の広さは、王城内でも迂闊に出歩けないせいだと思うが」
室外へ出ると危険だから、室内で歩き回れる広さがある?
そんな風には考えていなかったな。
動物園の檻じゃないんだから、と、部屋の在り方そのものに嫌な気分にさせられる。
でも、お母様の言い方だと、あれが標準の広さってことではないのか。
そう言われると、私たちが滞在させて貰った部屋も、レティアのルナリアの部屋とそんなに変わらない広さだった。
「どのぐらいの広さだ?」
「ここの食堂の倍はある」
「そこまでの広さは、この領主館の中では用意できんな」
お母様の所見にハインズ様が難しい表情をする。
記憶を探るようにお母様が首を傾げた。
「公爵家に居た頃のアマリリア様の部屋は、もっと小さくて普通の広さだったぞ?」
「リヒテルダートも武家ですからね。過度な贅は好まないのよ」
「ええ。部屋の広さを気にする必要は無いと思いますよ」
当時の部屋を知っているらしいセリーナ様とお婆様も、お母様に同調する。
私の懸念を分かってくれたのはお爺様だ。
「しかし、随行人員も多かろう。御一方の滞在なら問題なくとも、同時に複数となると手狭になるかも知れん」
「領主館を増築―――、いや、別棟を建てるか?」
腹心のお爺様が懸念を表明したことで、ハインズ様が対応策を検討し始める。
別棟かあ。
“離れ”みたいな意味だろうけど、解決策として、どうなんだろう?
「要らんだろう。変に離宮のようなものを用意しても警備上の問題が増える」
「ああ。移動時を狙われやすくなるだけだ」
お母様とハロルド様は否定的、と。
そっか。国家の要人だから護衛の問題も付いてくるのか。
私は部屋の広さで窮屈さを感じるんじゃないかと心配したけど、私としても、別棟に隔離するような対応策には疑問を感じてしまうな。
「・・・王妃様もカレリーヌ様も、セリーナ様とお婆様の近くに居られた方が安心されると思います」
「そうね。領主館の外に滞在していただくのは私も反対だわ」
「近くに居ていただいた方が良いでしょう」
「ならば、不足が出るのは傍付きの部屋か?」
私の意見がセリーナ様とお婆様の賛同を得て、ハインズ様が再確認に掛かる。
問題点はお爺様が指摘した随行人員の人数が多いだろうことの方らしい。
部屋の大きさに問題が無いのなら、気を使うべきポイントは、心理的な不安に晒され続けてきたであろうお二人の精神衛生面だと思う。
「アマリリアの侍女は貴族家の令嬢ばかりだから、相部屋というわけには行かないわね」
「王都騎士団も駐留を排除するわけにも行くまい」
「うむ。100や200は館内に置く必要は有ろう」
「むぅ。確かに部屋が足りぬか?」
今度は、セリーナ様、ハロルド様、お爺様、と、立て続けに所感をぶつけられて、いよいよハインズ様が渋面になる。
レティアの領主館は、元々、砦として建てられたもので、建物が持つ本来の目的が失われたわけでも無いのだから、仕方のないことでは有る。
部屋の広さや賓客用の部屋数が足りるかどうかなんて蛇足の部分だから、私も心配になったのだし。
「兵員宿舎を新たに建てて、兵員区画の一部を領主館の外へ移すのはどうだ?」
「それなりの長期逗留ともなると、王都からの護衛部隊も訓練場で野営しろとは言えんな」
お母様の提案にお爺様が補足を入れて、ハインズ様は思考を切り替えたようだ。
「護衛部隊の想定は、どの程度と見る?」
「1000騎は付くだろう」
「ふむ。多めに見積もって2000―――、いいや、3000は収容できる宿舎が必要になりそうだな」
ハロルド様の予測にハインズ様は見積もりを始めた。
これが指揮官の判断力か。
横合いから見ていて、すごく勉強になる。
挙げられた意見を汲み取って、ハインズ様は、もう具体的な対策の組み立てに掛かっている。
お母様が見積もりに指摘を入れる。
「領軍の増員も計画があるだろう。領民に仕事を与える意味でも宿舎の建設は必要だぞ」
「ならば、どの程度、建てさせる?」
「最低でも5000。出来れば1万、か?」
お母様の指摘は、恐らく、エクラーダからの流出民も念頭に置いたものだろうね。
言葉に出さなくてもお母様の意図を汲み取った数字が、ハロルド様から示される。
急に数字が大きくなってハインズ様の渋面が酷くなった。
ハインズ様の表情に、お母様が苦笑しながらヒラヒラと手首を振る。
「今すぐに全部は要らん。宿舎は必要に応じて、順次、建てていけば良い」
「そうだな。民に仕事を与えたところで、一度に建つわけでも無い」
ハロルド様も助け船を出して、ハインズ様の渋面が少しだけ緩んだ。
方向性が見えたとばかりにお爺様が纏めに入る。
「いよいよ、レティアの拡張を考えねばならなくなるが、万一を想定した方が良かろう。悪くないのでは無いか?」
「50棟は建てねばならんか」
ハインズ様も腹を括った様子で、諦めたように首を振る。
1万人で50棟ってことは、1棟に200人計算かな?
実物の中は見たことが無いけど、戦争映画に出て来る兵舎って20人部屋ぐらいだよね?
てことは、1棟10室で、1フロア5室の2階建てぐらいだろうか。
「やれやれね。城壁まで動かすとなると大仕事になりそうだわ」
「500メテルも動かせば済むでしょう」
いつも通りハインズ様を補佐するつもりの様子のセリーナ様が肩を竦めて、苦笑を浮かべたお婆様がセリーナ様を宥める。